日本の総人口に対し、65歳以上が占める割合は28.9%。今後、人口の減少が進む中で、高齢者の割合は増え続け、令和18年には国民の3人に1人が65歳以上になるとされています。高齢化が進む中で、これまで以上に身近になっていく「介護」。介護を身近に、誰もが自分らしく生きられる社会を作りたいと、「対話の場」としてカフェを開催するNPOがあります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

介護に関わる人たちの対話の場

各地で開催されているkaigoカフェ。写真は「ケア職の未来の働き方」をテーマに対話したカフェの様子。今の働き方を見直し、これからどんな働きかたをしていきたいか対話した

NPO法人「未来をつくるkaigoカフェ(以下「kaigoカフェ」)」は、主に高齢者の介護に関わる人が思いを語り合い、学ぶことができる「対話の場」を作りたいと、2012年より「kaigoカフェ」を開催してきました。団体を立ち上げたのは、代表の高瀬比左子(たかせ・ひさこ)さん。自身も高齢者介護の仕事をする中で、モチベーションを見失いかけた時期があったといいます。

「私自身が、現場での対話不足や未来のビジョンが描けずに立ち往生していて、職場や業界を超えて外の世界の人と出会うことで視野を広げ、対話力を磨きたいと思ったことが、カフェ開催のきっかけでした」と高瀬さん。

お話をお伺いした高瀬さん

カフェの開催を重ねるごとに参加者が増え、定員100人の予約が1日も経たずに埋まることも。「このような場所を必要としている人が、こんなにもいたんだと感じました」と振り返る高瀬さん。カフェを自分だけで開催するには限界があると感じ、全国各地で開催ができるようにしたいと、2016年からはkaigoカフェ運営やファシリテーションのコツを学ぶ「kaigoカフェファシリテーター講座」もスタートしました。これまでに1200人以上が受講し、現在は全国に、50のkaigoカフェがあります。

介護者が日々の介護に追われ、孤独を抱えがちな現実

コロナ前、東京で開催したファシリテーターミーティングにて。全国から200名近くが集まり、カフェに必要な人、もの、ことについて熱く対話した

「介護の仕事は慢性的な人手不足。一人で抱える業務が多かったり、一人で何人もケアをしなければならなかったりする現場も多く、精神的に疲弊し、追い詰められてしまうことも少なくない」と現場の課題を指摘する高瀬さん。

「介護者一人対複数の集団ケアになりやすく、一対一で向き合い、対話できる余裕が失われると、もはや『人を相手にしている』という感覚は薄れ、時間内に皆の排泄ケアをしなければいけない、あれもこれもやらないといけないと、どんどん『作業』のようになっていってしまうところがあります」

「ルーティンワークの中で、次第にやりがいや変化を求めなくなり、何のために介護をやっているのかがわからなくなってしまう。介護職は、職場以外の社会との接点も少なく、自分の名刺を持たない方も少なくありません。『自分の代わりがいる』と感じて、仕事への自分の存在価値や誇りが見出しづらいところがあると感じています」

埼玉県浦和市で行われた介護福祉フェスティバルにて、「介護と経営マネジメント」をテーマにkaigoカフェを開催。「明日へのパワーが溢れる時間になりました」

「一方で、悩みをフラットに話せる場所が圧倒的に少ない。業界としてまだまだ閉鎖的なところがあるし、対話の風土が根付いていないということもあるかもしれません。悩みを打ち明けられないまま、職場と家を往復する日々の中で孤立を深め、鬱になってしまうようなケースも後を絶ちません」

「介護の現場で、高齢者に手を上げたといった虐待事件がニュースになることがありますが、これは全く他人事ではありません。心の余裕を失い、追い詰められてしまった時に、誰にでも起こりうる可能性があることです」

孤立しないために「対話」が必要

kaigoカフェが大事にしている「対話」。各グループにはファシリテーターがいて、初めて参加する方も安心して本音が話せる場をつくっている

特にコロナ禍において、介護に関わる人たちは、日々の過ごし方についても厳しく管理される中で、それまで以上に孤立を深めることにつながったのではと高瀬さんは話します。

「とにかく命を守ることに精一杯で、生活の質は二の次。感染のリスクを避けるために、休みの日にも友達とも会えない、外食もできない…。家と職場を緊張感の中で往復する日々は、ますます『何のために介護をしているんだろう』という孤立を深めやすかったのではないかと思います」

「『何かおかしい』と感じた時に、声をかけて対話の場を設け、手を差し伸べられる仲間がいたら、孤立を未然に防ぐことができます。そのためには、現場で働く一人ひとりが、日頃から十分にエネルギーが充電されていることが大切」

「Kaigoカフェが、志を同じくする仲間と出会い、エネルギーを充電し、誇りや自信を持って、明日へのパワーが生まれるような場所になれたらと思っています」

超高齢化社会を迎える日本。
介護職が「地域」とのつなぎ役に

「kaigoカフェ@裏山」(山梨)。「八ヶ岳の大自然の中のほんの小さな一角の『裏山』で、心地よい仲間と焚き火を囲みながら、語り合い、分かち合い、明日につなげていくような取り組みを少しずつ実践しています」

現在、全国に50あるというkaigoカフェ。それぞれどのようなかたちで開催されているのでしょうか。

「こうでなくてはならないというルールはなくて、それぞれにいろんなかたちで開催してくださっています。ミニコンサートや夜カフェ、認知症カフェを開催したりと本当にさまざま。山で焚き火を囲みながらカフェを開催されているようなところもあります」

「皆さん、これをやりたいということを、いきいきと実現されています。自分たちのやりたいことを実現しながら、地域との『つなぎ役』の役割も果たせたら。『地域を元気にするために、いろんな業界とつながって、ネットワークを広げていきましょう』とお伝えしています」

「医療福祉×地域づくりのこれから」というテーマで、地域づくりの専門家二人を招いての対話。「医療福祉がどれだけ地域とつながることができているか。阪神大震災からちょうど25年たった日に、改めて向き合うことができた時間でした」

なぜ、介護にとって地域が大切なのでしょうか。

「今後、高齢化はもっともっと進んでいきます。先を見越して今できることに取り組んでいく必要があって、その時に、地域は欠かせないものだからです」と高瀬さん。

「今は核家族化が進み、自分の家族が介護を受けていても、介護をあまり近くに感じないという方も少なくないかもしれません。しかしこれからの時代、『高齢者なんて知らない、介護なんて知らない』では立ち行かなくなっていくでしょう」

「大人はもちろん、未来を担っていく子どもたちも、高齢者との接し方を知らないと、孤独な高齢者がどんどん増えていきます。私たちも今はケアする側とはいえ、やがて年老いてケアされる側になります。その時に、そうはなりたくないですよね」

「地域の専門職が連携するだけは足りません。子どもからお年寄りまで、それぞれが強みを活かしながら共に生きる地域社会を作っていく必要があります。その時に、高齢者に最も近いところにいる介護職の私たちが、高齢者と地域をつなげ、より豊かな生を全うするお手伝いができるのではないでしょうか」

「質の高いケアを届けるために、
もっともっと対話力を磨いていく必要がある」

2022年、カフェの10周年企画として「10年後の介護の未来わたしの未来」というテーマでカフェを開催。「前向きな仲間たちとの対話から、未来への希望を感じることができました」

昨年、活動10周年を迎えたkaigoカフェ。10年を振り返り、印象に残っている出来事を高瀬さんに聞きました。

「在宅医療をされている先生が、『介護をもっと身近にしたい』という思いを持ってくださっていて、一緒にkaigoカフェを開催したことがありました。医療と介護は、実はなかなか接点を持ちにくいところがあるんです。介護の現場で、医師やその他専門職と患者さんのことを共有したり、意見交換したりということはまだまだ少ないのが現実です」

「しかしこの時は、在宅医療や医療に関わる専門職とフラットに対話することができて、高齢者へのケアについて、一歩踏み込んだ話ができました。フラットな対話の大切さを改めて感じましたし、この会を通じて連携が広がり、ありがたいと感じた出来事でした」

「医療者はその方の症状や病気を、介護職はその方の普段の生活の様子を見ます。その方を一番近くでケアしている介護職の人たちが、日々の生活の気づきを発信していかなければ、医療としても本当に必要なケアを提供できない。質の高いケアのためにも、私たちはもっともっと対話力を磨いて、発信していく力を身につけていく必要があると思っています」

「対話やつながり、地域を大事にしながら、介護現場の笑顔を増やしていきたい。介護に関わる一人ひとりが自分らしさを発揮して、いきいきと輝くことができれば、ケアする側だけでなく、ケアされる側の高齢者もいきいきと輝くからです」

寄り添い、豊かな関係性を築く。
この先の介護とは

「97歳で一人暮らしをする女性と、川沿いの道を歩行練習のケアに入っていました。ご自分で着物を着られ、背筋がピンと伸びた素敵な方で、歩きながら、日本の古き良き美意識を教えていただきました。今でも同じ川沿いの道を通るたび、この方のことを思い出します」

「介護というと食事や入浴、排泄などの支援だけというイメージを抱いている方も少なくありませんが、多種多様な背景を持つ方と密に関わり、つながることができる仕事です」と高瀬さん。

「介護とは、どちらかが一方的に与えたり受けたりというものではなくて、ケアしたりケアされたり、互いを気にかけ合う、『お互いさま』の豊かな関係性だと感じています。新しい価値観を、介護職の人たちが率先して共有していけるようなっていく必要があるし、若い方たちの職業選択や憧れの中に、自然に介護職が入るような未来になればと思っています」

「現場に関しては、人手不足解消するために、AIやICTなどに頼れるところはどんどん頼って効率化を進めながら、本当に手をかける必要があるところ、利用者さんとの関わりや、その方らしい生活を送ることへの寄り添いや技術を極められる環境が整っていくと良いなと思います」

「『介護は他人事。できれば関わりたくない』と思う方が少なくないと感じます。だけどもっと身近に、もっと気軽に介護を感じてもらえたら。ネガティブな面が取り上げられることが多いですが、介護はそんなにわるいことばかりではありません。介護を通じて一人の方と深く関わることになった時、その関わり方次第では、かけがえのない気づきや関係を得ることができるものです」

「いずれは皆自分ごとなので、自分や自分のご家族、大切な人がケアしてもらうと考えた時、『こういう人にケアしてもらいたい』ということを考えてみてもらうと、見えてくる課題があるかもしれません」

団体の活動を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、5/15〜21の1週間限定でkaigoカフェとコラボキャンペーンを実施、オリジナルデザインのチャリティーアイテムを販売します。

JAMMINのホームページからチャリティーアイテムを購入すると、1アイテム購入につき700円がkaigoカフェへとチャリティーされ、全国の介護に関わる方たちつながりの場を継続し、発展させていくための活動資金として活用されます。

1週間限定販売のコラボデザインアイテム。写真はTシャツ(700円のチャリティー・税込で3500円)。他にもバッグやキッズTシャツなど販売中

JAMMINがデザインしたコラボデザインは、かけがえのない仲間と出会い、介護の未来を語り合う、kaigoカフェさんの活動をストレートに表現しました。


JAMMINの特集ページでは、インタビュー全文を掲載中。こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。

・誰もが豊かに生きる未来のために、介護者がいきいきと輝く対話の場を〜NPO法人未来をつくるkaigoカフェ

https://jammin.co.jp/charity_list/230515-kaigocafe/

「JAMMIN(ジャミン)」は京都発・チャリティー専門ファッションブランド。「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週さまざまな社会課題に取り組む団体と1週間限定でコラボしたデザインアイテムを販売、売り上げの一部(Tシャツ1枚につき700円)をコラボ団体へと寄付しています。創業からコラボした団体の数は400超、チャリティー総額は8,000万円を突破しました。

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