「動物が動物らしく、その子がその子らしくいのちをまっとうできるように」。日本語教師として来日したイギリス人の女性が、32年前に立ち上げたNPOがあります。劣悪な環境にある動物を保護し、新しい里親に引き渡す活動を行ってきました。年に一度、自然豊かなシェルターで開催される里親さんたちの同窓会を取材しました。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「譲渡する時は不安。今日、愛されている姿を見られて本当に嬉しい」

犬たちとの久々の再会に嬉しそうな表情を浮かべる、アークを立ち上げたエリザベス・オリバーさん(写真右)

57年前、日本語教師として来日したイギリス人のエリザベス・オリバーさん(82)。

1990年に「アニマルレフュージ関西(ARK・アーク)」を設立し、さまざまな事情を抱え行き場を失った動物を保護し、心身のケア、社会化トレーニングをした後、里親を探す活動をしながら、日本、また世界の動物福祉向上のためにも活動してきました。

10月末、兵庫・丹波篠山にある「篠山アーク」で、譲渡した犬と里親さんたちの年に一度の同窓会が開催されると聞き、取材に伺いました。

アークはこの32年間で、4,243頭の犬、2,093匹のねこ(2021年12月末時点)、そのほかにもうさぎやブタ、銀ギツネ、アヒル、ニワトリ、カメなどを保護・譲渡してきました。

この日、同窓会に参加したのは、50組を超える里親家族。オリバーさんに、同窓会を毎年開催してきた意図を尋ねました。

同窓会が開催されている間、オリバーさんのところには、入れ替わり立ち替わり里親さんと卒業犬が。「元気そうね」、愛しそうに犬を撫でながら、里親さんの話に耳を傾けるオリバーさんの姿から、本当に愛情を持って一つひとつのいのちと向き合ってこられた様子が伝わりました

「里親に出た子にはできるだけ会いたい、そんな思いで同窓会を開催してきました。悲惨な状況で保護をして、里親さんに渡したら、愛情を注いでもらって、こんなに元気な姿になっている。この日はいちばん嬉しい日です」

シェルターにいた時と、里親さんのもとにいる今と、犬たちの表情は異なるのでしょうか。

「表情は違いますね。そして皆、フレンドリーになっていて、毛並みもきれい。里親さんに手渡す時、その子が本当に幸せになれるかどうかわからないから、不安で心配です。でもこうやって今日、愛されている姿を見られて本当に嬉しい。よかった。安心します」

「動物の飼い方のレベルアップを」

2011年に起きた東日本大震災後、レスキューのため訪れた福島県にて。現地で偶然出会った犬たちを保護するオリバーさん

1990年の設立から32年。オリバーさんはこの12月、82歳になります。これまでの活動を振り返って、印象に残っていることを聞きました。

「阪神淡路大震災や東日本大震災、多頭飼育崩壊の現場…、振り返ると、本当にいろんなレスキューがありました。昔ほどレスキューに行く回数は減りましたが、そうね…今までを振り返って、今日もこうやってたくさんの犬たちと再会することができて、良いことだと思いますね。これからも続けていきたいと思う」

「私は歳をとったので、これまでと同じようには活動は続けられません。今は理事やスタッフたちが、がんばってくれています」とオリバーさん。後世へと一番受け継いでいきたい思いは、どのようなものなのでしょうか。

東日本大震災後のレスキュー活動での一枚。「原発の事故で街は無人になり、多くの犬は行くあてもなく彷徨っていました。多くの犬は人を見つけると、ここから助け出して欲しいと言わんばかりに駆け寄ってきました」

「動物の飼い方を、できるだけレベルアップしたい。たとえば犬だったら、外で鎖につなぐのではなく、家の中で飼う人が増えて、昔と比べてよくはなりました。でもまだ、ペットショップで買う人が多いですよね」

「イギリスで最初に動物を守る法律ができたのは1822年。200年以上の歴史があります。

でも、日本は動物福祉については歴史が浅く、動物を守る法律は、今でも一つしかありません。変わっていかなければならないと思います。アークは国際的な団体。スタッフには、チャンスがあれば海外へ行って、動物福祉を実際に見て学んでほしいと思っています」

「残りの人生を、1日でも長く幸せに」

同窓会に参加されていたご家族にも話を聞きました。

これまでに、アークから6頭の犬を迎えてきた九間(くま)さん家族は、里親が見つかりにくい、リスクのあるシニア犬を主に迎えているといいます。なぜ、年老いた犬を迎えるのでしょうか。

九間さんご家族。アークから迎えた「バーレイ」くん(写真左)、「ダイキチ」くん(写真右)と。「ダイキチくんは飼育放棄の家庭から保護された子です。ダイキチくんを引き取りに行った時に、保護されて偶然出会ったのが隣のバーレイくんです」

「看取りはつらいですし、看取った後は、しばらく立ち直ることができません。だけど、残された時間が短いからこそ、最後に少しでも幸せを感じてほしい。残りの人生を、1日でも楽しく、幸せに過ごしてほしいと思って、里親が見つかりにくい子ばかりを迎えています」

「飼い主である私たち自身も、自分たちがしんどくならないよう健康には気をつけながら、一緒に楽しく過ごしています。ペットを迎え入れる時に、決して『かわいい』だけではない覚悟が必要。安易に無責任に飼われたり、ビジネスで儲ける手段として、まるでモノのように扱われているいのちもあります」

ダイキチくん、バーレイくんともに、九間さんのお孫さんのことが大好きで、お昼寝の時間もいつも一緒にいるのだそう

アークへの思いを尋ねました。

「スタッフさんはいろんなところにレスキューに行き、悲惨な状況を目の当たりにしています。その後、私たち里親につないでくださって、私たちは悲惨なところを見ずにいいとこどりをさせてもらっているんですよね。レスキューの際のいろんなお話を伺うと頭が下がる思いですし、自分たちができる限りのことをしたいと思います」

「犬たちは、言葉を持ちません。だけど忖度なく正直で、一緒にいると私たちもとても豊かに気持ちになります。『いつもありがとう』という感謝の思いでいっぱいです」

多頭飼育崩壊の現場から保護。「この子が幸せだと感じてくれたら、それが一番」

もう一家族、1年前の2月にアークから「幸(こう)」くんを引き取った大野さん家族にもお話を聞きました。

大野さんご家族と、アークから迎えた「幸」くん

幸くんは、8畳二間に164頭の犬が暮らしていた島根県の多頭飼育崩壊現場から、アークに保護された22頭のうちの一頭です。

「引き取った時、推定10歳ぐらいじゃないかということでした。実はその頃、一軒家を購入したんです。一軒家を購入した理由の一つが、『犬を飼いたい』からでした。『せっかく飼うのであれば、つらい思いをしている子を迎えたい』と思って、ネットでいろいろ調べていく中でアークさんを知りました」

お父さんの腕の中で、終始リラックスした状態でくつろいでいた幸くん。とても穏やかな時間が流れていました

「最初に訪れた時はまだ、別の子を候補に考えていました。せっかくであれば、子犬を迎えたいと考えていたんです。しかし、歳を重ねている子は落ち着いていて飼いやすいこと、この子の大人しい性格が、私たちの家庭の事情とも合っているのではないかとアークのスタッフの方からアドバイスをもらって、最終的にこの子を迎え入れることにしました」

「吠えることも全然なくて、初めて家に来た時に、ご近所さんに一度吠えたきり。以前は人と距離をとっていたようですが、今は奥さんにべったりです。この子がいてくれることで、優しく、穏やかな気持ちになれます。それは本当にこの子のおかげ。感謝しています」

「『幸せでいてほしい』という思いから、『幸』と名付けました。ずっと犬を飼いたいと思っていたから、一緒に過ごせてとても嬉しいし、何よりこの子が幸せだと感じてくれていたら、それがいちばんです」

「一つひとつのいのちに目を向け、個性や自立心を尊重して」

「子犬たちにとって社会化の時期はとても大事だと、いつもオリバーは話します。病気や寄生虫の有無など気をつけないといけない点と、社会化に必要な人との触れ合いのバランスを考えながらスタッフはお世話をしています」

同窓会の会場を歩き回り、飼い主さんや犬たちに「久しぶり〜」「大きくなったね!」と明るく声をかけていた、アークディレクターの岡本ジュリーさんにもお話を聞きました。

ジュリーさんはオーストラリア出身。アークと関わるようになって数十年になるといいます。

「アークは大阪、兵庫、東京の三拠点で活動しています。東京は特に、国際社会が確立されていて、まだまだ日本ではペットショップで犬猫を買うことが主流の中で、動物福祉に対する意識が高く、保護犬猫に興味がある方が少なくありません」

「実際に今、東京アークの里親さんの6割は海外の方です。里親を見つけるにはとても良い環境が整っており、ここでのPR活動も大事にしていきたいと思っています。その一方で、オリバーが元気なうちに、彼女の思いを次の世代へと伝える橋渡しをしたいと思っています」

「ワア〜、大きくなったね〜!」。同窓会で、久しぶりの再会を喜ぶジュリーさん

ジュリーさんが伝えたい、オリバーさんの思いとはどのようなものでしょうか。

「『動物が動物らしく振る舞えること』です。動物はぬいぐるみやおもちゃや飾りではありません。オリバーは、『動物の気持ちや個性を尊重すること』『それぞれの自立心を尊重すること』をとても大切にしています。否定されたり何かを強要されたりすることがなく、その子らしい行動ができることが『いのちの権限』だと言います」

「一頭一頭、一匹一匹と向き合うこと。保護・譲渡活動の中では、そうやって一つひとつのいのちと向き合うことで見えてくる、それぞれの性格や個性にベストな家庭をマッチングすることがまず大切になってきます」

「そしてまた、里親さんに引き渡したら終わりでなく、何か困った時に、電話やメールで気軽に相談に乗れるような関係性を作っておくことも大切です」

「動物の5つの自由」

アークには猫もいます。「相性の良い猫たちであれば数匹ずつ収容していますが、無理には同居させません。見晴らしの良い場所から日向ぼっこをするのが猫たちの日課です」

「動物の5つの自由(The five freedoms for animals)」という理念を、ジュリーさんに教えてもらいました。

「『動物の5つの自由』は、イギリスで1965年、家畜動物のためにできた理念ですが、家で飼う子たちにも同じことが言えると思っています。

(1)飢え・乾きから自由であること

(2)不快から自由であること

(3)痛みや負傷、病気から自由であること

(4)動物本来の行動がとれること

(5)恐れや抑圧から自由であること

の5つの自由です。私たち人間は、責任を持ってこの自由を用意する必要があるのではないでしょうか」

温かく迎えてくださったARKの皆さん。写真左から、大阪ARKの奥田さん、ジュリーさん、理事のジェフさん、東京ARKの秋山さん

最後に、ジュリーさんは満面の笑顔でこう語ってくれました。

「実際どうですか。今日ここで、こんなに元気いっぱい、嬉しそうに自由に走り回る子たちを見て、楽しいと思わない人はいないと思うんです。これこそが、動物や私たちの本来あるべき姿ではないでしょうか」

動物と人の笑顔で溢れていた同窓会。

日がそろそろ沈みかけて肌寒さを感じるようになった頃、そこにはもう、オリバーさんの姿はありませんでした。30年以上にわたり、日本の動物福祉の向上を訴えてこられたオリバーさん。これまで、どれだけのご苦労があっただろうかと思います。

次は私たちが、動物福祉向上のためのバトンをつないでいきませんか。

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は11/28〜12/4の1週間限定でアークとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、保護した動物たちの医療費として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、寄り添う犬と猫の姿。愛らしく豊かな表情でこちらを見つめる姿は、それぞれの動物が、日々を健やかに、愛され、安心して生きられる社会を表しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

動物がその動物らしく、その子がその子らしく生きられる環境を、これからも〜NPO法人アニマルレフュージ関西

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。

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