住む場所や食べるものがあっても「つながり」を感じることがなければ、人として充実した日々を生きていくことは難しい。2020年の新型コロナウイルスの流行は、多くの人がそんなことを、身をもって感じるひとつの出来事だったのではないでしょうか。ホームレスの人たちの自立を支援しながら、スポーツの力でホームレスだけでなく、さまざまな生きづらさを抱える人たちにアプローチする団体があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「ホームレスは『ホープレス』でもあるのではないか」

「野武士ジャパン」大阪チームの練習風景。同じフィールドの上、立場や年齢も超え、皆で一つのボールを追いかける。なんともいえない一体感があった

ホームレスの人たちの自立を支援するNPO「ビッグイシュー基金」。ホームレスの人に雑誌販売という仕事を提供する有限会社「ビッグイシュー日本」を母体に作られた非営利団体です。

「『ビッグイシュー基金』として住まいや仕事の確保を応援し、ホームレスの人たちの自立を支援する活動をしていますが、かといってそれだけが揃えば良いのかというと、そうではありません」と話すのは、「ビッグイシュー基金」スタッフの川上翔(かわかみ・しょう)さん(28)。

「僕たちもそうですが、趣味の時間や友達と過ごす時間、そういうものがあって初めて、仕事もがんばろうと思えるのではないでしょうか。ホームレスの人たちが住む場所を失って路上に出た経緯は皆異なるし、本当に様々な背景を持つ人たちがいる中で、共通点があるとしたら、それは『ホームレスはホープレス(hopeless)の状態であるのではないか』ということです」

「自信を失い、社会や自分に対して希望を見出せなくなって、最後にひとりぼっちでホームレスになる。ビッグイシューの路上販売についても、『仕事』という面はもちろんありつつ、販売者同士つながりができて仲良くなったり楽しいことがあったり、だからこそまた前を向いて生きていけるということがあると思っています。そこを大事にしたいという思いから、当事者による様々なクラブ活動を応援しています」

「ビッグイシュー基金」事務所でお話をお伺いした川上さん

ダンス、講談部、英語部や歩こう会…様々なクラブ活動の中から生まれたのが、ホームレスのサッカーチーム「野武士ジャパン」。2009年と2011年には、国際大会「ホームレス・ワールドカップ」にも出場しました。その後、川上さんなどを中心にNPO法人として立ち上げられたのが「ダイバーシティサッカー協会」。スポーツを通じて「誰もが自分らしくいられる社会づくり」、また「スポーツで仲間外れをつくらない」ことを目指して活動しています。

「いつでも帰って来られる居場所」

主催するフットサル大会「ダイバーシティカップ」の様子。「野武士ジャパン」東京チームと難民の人たちが集まったチームで対戦(写真:横関一浩)

「『ビッグイシュー基金』はホームレスの人たちの自立を応援しているので、雑誌販売をしながらアパートに入り次の仕事を見つける、つまりは自立して『卒業』することが一つのモデルケースではあるものの、それが容易ではないケースもある」と川上さんは指摘します。

「高齢の販売者は、年齢的な理由から新しい仕事を見つけるのが難しいことがあります。反対に30代〜40代の比較的若い販売者の場合、うつの既往や障害などがある人も少なくなく、路上生活から脱出した後、どう働き、どう生活していくかという点で、難しさがあるのも事実です」

東京・新宿で行われた第3回ダイバーシティカップの集合写真。アートプロジェクトを実施する「一般社団法人谷中のおかって」とのコラボで、チームごとにフラッグの作成なども行った

「様々な背景や生い立ちの中、一般的な生活や仕事を続けることのしんどさによってホームレス状態となった人も多くいます。いろんな人の応援で新たな職に就くことができたとしても、再び同じようなしんどさに直面し、孤立してしまうことが少なくありません」

また、ホームレス経験者が働ける仕事は、警備や清掃など、肉体的にも過酷な仕事が多い傾向にあり、「結果的に仕事が続かず、再び路上に戻ってしまう人もいる」と川上さん。

「そうなる前に彼らがもう一度帰って来られる場、つながりを持ち続けられるような場として、スポーツという切り口を機能させたいという思いもあります」

「ホームレス予備軍」の人たちにアプローチする役割も

東京・調布で開催された「第4回ダイバーシティカップ」での一コマ

さらにこの活動には、住まいがなくネットカフェを転々とする人、住まいはあっても安心した暮らしができていないひきこもりの人など、目に見えない「ホームレス状態」の人にもつながるというもう一つの目的があるといいます。

「ホームレスだけでなく、社会との関わりが絶たれ、帰る場所や居場所もなく、孤立を深めて生きづらさを感じている若者たち、ホームレスになるリスクの高い人たちにもアプローチしたいとさまざまな団体とつながってきました。そんな中で、ひきこもり経験者のチーム、児童養護施設出身者のチームやうつ病の自助グループのチーム、震災で被災した若者たちのチーム、LGBTの人たちのチーム、薬物やギャンブル依存症の人たちのチーム…と本当にさまざまな背景を持つ人たちと徐々につながりが生まれました。そして一緒に練習や試合をするようになり、フットサル大会を開催するようになっていったんです」

肩を並べることで、できる支援

試合に勝利して喜ぶ「野武士ジャパン」東京チームのメンバー(写真:横関一浩)

「僕たちのこの活動は、”Face to Face(面と向かい合う)”支援ではなく、”Shoulder to Shoulder(肩を並べる)”ことができるというスポーツの特徴を活かしています」と川上さん。

「“Face to Face(面と向かい合う)”、例えば相談窓口や当事者同士でいざ会話するとなると身構えてしまうし、いざ話すとなっても何を話したら良いかわからないという人も少なくありません。また『話さないといけない』とか『また来ないといけない』という見えないプレッシャーを感じたりもして、人によっては大きなハードルになり得ることもあります」

「一方で、“Shoulder to Shoulder(肩を並べる)”だと、そこに会話はなくても、一緒にボールを追いかけたり練習したりする中で自然と会話が生まれ、つながりづくりのきっかけになり、孤立解消にもつながります。それが『ホープレス』の状態から人を救い出すきっかけにもつながると考えています。僕たちの練習は、参加することにも練習の内容にも強制はないし、本人の意志の中で決め、それぞれのペースで、何よりも『楽しむ』ことを大切にしています」

「”支援する側・される側”を簡単に乗り超えることができるのも、スポーツならではの特徴」と川上さん。

「”Face to Face”だと、どうしても”支援する側・される側”が色濃くなりがちですが、”Shoulder to Shoulder”は、同じフィールドでボールを追いかける者同士、その相手とどういう関係かとか、周りからどう見られるかとかを一旦脇に置いて、目の前のことを共に楽しむことができる。そんな利点があります」

「やっぱり、人恋しいんやろうね」

大阪では月に2回開催されているという練習に参加していたお二人にも話を聞くことができました。一人は、ビッグイシュー販売者のYさん(62)。

住む場所を失いホームレスになり、6年ほど前から「ビッグイシュー基金」と関わるようになりました。

「親戚は遠いところにおるからなかなか頼られへんし、娘と連絡をとれへんこともないけど、嫁いでいるからそこまで頼れない。自分が路上生活から脱出してからでないと、娘の立場が変になっても困るという思いもあったね。ビッグイシューの販売を始めてから一度、紹介してもらった料理屋に住み込みで働いたけれど、還暦の体に14〜5時間の長時間労働はこたえ、精神的にも肉体的にも消耗して辞めました。続けられたらよかったんやけど…。そして再びビッグイシュー販売をするようになり、今に至ります」

この夏にサポートを受けてアパートに入居したYさん。販売の傍ら、住んでいる地域から30分ほどかけてサッカーの練習に参加しているといいます。なぜ練習に参加するのか?という問いに、次のように答えてくれました。

「やっぱり、人恋しいんやろうね。こんなにたくさんいろんな人が集まるところって他にはないんですよ。だから、交流できるんが楽しいな」

「構えなくて良いのが、本当に楽だった」

もう一人、ひきこもり経験者のCさん(24)にも話を聞きました。大学在学中に事情があって体調を崩し、就職活動を見送ってから家にこもるようになったCさん。就活のタイミングに乗り遅れ、「自分が社会のレールから外れたように感じた」といいます。ひきこもっていた時に活動を知り、かれこれ2年半、欠かすことなく練習に参加してきました。

「小〜中学にかけても家にひきこもりがちだったので、どちらかというと運動はしてきませんでした。テレビゲームのサッカーは好きでしたが、だからといって体を動かしたいというふうにも思いませんでした。だけどここの練習に参加するようになって、体を動かせば動かすほど、血が巡って体がやわらかくなって、どんどん元気になっていくのがわかりました」

練習に参加することは、体を動かすだけでない、大きなメリットをもたらしたといいます。

「以前は無意識に体が緊張して力が入りがちでしたが、サッカーをするようになって、意識してリラックスしたり力を抜いたりする練習をするようになり、少しずつコツをつかんできました」

「もう一つは、ここで普段自分が出会わないタイプの人たちと知り合い、ちょっとずつ人間関係に慣れることができたことも大きいです。面と向かって話すとなると、同じ話題を見つけるのもそれで盛り上がるのも難しいし、僕はあまり得意ではありません。だけどスポーツは、共通項がすでにある。最初に構えなくて良いのが、僕にとっては本当に楽でした。参加し続けられた理由の一つだと思います」

「生きづらさ」を解消するきっかけに

「野武士ジャパン」東京チームの皆さんの集合写真(写真:Naho Nakamura)

「社会を紐解いていくと、実は誰しも生きづらさやマイノリティな部分、困難を抱えているのではないか」と川上さん。

「この活動の入り口はホームレスやひきこもりの人たちですが、最終的にはいろんな人がスポーツに楽しくアクセスできて、一緒にボールを追いかけたり夢中になったりしながら、そこでありのままの自分が受け入れられる体験をすることで、それが一人ひとりの『生きやすさ』につながっていくような社会をつくっていくことができたらと思います」

「サッカーやスポーツには人を夢中にさせる力があります。強制でなく自らの意志で一生懸命やればやるほど、それが自分らしさにも、『挑戦してみよう』という意欲にもつながっていきます。その時にお互いに肩と肩を並べて合っていたら、互いを認め合い、挑戦を励まし合って、本当の意味でのインクルーシブにつながっていくのではないでしょうか」

「ダイバーシティサッカー協会」の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、「ダイバーシティサッカー協会」と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

12/21〜12/27の1週間、JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が「ダイバーシティサッカー協会」へとチャリティーされ、サッカーの練習に必要な備品代や、大会開催のための資金として活用されます。

「JAMMIN×ダイバーシティサッカー協会」12/21~12/27の1週間限定販売のコラボアイテム(写真はTシャツ(カラー:ブラック、価格は700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもスウェットやパーカー、トートバッグやキッズTシャツなど販売中

コラボデザインに描かれているのは、サッカーボールやテニスラケット、スケードボードやグローブなど、さまざまなスポーツにまつわるアイテム。多様性あふれる社会、またそれを実現するためのスポーツの可能性をデザインに落とし込みました。

チャリティーアイテムの販売期間は、12/21〜12/27の1週間。JAMMINホームページから購入できます。JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

スポーツを通じ「肩と肩とを並べる」ことで、ホームレスやひきこもり、生きづらさを抱える人の「居場所」になる〜NPO法人ダイバーシティサッカー協会

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしている京都の小さな会社です。2014年からコラボした団体の数は300を超え、チャリティー総額は5,000万円を突破しました。

【JAMMIN】
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