秋、紅葉シーズンですね。色づいた木々の葉は私たちの心を和ませてくれます。落ち葉には、土の中の環境を改善するものすごいパワーがあることをご存知でしょうか。昔の人たちは、さまざまな智恵を生かしながら自然と共に生きてきました。かつてないスピードで自然環境が破壊される中、日本で古来より続いてきた営みの中に自然環境と向き合い、未来へつなぐヒントがあると活動するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

先人の智恵を今に活かし、伝える

2021年10月、NPO法人「多摩川源流こすげ」主催の「水源の森再生プロジェクト」で。山梨県小菅村の山沢川源流部のわさび田の一角。この場で水源涵養機能を失った山林の健全化の視点と手法を伝える

NPO法人「地球守(ちきゅうもり)」は、傷んでしまった環境の再生のために、古来継続されてきた先人たちの自然環境への深遠な理解、視点や技を今に生かし実証しながら、古(いにしえ)からの自然環境との向き合い方、いのちの連鎖によって成り立つ自然のしくみを伝えたいと日本各地でワークショップや調査を行っています。

「これまでの営みと相反すること、しかも取り返しのつかない方法で環境を破壊し、地球は行き着くところまで至ってしまった」と話すのは、代表の高田宏臣(たかだ・ひろおみ)さん(52)。

「地球上は、これまでに経験したことのない規模とスピードで荒廃が進んでいます。日本の山も土地も、環境上の問題が山積みです。各地で環境破壊や自然災害が起きていますが、現在のやり方では、災害に対しても環境に対しても手の打ちようがありません」

お話をお伺いした高田さん

「なぜなら、これらの問題がそれぞれ部分で切り取られ、解決されようとしているからです。山が崩れたら、そこをコンクリートで固める。民家に野生動物が現れたら、電気柵で排除する…。一つひとつをその時は解決することができても、またすぐに別の問題が起きてくるでしょう」

「昔の人たちは目に見えない部分も含め、自然のつながりを理解し、水と空気の流れ、循環を崩さないように道を作り、家を建て、池や井戸を堀り、持続的に生きてきました。矛盾は削ぎ落とされながら、千年にわたって続けられてきた営みの中に、自然環境を保つ術があります。実際に環境改善をしながら、それを多くの人たちに伝えていくのが僕らの活動です」

土中環境を改善する落ち葉は「宝物」

高田さんの著書『土中環境 忘れられた共生のまなざし、蘇る古の技』(建築資料研究社、2020年)は、昨年の発行にもかかわらず既に10刷。目に見えない土の中の世界のさまざまな事象を土中環境の視点で捉えることで解決の糸口が見えてくる。写真やイラストを多用し、わかりやすくかつ美しい文章で綴られた一冊

これからの季節、公園や道路を多い尽くす落ち葉。かき集められ、ごみとして捨てられてしまいますが、「実は落ち葉は、土中の環境を改善し土地を育てる資材として非常に重要」と高田さん。

「きちんと大地に還してあげることができたら、有機物として土の中の豊かな微生物の中で分解され育てられ、菌となり菌糸となって他の木に栄養を与えて次の生を支える、まさに宝物なんです」

「これを炭素循環という人もいますが、ただそれだけではありません。たとえば僕らは植樹のための苗木を作っているのですが、ポット苗を作る際、落ち葉で土を挟み込んで苗を植えます。そうすると土の中で落ち葉の分解が始まり、空気中からも水分を取り込みながら、腐葉土の状態になり徐々に菌糸が育ちます。菌糸は有機物をつなぎ、情報交換を行います。そうして知性を持った、自律した木が育まれていくのです」

石の下に水を染み込ませる造作。「大地が息苦しそうな場所にある大きな石を少し浮かせ、小石と共に落ち葉を差し込みます。詰めた葉を分解する過程で土中の菌糸が増殖して、周辺の樹木の根と共に呼吸する健全な大地を育んでいきます」

「このようにして目覚めた木は、世界と、土と一体となって生きます。虫や動物に食われることがあれば防衛本能を発揮し、苦い成分を出して身を守ります。これが本来の健康な状態なのです。豊かな土で育まれた健康で自律した木は、その環境さえ整えてあげれば、密に置かれても病気が伝染したりすることはありません。こういった自律した木を育て、土地を改善・改良していくために、まさに落ち葉が不可欠なのです」

「身近な存在ですが、多くの場所では不要な物として扱われ、ごみとして焼却されてしまう落ち葉。それが実は土の中の環境改善のために重要な存在なんだということを知ってもらえたら、落ち葉に対する向き合い方もまた変わりますよね。自然に対し、何か興味を持ってもらえるきっかけにもなるのではないでしょうか」

排除するやり方は、やがて人間自身も排除されてしまう

岩盤の亀裂から蒸気が湧き出し、噴き出した温泉が川となる。「人知を超えた壮大ないのち、生きている地球を感じさせられる光景に、先人たちは畏敬の念を抱いてきたことでしょう」。写真は秋田県・玉川温泉

自然環境の破壊が進む中、山で暮らしてきた動物たちの問題も深刻だと高田さんは話します。

「山が荒れることに対して、里山を守ろうとする人たちでさえ、シカやイノシシを『害獣』という言葉で排除しようとします。シカが樹皮や林床の実生を食べつくして森を荒らすと言いますが、健康な森や木々であればちょっとかじられるだけで、森にダメージを与えるほどに食べ尽くされることはないのです」

「シカがかじったら、森の中に張り巡らされた菌糸のネットワークが情報を共有し、木々は苦み成分を出してそれ以上に鹿に食べられないようにする防衛反応を示します。実際に口に入れて味くらべをしてみるとよくわかります」

「イノシシは穴を掘る習性がありますが、人間の造作で環境が悪化し、森の流れが停滞した谷筋や川のくぼんだところ、地下水の流れが滞り、そのまま放置すると腐ってしまうところを見極めて掘るんです。彼らが掘り返したところに落ち葉や枝を入れ、土を強くして流れを良くすると、それが合格だったら、イノシシはもうそこを荒らしません。足りないとまた掘る。そうやって教えてくれるのです」

「自然から分断する世界で、果たして人は幸せに暮らせるのだろうか。私たちも自然の一部であれば、その答えを知っているはずです」

「つまり、彼らも調和の一員なのです。何もかもに理由があるのです。『荒らされた』と捉えるのか、『教えてくれた』と捉えるのか。それによって、見える世界は異なってきます。『害獣』と呼び、人間にとって都合の悪いことは檻や電気柵で排除するという方法は、彼らの生きる権利をも奪っているのではないでしょうか」

「そのように排除をし続けた結果、人間にとって自然はますます遠のくでしょう。いのちの循環が途絶えた時、それは私たち人間も生存できないということも意味します。自分たちが築いた柵や檻に、いつの間にか自分たち自身を陥れることになるのです」

自然環境を「確信として」感じる

「とんびゅうの杜プロジェクト」草刈りワークショップの様子。「草の役割を知り、その存在に感謝と尊敬の念を抱きながら、人間も過ごしやすくなる最適解を見つけていく草刈りです。楽しくて、みんなとびきりの笑顔で取り組みます」

「今、僕らはまさに方向転換する時期にきている」と高田さん。

「自然環境が破壊されていくスピードは、残念ながら僕らの手には負えません。この数十年で、山はつぎはぎだらけになりました。千年も続いてきた営みと相反すること、しかも取り返しのつかないことで、地球は行き着くところまで至ってしまいました。未来に何をつないでいくのかが問われています」

その時に、現代の私たちが忘れ去ってしまった、自然に対する感覚を取り戻すことが大切だといいます。

「理屈ではなく五感で感じることで、もう一度、生きることで豊かさを育ててきた自然との向き合い方を取り戻したい。エビデンスがどうとか知識がどうではなく、本当の良し悪しというのは、いのちが本能で感じ取ることができるものです」

「土から湧き水が噴き上がるのを見て感動したり、谷筋を流れる冷たい風を心地よく感じたり、枯れ続けた木が、少し手を加えることで健康を取り戻していきいきと生い茂るまでを目撃したり…。学んだり頭で考えたりするのではなく、確信として、すべての生物が調和した、やさしくて健康的な世界への安心感を感じとってほしい」

「この『確信』さえあれば、自然の何を壊してはいけないのかが直感としてわかります。大地の呼吸、息吹を感じながら、自然環境を僕らの相似形として、生き物として捉えていく感覚を伝えていきたい。豊かな森の再生を、実際にきちんと結果を出しつつ、たくさんの方たちと昔の人たちの智恵を共有して、持続できる、健康で明るい未来を作っていきたい。そう思っています」

「目には見えなくても、必ず変化は起きている」

2021年7月、沖縄島北部(大宜味村・国頭村・東村)および西表島の世界自然遺産への登録が決定、それに伴って変化していく沖縄にて。「未来につないでいくべき貴重な文化や自然環境とどのように向き合うべきかを沖縄の方々と共に考え、全国にむけて発信していきます」

各地で開催するワークショップは毎回すぐに定員に達し、「今、多くの方がこの問題に関心を寄せていると感じている」と高田さん。

「土地を傷め、人間の体を傷める今までのやり方は間違っていたんじゃないか、このままじゃまずいんじゃないか──。そこに気づく方が増え、行動を起こす動きが急速に広がっています」

「地球の自然、人間を含む地球上の生きものたちの状況は、まさに死を目前にしているような状況です。そのことに今、多くの方が気づき始めています。そして、この病に対する向き合い方、生き方を見直すことが問われています。『病が教えてくれた』と捉える人、そう感じられる人は『あの時の病気のおかげで』と感謝する生き方になっていくでしょう」

「なぜここまで自然環境を傷つける必要があるのか、怒りや悲しみは常にあります。でも、暗い世界は長続きしない。楽しい、嬉しい、明るいは無敵です。悲しい怒りに駆られながらも、共感できる輪の中で楽しみ、感謝しています」

「自然界ではバランスを取るために、目には見えないけれど、ひとつの動きに対し常に逆の動きがあります。溜めていた水を栓で抜く際、水は渦巻状に抜けていきますよね。水は下に流れていきますが、その際に空気は上に向かって流れます。DNAはらせん状に渦を巻いていますが、これも上に巻く渦と下に巻く渦がセットです。見えていなくても、必ず、この上下の働きがセットなのです」

「同じように、自然破壊の動きが大きいように見えても、バランスを取ろうと、必ず逆の動きがあります。パラダイムシフトはいつ起こるかわかりません。だから、明るく楽しく、みんなで楽しみたい。そう思っています」

「自然」とは「自ずから然るべき」もの

「人里を離れた雄大な高山の回峰は、地球との対話の時間。かつての山岳修験行者は地球との対話を求めて山を歩きました。そこで自然の中の人間の存在に再び気づき、街に戻る。すると街中においても自然との一体感を感じる瞬間は、落ち葉一枚、石ころ一つがいつも語りかけてくれていることに気づきます。その小さな声を伝えたいと思っています」

「今、僕らは、自然環境と向き合うチャンスにある」と高田さん。「地球が残れば、次のいのちにつながる。小さなことから、出来る限りを楽しく伝え続けていきたい」と話します。

高田さんにとって自然とは何か、を最後に尋ねました。

「昔は『自然(じねん)』といいました。字の通り、『自(おの)ずから然(しか)るべき』ものです。今の『自然(しぜん)』という言葉は、英語の『Nature(ネイチャー)』の日本語版として、近代になってから使われるようになったものです。人間と切り離され対立して存在するものではなく、水と空気が健全に流れ、大地がしかるべきかたちにある完全な調和の状態を、昔の日本人は『自然(じねん)』と呼んだのです」

「『自ずから然るべき』本質を、仏教では『法(ほう)』といいました。法とはルールではなく、自然の真理であり、そこに基づく生き方を意味します。ここを見つめるだけでも、過去の日本人の叡智を感じることができます」

「これだけ豊かに、自然を傷めずに文明生活を継続してきた国は、他にはありません。昔の土木技術を見ても、その素晴らしさに驚くばかりです。自然はすべての源であり、僕らもその一部です。だからこそ、道を踏み外してはならないのです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、地球守と11/1(月)~11/7(日)の1週間限定でキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、誰でも参加できて、落ち葉を資源として活用したり、身近ないのちの循環を手助けしたりといった体感と新たな視点を得ることができる「落ち葉ステーション」設置のために活用されます。

「JAMMIN×地球守」11/1〜11/7の1週間限定販売のコラボアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他カラーやパーカー、キッズTシャツ、エプロンなども販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、サクラ、ナラ、カシ、タブノキ、プラタナスなど日本の雑木林や街路樹などで見られる落ち葉を描きました。落ち葉の隙間から覗くたくさんの小さな光は、落ち葉に触れ、見つめ直すことから始まる自然と向き合う私たちの暮らしの無限の可能性を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

現代人が忘れかけた自然環境との向き合い方を伝え、大きないのちの循環を取り戻す〜NPO法人地球守

山本めぐみ:JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は360を超え、チャリティー総額は6,000万円を突破しました。

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