民泊で若者と交流、日々に彩り

大震災を経験した東北の小さな漁師町にはどのような人が住んでいるのか。東日本大震災から6年が経過したなか、復興へ向けて立ち上がる人々の素顔を若者が追った。自宅や漁船が被害に遭い、親友まで失った彼/彼女らはどのような思いで日々を生きているのか話を聞いた。

舞台は、岩手県陸前高田市広田町。人口3500人で、広田湾に面した漁師町。震災時には、広田湾と太平洋の両側から津波被害を受け、本島と分断された。死者・行方不明者は50人超、1112世帯中400の世帯が全壊・半壊となった。町に１校あった中学校も津波で流され、150隻あった漁船も１隻を除いて全てなくなった。

広田町は外部のNPOを受け入れていなかったが、震災を機に、この町はある団体と出会った。20代の若者たちからなるNPO法人SETだ。

同団体では、毎年都内に住む大学生を広田町に連れてきて、住民とともに地域の課題を解決する企画を行っている。今回、SETの学生メンバーが広田町の住民にインタビューした。

■「心の豊かさを本気で追いかけて」

「みんなうちの子」――。全国から来た高校生や大学生に民泊として自宅を提供する木村貴子さん。若者を受け入れるその姿から、「広田の母」と呼ばれている。外から来た若者をこれだけお世話するのは、自分自身が「よそ者」で、周囲に馴染めずに過ごした辛い原体験があるからだろう。（NPO法人SET＝荷川取佑太・青山学院大学教育人間科学部3年）

広田の母と呼ばれる木村さん（左）を囲んで

貴子さんは2012年に青森県弘前市から広田に来た。天然石アクセサリー作家として働きながら、家事もこなす。

貴子さんは広田に来た当初、ほとんど家から出ない生活をしていたという。外に出ても「よそ者」の貴子さんは、周りの生活に馴染めずにいた。近所の人に話しかけたくても、「おばあちゃんたちの方言がきつくて、何を言っているのか分からなかった」。仕事でお客さんと話すことと、夫である義則さんと過ごす時間が唯一の幸せであった。

そんな毎日に変化を与えたのが、NPO法人SETとの出会いだ。「この町を残したい」、こう熱く話す三井俊介さん(当団体代表)の活動に疑問を抱いていた。何がこの人たちをここまで動かすのか。どうして広田に来てくれるのか分からなかった。

根岬で行われた伝統的なお祭りにも、彼らの姿があった。年々、若者が減っていき、今年で最後になると言われていたお祭りだ。無くなると分かっているのに何も変えず、消えていく文化をただ見守るだけのこの町の雰囲気が嫌いだった。だからこそ、SETのメンバーが神輿を担ぎ、祭りを盛り上げる姿に心を打たれた。

そして、貴子さんの生活を大きく変えた二人の大学生と出会う。ふと家の外を眺めると、二人の大学生が緊張した面持ちで立っていた。話を聞くと、SETの大学生だという。どうやって声をかけていいのか分からず家の前を行ったり来たりしていたという2人を見つけて声をかけてみると、それまで緊張してこわばっていた顔は一気に晴れて、嬉しそうに話し始めた。

貴子さんが「何をしに来たの？」と聞いた。すると、その2人の口からは、「この町を良くしたい」という言葉が出てきた。

最初はどういうこと？と思っていた。

その後、彼女達とお茶っ子や食事を共にする内に、この町を良くしたいという想いが少しずつ伝わってきた。その想いに心を動かされた。気付くと貴子さんは、自分もこの子たちのように、何かに向かって全力で打ち込んでみたい。私も混ぜてほしい！と思うようになっていた。

そうして、貴子さんの日常は変わっていく。大学生のために食事やおやつを作り、次は何を作ろうかな？とふと考えてみる。毎日をただ過ごすだけだったのが、今は笑顔で溢れている。