ドキュメンタリー映画「原発をとめた裁判長 そして原発をとめた農家たち」が9月10日から東京ポレポレ東中野を皮切りに公開する。目標金額300万円をクラウドファンディングで集めたところ、347万4880円が集まった作品だ。原発の危険性と自然エネルギーの可能性を描く本作の見所を紹介する。(Lond共同代表・石田 吉信)

本作品は冒頭、次のテロップから始まる。

「地震大国日本において、原発に安全性があるということは、原発に高度な耐震性があるということにほかならない。しかし、我が国の原発の耐震性は極めて低い。よって、原発の運転は許されない」

本作品の登場人物の樋口英明氏は福井地裁の元裁判長だ。樋口氏は関西電力大飯原発の運転停止命令を下したことで知られる。まず、本作品の背景を理解するために、樋口氏が運転停止命令を下した判決文を紹介したい。

「被告は本件原発の稼働が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張するが、当裁判所は、極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いの問題等とを並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的には許されないことであると考えている」

「コストの問題に関して国富の流出や喪失の議論があるが、たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても、これを国富の流出や損失というべきではなく、豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考えている」

「被告は、原子力発電所の稼働がCO2排出削減に資するもので環境面に優れている旨主張するが、原子力発電所でひとたび深刻事故が起こった場合の、環境汚染はすさまじいものであって、福島原発事故は我が国始まって以来最大の公害、環境汚染であることを照らすと、環境問題を原子力発電所の運転継続の根拠とすることは甚だしい筋違いである」

本作品を見た感想に戻る。この作品には東日本大地震における福島第一原発の事故で被災した人たちの悲観的な部分を強く描いた作品ではないと思った。

科学的だが、ゆっくりとしたペースで、テロップやナレーションなども交えて知識のない人にもわかりやすかった。原発の危険性を説明し、反原発を促し、国民の安全と平和を目指す希望のドキュメンタリーだと感じた。

昨今、IPCCの報告書を筆頭に気候危機が世界中で叫ばれている。地球の平均気温が1・5度上昇するまでに残された時間はわずかだ。残された時間をカウントダウンする時計「クライメートクロック」は刻々と進行していく。そのなかで、ウクライナでの侵略戦争が起き、最近 虚無感を感じることも多かったが、常にポジティブに、パワフルに行動する人たちの姿を見て、この映画から勇気をもらった。

「マグニチュード」や「震度」以外に、「観測地点での地震の加速度」を測定する「ガル」という単位がある。東日本大地震は2933ガルだった。福島第一原発の耐震性はその4分の1以下の600ガルだ。

地震学は「予測ができない」という前提がある。にも関わらず、電力会社は「耐震性を超える地震は来ない」と根拠のないことを言っている。その意味不明な理論で未だに裁判で勝ってしまうのも謎である。

それは何故か、元裁判長の樋口氏はこう説明した。

①裁判官は文系である
②任期が3年間と転勤が多い
③超多忙である(1人約200件担当)

劇中に登場した河合弘之・弁護士は、裁判官は電力会社が出す難解な数学式や膨大な資料に尻込みし、適正なジャッジがわからなくなる。その結果、「原子力規制委員会の判断を尊重する」という落とし所に収まると話す。

福島第一原発事故は、2機と4機で起きた「奇跡」によって、実は菅直人首相(当時)に依頼されて原子力委員会委員長の近藤駿介氏が作成した通称「最悪のシナリオ」を逃れていたという。

実際は奇跡が重なり15万人余の避難で済んだが、もし、奇跡が起きていなければ3000万人規模の避難となり東日本は壊滅していたと樋口氏は講演で語る。

劇中で二本松有機農業研究会の大内督代表は、「当初太陽光発電には大反対でした」と明かした。山の景観を壊してソーラーパネルを置くことには賛成できなかったとするが、「農地を使ったソーラーシェアリングを見た時には目から鱗だった。これならやっていいんじゃないの、これならやれると思った」と語っていた。

ソーラーシェアリングは夏の暑すぎる日光も農作物に対して快適に調整してくれる。畑や田んぼというのはそもそも日当たりの良いところに作られているのでマッチするのだ。

しかし、ソーラーシェアリングを推進するには、課題もある。

①資金の壁
②住民との合意形成の壁
③許認可の壁
――の3つの壁だ。特に許認可の壁が厳しいと語っていた。これを国を挙げて推進、広く導入しやすいように早急に申請の最適化をすべきだと強く思った。

二本松営農ソーラーの近藤恵・代表は終盤で「農場で希望を表現する」と涙ぐみながら語っていた。福島第一原発事故からたくさんの挫折をした先にこれからの未来へと希望を示そうとする様は、この映画の中で心に強く残った部分でとても勇気付けられた。

この作品は9月10日本のポレポレ東中野から全国で公開が始まる。小原浩靖監督が試写会で、9月10日から始まるポレポレ東中野の初週動員数が今後の公開館の数に影響すると言っていた。応援の意も込めて、改めて公開週にもう一度観に行こうと思う。

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参考情報:ふくしまミエルカ PROJECT

《公開劇場(8/9時点)》
北海道 シアターキノ 10/29(土)〜11/2(水)
山形  フォーラム山形 10/7(金)〜
宮城  フォーラム仙台 10/7(金)〜
福島  フォーラム福島 10/7(金)〜
群馬  シネマテークたかさき 10/7(金)〜
東京  ポレポレ東中野 9/10(土)〜
神奈川 横浜・シネマジャック&ベティ
静岡  シネマイーラ 11月公開
長野  長野相生座・ロキシー
愛知  名古屋シネマテーク 9/17(土)〜
京都  京都シネマ 9/23(金)〜
大阪  第七藝術劇場 9/24(土)〜
兵庫  元町映画館
広島  福山駅前シネマモード
広島  横川シネマ 10/14(金)〜
愛媛  シネマルナティック
大分  別府ブルーバード劇場 9/16(金)〜
鹿児島 ガーデンズシネマ
沖縄  シアタードーナツ  10月公開