SDGsから考えるこれからの「エネルギー」の話(2)

国内でも急速に認知の高まった「SDGs」。身近なキーワードになってきた一方で、まだまだ全体像がつかみにくいところもあります。そこで、中でもとりわけよく言及される「エネルギー」と「気候変動」をキーワードに、SDGsを実現していくための課題が互いにどう結びついているのかを6回シリーズで解説します。エネルギー分野で長年事業開発を行ってきた秋田智一さんにお話を聞きました。(聞き手・松田 ひろみ)

答える人:秋田智一 
株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ代表取締役社長 2009年環境経営戦略総研(現アイ・グリッド・ソリューションズ)入社。主に事業開発責任者として太陽光発電事業、電力供給事業を推進。2017年には分散型電源の推進を目的として株式会社VPP Japanを設立し代表取締役に就任。

「環境付加価値」を取引するグリーン電力のしくみ

―― 前回のお話を受けて、さまざまな企業のウェブサイトをチェックしてみました。大企業ほどSDGsの「7:クリーンエネルギー」「13:気候変動」への取り組みをPRしているケースがとても多いようですね。なぜでしょうか。

秋田:はい、大企業ほど「エネルギー」と「気候変動」への取り組みを行っているところが多いというのは事実だと思います。

―― 例えばグリーン電力を購入すれば「7:クリーンエネルギー」を実行している、と言えるのでしょうか。「設備投資をせずに多少のコストアップでSDGsの実績がつくれる」、それなら大企業にとっては簡単に取り組めるのではと素人としては考えてしまいました。

秋田:そうですね、そういう面もあると思いますよ。おっしゃる通り、グリーン電力証書という仕組みがあります。太陽光、風力、バイオマス(生物資源)などの自然エネルギーで発電された電気の環境付加価値を、第三者認証機関(一般財団法人日本品質保証機構)の認証を得て、証書化して取引をすることが認められています。

ですから、使っている電力分の証書を購入することで、企業は「うちはクリーンな電力で事業を行っていますよ」ということが言えるようになります。

似たようなスキームとして、非化石証書Jクレジット制度というものもあります。

非化石証書は先ほどのグリーン電力と近いかもしれません。石油や石炭といった化石燃料を使わない非化石電源でつくった電気の非化石価値を証書化したものです。

また、Jクレジットの仕組みを使えば、電力に限らず、企業が事業で出すCO2をオフセットすることができます。なお、このカーボンオフセットという考え方については、次回以降お話しましょう。

―― なるほど、発電設備を持たなくても、そういったスキームを利用することで企業がクリーンエネルギーへの取り組みを行うことができるようになるのですね。もしも、どの企業もこぞってそういったクレジットや証書を買い求めるようになったら足りなくなるのでしょうか。

秋田:はい、原理的にはそうです。こういったクレジットなり証書なりは有限なものですから。

ただ、いまのところ日本国内では余裕があって、余っている状況です。どの企業も買いたがるようになれば、やがては足りなくなるかもしれませんね。

■メーカーには自前で発電・蓄電設備を整えるところも

―― グリーン電力を購入する以外にも、大企業では自前でクリーンエネルギーでの発電設備を備えるところも多くなっていますね。

秋田:その通りです。まず、メーカーであれば工場を持っていますから、その用地の中に太陽光発電などを備えるところも増えています。

自分たちで使う分は自分たちでつくるということですね。これは、環境面での責任を果たすということだけでなく、災害への備えにもなるというメリットがあります。自家発電した電力をそのまま使えるようにしておけば、停電時も操業を続けられます。

―― 自然エネルギーで電気がまかなえれば、電気代もかからなくていいですね。

秋田:もちろん電気料金の上昇対策、といった側面もあるでしょう。ただし、発電を行うというのはメリットばかりではないんですよ。

電気の特徴の一つに「ためることができない」というものがあります。太陽光発電なら基本は昼間つくったものを昼間その瞬間に使うしかないんです。

夜間は発電できないので、電気が使えません。同じく、風力発電であれば風が吹いているときしか使えないということになる。

このように発電量を人間がコントロールできない自然エネルギーでは、蓄電池をうまく組み合わせて使う必要が出てきます。たくさん発電できた時間帯の余った分を電池にためる。そして発電できない時間帯に回します。

■取引先が海外にも増えると「気候変動」を意識せざるえない

―― 電機メーカーや食品、医薬品など工場を持っている企業がクリーンな発電に取り組むのはよくわかります。一方で、金融や商社などものをつくるわけではない企業の多くもSDGsの取り組みとして「エネルギー」と「気候変動」を掲げていますよね。それはなぜですか。

秋田:それは、大企業だからこそ必要性があります。企業の規模が大きくなると、当然海外との取引も大きくなりますよね。

日本国内よりも欧米では二酸化炭素の排出についてずっと規制が厳しい。つまり、ヨーロッパ諸国にサービスを売ろうとしたときに、それをつくるのに使ったエネルギーの出自を問われることがある、ということです。

日本はいま、石炭由来の火力がメインの発電方法となっています。石炭火力はガス火力と比べてもCO2をたくさん排出しますから、そういった電力でつくった商品を諸外国に持っていったときに、その分だけ多く課税される可能性だってあるのです。

そこで、ステークホルダーが世界中に広がっている大企業ほど、クリーンな電力使用を高める必要がある。

だから企業規模が大きくなるほど、SDGsの中でも「エネルギー」「気候変動」への取り組みを優先度高く行う必要があるんですね。

―― なるほど、そんな理由があったんですね。では次回は、CO2の排出について、国内外の規制の違いや、企業の対応の違いをもう少し教えて下さい。