高度経済成長の際に、都心に近い地方を売りにベッドタウンとして栄えた千葉県松戸市。そのなごりから、千葉県内2番目に完成された常盤平団地を始め、今も数多くの団地が残っている。そんな生きる遺産のひとつである野菊野団地の裏側に京葉流通センターという商店群がある。駅からはバス便と距離も遠く、外観はまるでスラム街とも称されるようなところだが、近年はエシカル企業が集まるエリアとして注目を集めている。

センター全体に並ぶガレージ。2階には居住スペースもある。


代表格は有限会社スロー。同社はオーガニック、フェアトレードのコーヒー豆のみを自社焙煎することに特化し、利益や効率ばかりを優先するのではなく、暮らしのペースを落とすことで丁寧に持続可能な社会を作ることを目指すスロームーブメントのパイオニア的存在。2000年の創業以来、直営カフェ・スローコーヒー八柱店を2009年にオープンしてからも、本社と焙煎工場を京葉流通センターに構えている。

創業以来、センター内で焙煎を続けている。


元々、松戸が出身で子どもの頃から、この近所で遊んでいたという代表の小澤陽祐さんは「焙煎・製造・発送までできるので、コーヒーを作るのに最適だし、何よりこのスラム街のような雰囲気がたまらない」と語り「銀行に文具屋、厨房機器屋など駅から遠いことを除けば働く環境も整っている」と、本拠を構える理由を語る。

2011年5月には玄米菜食の自然派カフェ「晴れる家cafe」も同センターにオープンした。代表の斎藤晃さんは当初は別の場所で出店することも考えていたが「悪立地のこの場所で繁盛すればどこでも成功できる」と、ここでの開業を決心。もともと奥さんのかおりさんと共に住居兼陶芸のアトリエと使用していた同センターを仲間とともに改装しcafeにした。現在は立地の不便さをものともせず、在来種・自然栽培でできた食材や発酵食品にこだわる同社のコンセプトに惹かれた顧客が、神奈川や埼玉など、遠方からも足を運ぶような繁盛店となっている。

晴れる家cafe外観。壁は土壁、外のプランターでは自然栽培で野菜を育てている。


「センターから徒歩2分のところにも、ガン治療にマクロビ料理を取り入れたパイオニア的な治療院があるなど、健康意識が高い方が集まる土壌が揃っている」と魅力を語る斎藤さん。「悪立地で成功をすれば穴場として知られるようになる」と今後に期待を膨らませる。

こうしたコミュニティに惹かれ、京葉流通センターを求めて移転してきた企業もある。「株式会社ラコミューン」は、ハタヤというブランドを展開するベジ食材の卸専門会社。元々、南麻布と松戸市内の別の場所を拠点にしていた同社は2012年の1月に京葉流通センターに移転した。代表の宇佐美國之さんが松戸で育った地元住民というのも移転理由のひとつだ。「地元にこんな素晴らしいコミュニティがあると知りすぐに移転を決めた」と宇佐美さん。「古くからある商店特有の閉鎖性はなく、みんな温かく受け入れてくれる」と、移転後ますます同センターに魅力を感じているそうだ。

肉のような食感があるベジミートなど、ベジタリアンに人気の食材を卸している。


京葉流通センターだけにとどまらず、半径3㌔圏内にはオーガニックレストランCAMOO、オーガニックカフェきれいのたね natural table、無農薬野菜の直売所などがエシカル企業がひしめきあい相乗効果を生んでいるこのエリア。

ホットスポットの逆境を乗り越え、松戸がオーガニックタウンとして知られる日も、そう遠くはないであろう。

有限会社スロー
晴れる家cafe
株式会社ラコミューン
オーガニックCAMOO
きれいのたね natural table