自社企画の衣料品や雑貨をカタログやインターネットを通じて全国販売するフェリシモ(神戸市)。経営理念に「ともにしあわせになるしあわせ」を掲げ、事業性、社会性、独創性の3つの領域が交わる事業活動を行う。毎年就職希望者は8000人を超える「モテ企業」だ。「haco. PEACE BY PEACE COTTON PROJECT」や「NUSY LOVE & PEACE PROJECT」を立ち上げた(株)フェリシモ第一事業部新規事業室室長の葛西龍也さんに話を聞いた。

聞き手)オルタナS特派員=串橋瑠美、北村勇気、板里彩乃、大下ショヘル
写真)オルタナS編集部=大下ショヘル

葛西龍也
「何か社会に訴えかける仕事がしたい」とフェリシモに入社。20代から40代の既婚女性を対象としていたフェリシモで、新しく若い年齢層に向けてのカタログhaco.を作り上げた。葛西さんの手掛ける「haco. PEACE BY PEACE COTTON PROJECT」ではオーガニックコットンの製品を基金付きで販売している。

フェリシモは、自社企画の衣料品や雑貨をカタログやインターネットを通じて全国で販売している。経営理念である「しあわせ社会学の確立と実践」の下にある「良心」「発達」「関係」「創造」という価値観によって顧客との継続的関係性を築いている。

さらに、基金付き商品の販売などを通じて、お客様とともに環境保全、健康支援、自立支援、文化創造などに向けて、幅広い社会文化活動も行う。例えば、90年には「フェリシモの森基金」を開始し、これまでに国内外34カ所で森づくりを推進してきた。環境に配慮したエコ商品のカタログ「エコラ」も発行している。

■ オーガニックコットン製品の循環モデルを通じて、農村経営まで支援

葛西さんは、2004年に若者向けのブランド「haco.(ハコ)」を立ち上げた。また、世界の子どもたちのための基金付きメッセージTシャツを企画販売する「NUSY LOVE & PEACE PROJECT」などの新しいプロジェクトも実施してきた。

なかでも、オーガニックコットンを使った「haco.PEACE BY PEACE COTTON PROJECT」(PBPCP)は興味深い。インド産のオーガニックコットンを使用した手袋「mente」はこれまでに23427枚を売り上げた。人気ブランドの「LEE」とコラボのデニムを作ったり、ファッション誌「JILLE」とおしゃれなバッグを作ったり、社外の人たちからの賛同も得て、これまでにない広がりを見せている。2012年2月末現在で、PBPコットン基金は9万着以上のアイテムを販売、総額で3千万円以上の基金が集まった。

このプロジェクトは、インドの生産者やNGOとのコネクションもない状態から2008年にスタートした。単に、すでにあるオーガニックコットンを用いたファッションを企画して販売する、というこれまでの一方的な流れではない、もっと現地に踏み込んだプロセスを作りたい、と葛西さんは考えた。そして、インドの綿農家が有機綿を栽培しそれを輸入し、日本で紡績・製品化し、日本の消費者に使ってもらい、その基金をまた現地の子供たちの教育支援や農家の経営支援にもつなげる、といった、トータルな循環モデルを目指した。(この循環型プロジェクトが新しい、と評価され、2011年のグッドデザイン賞を受賞した)

 

写真提供=㈱フェリシモ

通常、綿花栽培では大量の化学肥料と農薬が使われている。残留農薬は少ないので、最終製品の人体への影響はない。だが、生産現場である農家では、農薬や収穫前にまかれる落葉剤の影響による健康被害、また、貧しさゆえの児童労働などが問題視されている。

とはいえ、オーガニックコットンを生産するのは簡単ではない。農薬を使って生産するコットンの生産を止めて、農薬を使わないオーガニックコットンの認定を受けるまで3年かかる。オーガニックコットンの認定を受けるまでの間に生産されたコットンは「トランジットコットン」と呼ばれるが、切り替え期間中は収穫量が減るため、綿農家は収入が一時的に減少するなどの問題が発生する。その間をどう支援するか、といった具体的な課題が山積しているのだ。

こういうプロジェクトでは、パートナーシップがとても大切になる。現地で有機綿の栽培と農民の生活改善に取り組むNPOを探す際も、苦労した。

あてもない中で「見通しが見えないこと、先が見えないことが辛かった」と葛西さんは言う。しかし真摯に活動していく中で現地の人に思いが伝わり、協力を得られた。このプロジェクトの志の高さや公共性に共感し、JICAのインド事務所が現地調査をかって出てくれたのも本当にうれしかったそうだ。葛西さんは、とにかく人と会い、話してみることが大事、という。

その後、このプロジェクトは、日本の生産地の支援にもつなげたい、とますます広がりを見せている。

葛西さんは、「買う時に『安い、早い、うまい』以外のもっと本質的な文脈で自分のお金を使いたいと思う「責任ある消費者」が増えていくと思っている。」と語る。そういう時代に、企業としても短期的な利益を追い求めるのではなく、50年先を見据えて、事業やプロジェクトを動かしていく必要があると思っているのだという。

 

 

■  個性や価値観をみとめあい、社会に働きかけを

フェリシモでは、毎週水曜日の午前中、「部活動」が認められているという。「森活部」、「地球村」、「猫部」などがあり、組織の枠を超えた発展的な活動で社員の趣味や専門性を商品や事業に生かすという目的がある。「森活部」では、「フェリシモの森基金」の植林運動を実施し、また木製の可愛らしいインテリアや雑貨の商品開発などを行っている。

「地球村」の「フェリシモ 地球村の基金」では、世界45か国の121の活動を支援している。また「猫部」では動物保護活動を行ったり、「フェリシモ猫基金」付きのファッション小物や文具などを製品化したりしている。

このほか、「女子DIY部」などもあり、家具や小物の修理方法などを顧客と共有しているという。これらの部活動があることで、社員の強い繋がりが生まれている。

■ 今の若者は「年輪世代」。日本の良さを世界に発信してほしい

葛西さんは現在の若者を「年輪世代」と呼ぶ。現在の若者は、ある程度個性が決まっていて、その個性を自分の形で無理せず練っていく。それまでの世代の、「自分たちはこうならねば、こうありたい」というのに比べ、肩に力が入っていない世代だと言う。

また「年輪」の世代は、物事を本質的に見ていると葛西さんは言う。例えば環境問題に対しても、車に乗って排気ガスを撒き散らすよりはシェアでもいいから環境に優しい行動を取ろうと思うのだ。

そのような価値観を持つ事が出来れば、「世界に対して訴えられることがあるはず」と葛西さんは言う。そして「物質的では無く、日本にある伝統的なものや文化的に価値があるもの、海外の人が良いと思えるようなものを外に出して行くことが大切」と葛西さんは話す。

葛西さんは、製品や物質をより良くすることだけではなく、理念や良心を深く追求し、50年後、次の世代に繋がることを常に考えている。そして「利益よりも感謝の気持ちを大切にするような企業であり続けることが大切」「明日以降は全部自分たちが作る」と力強く語った。自分の良心を強く持ち、それに従うことで将来から評価されることが出来るのだろう。(オルタナS特派員=串橋瑠美)


株式会社フェリシモ:www.felissimo.co.jp

           

1)オーガニックコットン生産へ向けて、農村経営まで支援、新しいモデルを創造

2)若い世代の心をとらえるソーシャルで可愛い製品づくり

3)個性や価値観をみとめあい、社会に働きかけを