国土の67パーセント、つまり2/3を森林で覆われた日本。戦後、復興のために拡大造林計画によって、スギやヒノキなどたくさんの針葉樹が植えられましたが、燃料は木炭から石油へ、そしてまた木材自体も海外から安い資材が入ってきたことにより、森に入る人は次第に減っていきました。。1997年から「森の健全化」のために、森に入り、森づくりを行うNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

「月に一度は山しごと」

大阪・泉佐野市にある森での間伐の様子。「森の中では、一人では作業できません。皆で協力して伐採します」

関西を拠点に、「森づくり・人づくり」「月に一度は山しごと」を掲げて活動するNPO法人「日本森林ボランティア協会」。

大阪や兵庫、京都、奈良、和歌山にある12の拠点で森づくり活動をしながら、次世代を担うリーダーを育てる養成講座「森林大学」も開催しています。

「今、人が入らなくなったことによって多くの森が荒れています」と話すのは、団体理事長の山﨑春人(やまさき・はると)さん(70)。

「森づくりといっても、それぞれの森によって課題ややるべきことは異なります。荒れている森を整備するという点では、除伐(じょばつ)や間伐(かんばつ)といって木を切る作業が大きくなってきます。講習を受ければ、チェーンソーも使えるようになりますよ」

お話をお伺いした山﨑さん。大阪・泉佐野市の雑木林で

では、森はなぜ荒れるのでしょうか。

「実は今、多くの人工林において、スギやヒノキ以外の他の植物が育っていない状態です。人工林の場合、1ヘクタールに針葉樹であるスギやヒノキが数千本単位で植えられています。そうすると木が育つにつれ、密集した木の下は密閉され、光が届かなくなります」

「するとどうなるか。その下で他の動植物が育つことができません。生物多様性が失われてしまうのです。そこをきちんと手入れして、光が入るようにしてあげれば、いろんな植物が芽吹き、さらにそれを求めて、さまざまな昆虫や動物がやってくるようになります」

「他の植物が生えてそこに根を張ると、土も守ってくれます。人の手が加わることで、森が豊かになり、守られていくのです。間伐や除伐は、木にとってもプラスです。適度に間伐・除伐することで、健全な木が育っていきます」

「健全な森が、すべての環境につながっていく」

大阪・千早赤阪村の個人所有林。大阪を代表するスギの美林

山﨑さんによると、日本の国土に占める森林の割合は67パーセント(2,505万ヘクタール;2017年統計)。そのうちの天然林が約5割、人工林が約4割、残りが竹林や伐採の跡地などだといいます。

「今ある人工林については、戦後に植林されたものがほとんどです」と山﨑さん。

「復興のためには木が必要で、造林には補助金が出ました。それでいっぱい造林されたわけですが…、成長した木をいよいよ使えるぞという段階に来た時に、すでに燃料は石炭からガスや電気へと変わっていたし、建築用材としても、海外から安い木材が大量に輸入される時代に入っていました」

大阪・箕面の国有林で間伐作業の様子。チェーンソーを使って大径木を伐採

「ただでさえ海外から安い木が入ってくるのに、急峻な山が多い日本の山で、木を切って出材するとなったら、人件費や運搬のためにコストが非常にかかります。いくら木を切ってもほとんど儲けがないということで、森に入る人も、木を植えて整備する人もいなくなってしまった。多くの森林がそのまま放置され、荒廃してしまったのです」

「『健全な森がある』ということが、すべての環境につながっていく」と山﨑さん。「日本はこれだけ森がある国ですから、いろんなところで森を守っていくことが、より良い社会を作る一歩につながっていくと感じている」と話します。

違和感を行動に起こすことが、世界平和の第一歩

災害時、要望があればチームを組んで森へ入ることもあるという。「大阪を襲った2018年の台風21号では、暴風により大阪各地の森林が打撃を受けました」。写真は大阪・千早赤阪村の個人所有林

もともとは幼児教育が専門の山﨑さん。森づくりに携わる前から、自然体験や野外キャンプなどで自然は身近な存在だったといいます。

「40歳を過ぎてから、幼児教育をもっと専門的に学びたいと大学院に通ったのですが、その時に『子どもにとって究極の運動は、森に放つことだな』と感じました。でも、子どもたちを安心して森に放つことを考えた時に、森が健全でなければ、それはできません」

「そんな視点からも、健全な森の大切さ、健全な森を残していくことには興味を持っていました。私たちの活動に参加する方も皆さん、背景はそれぞれです。山登りをしていて森が荒れているのを目の当たりにしたとか、登るだけではなく手入れする側に回りたいとか」

「中には、山が好きでアルプスや中国の山にまでトレッキングで訪れたような方もいます。最近、トレイルランンニングなども流行っているので、荒れた森を見て『自分も何か手伝いたい』と参加してくださる若い世代の方も出てきました」

兵庫・丹波市内にある「森のようちえん」の子どもたちと、里山散歩する山﨑さん。「子どもたちは見るものすべてに興味津々です」

「『おかしいな』という直感を大事にして、その時に黙って『そうなんか』と思って何もしないのか、何か行動に移すのか、これはとても大きな違いです。ボランティアができることは本当に少ない。微力です。だけど行動に移してみることが、実はその人だけではなく世界の平和、すべてにつながっていくように思うんです」

「動くことで見えること、思うこと、感じることがある。社会にはこれだけいろんな問題があって、森に入ることが直接の解決にはならないかもしれない。だけど自分の直感や違和感を無視しては、そこからの世界は成り立っていかないと思うんです。直感を大切にするということも、私は森から多く教えてもらってきました」

「森林に携わる人が増えれば、きっと社会も変わる」

大阪・千早赤阪村の森の中の作業拠点小屋にて。「この小屋の材料は地元の木を使い、設計と施工は皆で行いました」

「2001年の9月11日、世界貿易センタービルに旅客機が突っ込む姿を見た時、『我々に何ができるんやろう』と思いました。私たちは森林ボランティアとして森に入って、森を整備する。それしかできないけど、何もしないのではなく、全体のために何かをするということ」


「自然災害、コロナや戦争…、これらの出来事に対して、わずかな力かもしれないけど、私は森に入るじゃないですが、自分が『これだ』と体で向き合えることをやることが、世界の平和にもつながっていると私は思うんです」

「今、日本の森林でボランティアが携わっているのは、わずか1パーセントあるかないかです。残りの99パーセントは、林野庁や森林組合、個人所有者などが管理しています。もし、ボランティアが携わる森が1パーセントから5パーセントに増えたら、森や社会は、変わってくる可能性がある。だから、意識を持ってくださる人を増やしていきたいと思います」

健全な森と、多様に、豊かに

森づくりに必要なギアあれこれ。1.チェーンソーは手入れして、大事に使い込む 2.安全確実に間伐作業の必需品、ロープ・滑車・カラビナ・スリング 3.山作業に欠かせないのが腰ナタとカマ。きれいに研いで切れ味バッチリ 4.「オレンジヘルメット」は会員の印。安全講習、チェーンソー講習、刈払機の講習の修了者はヘルメットにシールを貼る

「今、アウトドアやキャンプが流行っていますよね。キャンプも良いけど、屋外が好きならぜひ、仲間と森に入り、木を切る楽しさも味わってみてほしい」と山﨑さん。

「最近の若い方は環境意識が高いですし、森づくりには女性の参加も増えています。鬱蒼と生い茂った森で木を切って倒した時に、そこから空が見えて光が差し込み、森がパアっと明るくなる達成感はものすごいものです。森の中で作業していると、いろんな生き物がいきいきとしてくるのが見てとれる。実感できるんです」

「それを味わってもらいたくて、チェーンソーは講習が必要ですが、森づくりに参加した方には、最初からのこぎりを持ってもらいます。木を切ることがどういうことかをわかってくると、参加した方の気持ちも変わってくる。その人も、いきいきしてくるんですよね」

森林整備中に見つけた山菜を摘んで、てんぷらにして皆に振舞う山﨑さん。「これがまた、旨いんです」

「とはいえ、木を切ったり植えたりすることだけが森づくりではないと思っています。

森に行かずに関わりを持つ人がいたり、森に来ても木を切らずに見るだけの人がいても良いと思っています。ボランティアさんの中には、だんだん年をとって『体力がないから、何もできないし、もう森へ行くのはやめておこうかな』と来なくなる人も出てきます」

「でも、『そんなん、気にせんと来たらいいやん』って(笑)。木を切る作業は他の人に任せて、その間に茶を沸かしたよとか、山菜を採ってお昼に一品つくったよとか、そういうふうに関わる人がいてもいいと思うんです」

「『いろんな人が、多様なかたちで森に関わる』ということが大事だし、いろんな人が関われて、そこからさらに豊かな関係が広がっていくのが、森の魅力でもあると思うんです。森が健全であることが、私たちの豊かな暮らしにもつながっている。ぜひ、森に興味を持ち、そして森に入ってもらえたら嬉しいです」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は10/10〜10/16の1週間限定で「日本森林ボランティア協会」とコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円が団体へとチャリティーされ、団体の活動費として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインには、握手の間から伸びる木を描きました。健全な森を育む中で、人と自然、人と人との温かく豊かな関係もまた築かれていく様子を表現しています。

JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね!

「月に一度は山しごと」。豊かな暮らしを育む「健全な森」を次世代へ〜NPO法人日本森林ボランティア協会

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は7,500万円を突破しました。

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