日本には今、児童養護施設で暮らす子どもが約3万人います。高校卒業の年齢になると施設を退所し、進学や就職の道に進まなければなりません。守ってくれる後ろ盾がないまま社会に出て、環境の変化についていくことが難しい子どもが少なくない現実があります。子どもたちにアウトドアのプログラムを提供し、「社会で生きる力」を身につけてほしいと活動するNPOがあります。(JAMMIN=小林 泰輔)
子どもたちの個性を輝かせる
自然のアクティビティを提供
児童養護施設で暮らす子どもたちに、無償でアウトドアプログラムを届けるNPO法人「みらいの森」。「私たちのミッションは、子どもたちに生きる力を身につけてもらうこと」と話すのは、団体共同設立者であり副理事、カナダ人のジェフ・ジェンセンさん。
「普段施設で暮らす子どもたちに、プログラムを通して色んなことにチャレンジしてもらいたい、生きるために大切な自信や自己肯定感を養ってほしいと考えています。アウトドアは、その実現のための一つのツールです」
みらいの森が企画するアウトドアプログラムの特徴は、国際色豊かなボランティアスタッフが携わっていること。
「国際色豊かで、経歴も仕事もさまざまな大人たちと触れ合う中で、『世界は広い。私も自分らしく生きていいんだ』と感じてもらえたら」と話すのは、エグゼクティブ・ディレクターの岡(おか)こずえさん。
「施設の中だけではどうしてもさまざまな将来のイメージを持つことが難しいです。そこで私たちの活動を通し、ポジティブなロールモデルと触れ合う機会を作ることで、子どもたちの選択肢を増やすきっかけになりたい」と話します。
自然の中でしか身につけられない
大切なものがある
カナダ・アルバータ州の自然豊かな町・バンフで生まれ育ったジェフさん。
「幼少期よりずっと自然とともに生きてきて、『自然が持つ力』というものを信じていたんです。例えば、山登りはとても危険です。しかし、それを乗り越えて頂上に着いた時、『僕は頑張ればできるんだ』と成長するきっかけになります」
「壁を越えられず、引き返す経験もすごく重要です。失敗から学ぶことはたくさんあります。自然の中でしかできない経験があると、私は信じています」
来日後、日本でアウトドアの会社を立ち上げたジェフさん。一般家庭の子どもたちを対象にしたサマーキャンプを運営していましたが、次第に「ここに来られない子どもたちにも、自然の中での体験を届けたい」と考えるようになりました。その背景には、サポートを必要としている人たちを支えるコミュニティをつくり、精力的に活動していた母親の存在があったといいます。
「実は、私の母も里親家庭で養子として育ちました。児童養護施設の子どもたちをサポートするNPOとつながった時にご縁を感じ、2011年に初めて招待して以来、子どもたちをキャンプに招待しています」
「相手の立場に立って
いろんな文化や価値観を受け入れてほしい」
メインの活動のひとつが、4泊5日の「サマーキャンプ」。キャンプ場でテント泊をしながら、ハイキングや沢登り、キャンプファイヤーなど、アウトドアならではのアクティビティを体験します。キャンプのもうひとつの目玉が「ワールドツアー」。「国際色豊かなキャンプボランティアが、ワールドツアーと称して自分の国を紹介します」と岡さん。
「ここで子どもたちには、相手の文化へのリスペクトを学びます。一度、メキシコの酸っぱいマンゴーを用意したのですが、中には口に合わない子どももいます。でも『まずい』と否定せず、相手の立場に立ってどう伝えればいいかを考えてもらいます」
さらにキャンプの食事も、「施設ではできない体験をしてほしい」という思いから、普段、施設では食べる機会の少ないブリトーやシチュー、オートミールといったインターナショナルな料理をあえて出すこともあるといいます。
施設の職員さんもキャンプに参加し
「キャンプマジック」の実現を一緒にサポート
子どもたちだけでなく、児童養護施設の職員も一緒に参加するというみらいの森のキャンプ。「職員さんの参加は、私たちがすごく大切にしていること」と岡さんは話します。
「みらいの森では、キャンプの中で普段できないことができるようになることを『キャンプマジック』といいます。例えば、誰に対してもあいさつができるようになるとか、人前で大きな声で発表できるようになるといったことです。そういったキャンプマジックを日常生活につなげて、自分の力にしてもらいたい」
「職員さんは、子どもの自立を一緒に育むパートナーとして参加してもらいます。子どもたちのお世話をするのではなく、自立をサポートする立場に立ってもらい、私たちと一緒に、子どもたちが自分で考え行動できる状況をつくり上げます」
「みらいの森では、子どもを『キャンパー』、引率される施設の職員さんを『ビッグキャンパー』、スタッフを『スーパースタッフ』と呼びます。最後にはみんな仲良くなって『また会おうね』と言えるくらいの継続的な関係を築いています」
できてもできなくても
みんなで一緒に「We did it」
あたたかい雰囲気のキャンプの中、参加する子どもたちにも変化が見られるといいます。
「シャイな子が人前で話をしたり、胸を張って歩くようになったり。そういう姿を見て、僕自身いつも感動しています」とジェフさん。
「僕たちはひとつのプログラムが終わる時に『We did it(僕たちはやったんだ)!』と皆で言うんです。最初は恥ずかしくても、慣れてくると子どもたちも楽しんで言ってくれますね。プログラムを達成できてもできなくても、『We did it!』。アクティビティの達成が目的ではありません。みんなで一緒に取り組むこと、チャレンジしてみることが大切だと思っています」
「ただ楽しいだけではなく、時には自分の行動を振り返ることも必要です」と岡さん。
「受動的に取り組むのではなく、『今日は何キロ歩く?』『どういうチャレンジがしたい?』という話をプログラム前にしてから、チャレンジします。それでプログラム後に、『実際どうだった?』『何があった?』という話をすると、自分の体験として身についていきます」
「施設の子どもたちは、失敗を恐れることが少なくありません。ですが、プログラムの中で『失敗は悪いことじゃないんだ』と体験してもらい、自立のスキルを身につけてもらえるといいなと思っています」
「私たちとしては、ハイキングで頂上に行けなくてもいいんです。道中にドラマがあって、子どもたちの何か学びになるのなら、それで全然オッケーなんです。子どもたちの未来に色んな種まきができたらいいなと思っています」
2023年で10周年を迎えたみらいの森。今後、「みらいの森の拠点となるような、アウトドアセンターを作るのが夢」とジェフさん。
「キャンプ場だけじゃなく、社会的養護について発信できるような場所ですね。みらいの森で思い出をたくさん作って、将来その子が大人になった時、自分の子どもを連れて来られるような、そんな場所を作りたいです」
「施設を卒業して、大学生や社会人になった子たちが活動を手伝ってくれることも増えました。これからも多くの子どもたちに寄り添えるよう、末長く活動していきたいです」
団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、3/20〜26の1週間限定で「みらいの森」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。
JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、みらいの森のサマーキャンプに、児童養護施設の子どもたちを招待するために活用されます。
JAMMINがデザインしたコラボデザインには、大自然の中、太陽に向かって一艘のボートを漕ぐ人の後ろ姿と、前に座る犬を描きました。みらいの森が提供するアウトドアでのさまざまな体験、子どもたちへの明るく前向きな寄り添いが、子どもたちが自らの道を切り拓き、前へ進んでいく時の大きな力になる様子を表現しています。
JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・「失敗しても大丈夫」。アウトドアの力で、児童養護施設の子どもたちの未来に種をまく〜NPO法人みらいの森
https://jammin.co.jp/charity_list/230320-mirainomori/
「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。