全国から治療のために子どもがやってくる病院のすぐそばで滞在施設を運営するNPOがいます。治療のために家族と離れて暮らす人のための施設で「第二の家」になっています。「病気や障がいのある子どもたちとその家族に寄り添い、安心して治療に専念できる日本一の施設でありたい」。(JAMMIN=山本 めぐみ)
病気や障がいのある子どもとその家族を支援
神奈川県横浜市にある患者家族のための滞在施設「リラのいえ」。運営する認定NPO法人「スマイル・オブ・キッズ」は、「愛する子どもたちのために」という理念のもと、病室には入れないきょうだい(病気の子どもの兄弟姉妹)を預かるきょうだい児保育、患者家族の交流の場の提供も行っています。
「地元では困難な治療や手術のために、全国各地から患者さんが来られます。地元を離れ、家族と離れ離れの生活で不安を抱えているご家族が、第二のわが家のように、安心して過ごせる空間を提供したい」と話すのは、「リラのいえ」施設長であり団体理事の佐伯(さえき)トシコさん(78)。
「私たちは医療関係者ではありませんが、普通の人だからこそ、近くにいることでご家族の気が晴れたり、力になれることもあると思っています。私たちに何か解決できるわけではないし、お話を伺うことしかできませんが、『おかえりなさい』とか『今日は寒かったでしょう』という声がけや、何気ない会話を心がけています」
「1〜2日の滞在の方も中にはいらっしゃいますが、遠方から来られるご家族の多くが、1〜2週間、長いと数ヶ月〜1年単位で滞在されることもあります」と話すのは、事務局の谷畑育子(たにはた・いくこ)さん(45)。
「宿泊費は一泊1000円。付き添いのためにホテルやマンションを借りると経済的な負担も増えてしまうので、そこも少しでも軽減できたらという思いがあります。ここはまるで実家にいるような温もりがあって、心がほぐれます。置いてあるもの一つひとつにもスタッフやボランティアさんの愛情が溢れているし、関わってくださる方たちが、とにかくすごく温かいんです」
「ご家族に寄り添う、日本一の滞在施設でありたい」と佐伯さん。
「宿泊される方をもてなすために、開所以来、生花は欠かしたことがありません。庭の花壇も整えていて、近隣の方も心が和むとおっしゃってくださいます。人が手入れして育ててくださった花だけでなく、手作りのキルトや絵、メッセージボード…出来合いのものにも一手間加えて、温もりを感じられるよういしています」
入院中、きょうだいさんや家族が安心できる「きょうだい児保育」
「リラのいえ」をオープンしたのが2008年6月。半年後の翌年2月からは、入院や通院する子どもの兄弟姉妹を預かる「きょうだい児保育」もスタートしました。
「近年はきょうだい児支援にも注目が集まっていますが、当時は『親御さんも大変だけど、きょうだい児も我慢して当たり前』というところがありました。病気のお子さんに対しては『大変だよね』という意識になるのですが、きょうだいさんにまではまだまだ意識が届いていなかったんです」
「親御さんが病気のお子さんに付き添っている間、きょうだいさんの預け先もありませんでした。きょうだいさんのこと、お母さんのことになるともっともっと後回しになって、最後、お母さんは倒れるまでがんばってしまうようなところがありました。そのような状況を目の当たりにして、きょうだい児保育をスタートしました」
「リラのいえ」のきょうだい児保育では、病気の子だけでなく、きょうだい児に対しても「あなたのことが大切だよ、気をかけている大人がいるよ」ということをきちんと伝えたいと、子ども一人に対して保育士が一人つき、一対一で手厚く接することにこだわってきたといいます。
「横浜市の認可外保育施設として認証を受けており、専門の知識を持つスタッフが保育室として開けていることが、親御さんにとっても安心につながると思っています」
「きょうだいさんにとっては『待たされた』ではなく『楽しく過ごした』という経験、大人がしっかり自分に向き合ってくれたという経験が、きっと成長の土台となって大人になってからも生きてくると思います」
「もし自分の家族が同じように病気になったらと思うと、他人事ではなかった」
「リラのいえ」開設から遡ること9年、1999年に、自宅の一部に患者家族の滞在施設「よこはまファミリーハウス」を開設した佐伯さん。なぜ、この活動を始められたのでしょうか。
「私は37年間、事務職として病院に勤務し、手術や入院のために遠方から来られる子どもとそのご家族に会う機会がありました。もし自分の家族が同じように病気になったらと思うと他人事ではなく、『自分に何かできないだろうか』と感じていました」
「身内の子が白血病になって、私の家に住み込みながら神奈川県立こども医療センターに通院し、その後元気になったこともあって、『いつか、病気のお子さんの家族が滞在できるような場所ができたらいいね』という話を主人ともしていたんです」
「1999年に自宅を建て替える際、主人が『(滞在施設を)やるんじゃないの』といってくれて。当時、都内に1つだけあった滞在施設を見学させていただき、自分なりにあれこれ思案して、自宅の2階を『よこはまファミリーハウス』として開放しました。必要なものはリサイクルショップをいくつも回って手に入れて、本当に楽しく始めさせてもらったんです」
当時はまだ病院の職員だった佐伯さん。団体や個人名を出すということはなく、病院の相談室を窓口として、細々と活動していました。しかし次第に満室になることが増え、「一部屋でもふた部屋でも増やして全国からやってくるお子さんとご家族の負担を少しでも軽くしたい」と思っていた時に「リラのいえ」の立ち上げに携わることになり、現在に至っているといいます。
自宅を滞在施設にするほどにまで、佐伯さんを駆り立てたものは何だったのでしょうか。
「誰に頼まれたわけでもないし、自然な流れでこうなったというか、これが自分の人生のレールだったのではないかと思います。がんばっているつもりもないし、がんばらないから今日まで継続してくることができたと思っています。なぜこれだけできるの?とおっしゃっていただくこともあるのですが、家族だと思うと、これだけやるなんて当然というか、平気なんです」
「育った環境、親の影響はあるかもしれません。私は岩手の田舎の出身なのですが、私が小学校3、4年の頃、歩いて峠を越える道中だという方が、突然家の戸を叩いて『泊まらせてくれないか』と。どこの誰かもわらない、見ず知らずの方を家に泊めて心を込めてもてなしていた親の姿が記憶に残っています」
たとえ亡くなってしまっても、経験した「楽しい思い出」をともに語れる場所
「『リラのいえ』の必要性は、滞在できる場所ということももちろんそうですが、お子さんとの楽しかった思い出を共に語れる人がいる場でもあって、グリーフケアの役割もあると思っています」と佐伯さん。遺された家族が「子どもに対して、自分は満足できる接し方ができたんだ」という自信を得て、前を向ける場でもあると話します。
「お腹の中にいるときに病気がわかり、長くは生きられないと告知を受けながらも、出産を決めて施設に滞在されたご家族がいます。赤ちゃんが生まれてからは、お父さんは毎朝、通勤前に病院へ寄って、お子さんに会ってから職場に向かい、夜はここに戻ってくるという生活を送られていました」
「長く生きられないということがわかっていても、明るくお子さんに接されていた姿が印象に残っています。お子さんは、ご自宅に戻られた数ヶ月後に亡くなったと聞きました。亡くなった後にここにきてくださり、お子さんとの楽しい思い出を語ってくださいました。『この場所があるからこそ、こういう関わりが持てた』とおっしゃってくださり、その後もイベントなどで関わりを持ち続けてくださっています」
「最期はご自宅で過ごされることが多いので、私たちはある意味、元気な姿しか知りません。それでも亡くなった後、亡くなったことまで知らせていただいて、『リラのいえがあってよかった』『良い時間を過ごせました』とおっしゃっていただける。この活動ができて本当によかったと思える瞬間です」
団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「スマイル・オブ・キッズ」と5/16〜5/22の1週間限定でコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、「リラのいえ」に滞在中の家族に温かくおいしい食事を届ける「スマイル・ミールサポート」のための資金として活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインには、大きな木の下に、暖かな焚き火とそこに集ういのちを描きました。夜を照らし、温もりをくれる焚き火と、包み込むようにそびえ立つ木は「リラのいえ」を表すものとして描いています。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!
・「愛する子どもたちのために、家族に寄り添う日本一の施設でありたい」。病気や障がいのある子どもとその家族を支える〜NPO法人スマイルオブキッズ
山本めぐみ(JAMMIN):
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,000万円を突破しました。