作家でクリエイターのいとうせいこう氏が発起人を務める自然エネルギー100%フェスがこのほど東京タワーで開かれた。東京タワーのメインデッキからトークイベントやライブをオンライン配信した。統一の模様をレポートする。(寄稿・平井 有太=ENECT編集長)

東京ナイトカルチャーの再エネ化を叫ぶイベントが9月13日、東京タワーのメインデッキで開催された。この夜東京タワーは、再生可能エネルギー(以下、再エネ)によって輝いていたし、音が鳴っていた。

音楽プロデューサーでDJの大沢伸一

これはコロナ禍でなければ起きなかったかもしれないし、同時に、長きにわたる東京の才能たちによるダンスミュージックへの愛と創作の蓄積があってこそ、起きた。それが最高な夜景に囲まれながら、コロナ以降初めて、突き抜けてきらびやかな一つのパーティーとして結実したし、ここから始まるコロナ後の世界に続く道筋を見せることまで成功させた。

フライヤーにはJ-WAVE、S/U/P/E/R DOMMUNE、Roland、Pionner DJといった、音楽好きにはお馴染みの名が踊り、イベントには最新ダンスミュージックの祭典「TOKYO DANCE MUSIC WEEK2020」と、もう一つ、コロナ禍にあっていとうせいこう氏が発案、牽引した自律分散型配信フェス「#MDL=MUSIC DON’T LOCKDOWN」シーズンワンの大団円という位置づけもあった。

配信は東京タワーとJ-WAVEの公式YouTubeチャンネル、配信プラットフォーム:SHOWROOMから実施され、最終的には視聴者1万人を超えた。投げ銭で集まった収益は後日、医療従事者へ寄付される。

トークイベントの様子、右から2番目がこのフェスを協賛したみんな電力の大石英司社長

アーティストは音楽プロデューサーでDJの大沢伸一氏(MONDO GROSSO)、須永辰緒氏、須永氏のDJに乗って夜の7時に登場された野宮真貴さん、ヒップホップ界からはサイプレス上野とロベルト吉野、そしてナイトクラブシーン隆盛期からの盟友Chieko Beautyさんと共に、小泉今日子さんが参加。ダンス系の名曲『FADE OUT』(1989)など3曲を披露した。

加えて、新解釈の民謡をバンドRUDIE JAPをバックに披露したエネルギーアイドル永峯恵さんと、メインスポンサーには国内の再エネ比率トップをほこる新電力会社「みんな電力」が名を連ねた。

東京のナイトカルチャーは、コロナを受けて壊滅的な影響を受けている。レコーディングスタジオ、ライブハウス、ナイトクラブなど売り上げは激減、関わるスタッフたちは不安を抱え、業界復活の兆しはまだ見えない。須永氏は「根本からの変化が必要」と指摘し、小泉さんのライブ直前に設けられたカンファレンスでは、いとう氏が再エネの重要性と可能性に言及。飛び入りでラッパー兼渋谷区観光大使であるZeebra氏や、港区選出の入江のぶこ都議も参加した。

もはや誰もが認識せざるをえない酷暑や巨大台風、山火事などの気候危機。その対策としてのCO2排出軽減に直結する再エネ切り替えは、市民が行政を巻き込んで一緒に「再生」していく上で、明確な大義名分になる。

そしてそれを、感度高いカルチャーの世界こそが牽引することで、時に理解ない層から寄せられる「危ない場所で」、「退廃的な」という印象も払拭できる。どうせリカバリーするのなら、本質的な価値を体現するものであるからこそ、明るい未来を手にすることができるのだ。

カンファレンスに参加した環境省の環境再生事業担当参事官・川又孝太郎氏は、世界の再エネ先進国では市民と行政の密接な協業が見られること伝え、DJのNaz Chrisさんと「NAZWA!」を組み、お2人で本イベント実現に奔走したミュージシャンのWatusi氏は、オランダで見た、客が踊ることで発電する「サステナブルダンスクラブ」について語られた。

いとう氏は、最終的には1万人以上が視聴した本イベントについて、きっかけとなった最初のモチベーションを「こんな事態でも黙ってないぞ、身をひそめてるだけじゃないぞという意地だった」と述懐した。

当初から「自律分散型」であることの重要性を繰り返し、自らの手を離れてもかつてない規模のイベントにまで進化した取り組みを、「コロナ禍でもここまでのことができるという証明になった」と目を細めていた。

イベントの最後には、大沢氏による、国内現場での初使用だったCDJ-3000(Pioneer DJ)を3台駆使するプレイあり、その直前にはZeebra氏が東京の夜に捧げるフリースタイルを披露するというサプライズもあった。まさに「音楽が人を再生させるエネルギー」であることを体現した、そして私たちそれぞれが自分の中に持つ可能性を思い出した、そんな一夜だった。