中村祥子さん(23)は生まれつき耳がきこえない。普段、大勢と話すときには苦労するが、サッカーをしている時は別だという。健常者も障がい者も関係なく、ただボールを追いかけていられるからだ。「将来はサッカーを通して障がいをもっと身近に感じてもらいたい」と目標を語る中村さんに話を伺った。(オルタナS副編集長=池田真隆)

中村祥子さん


■障がいをもっていても、サッカーが好きな気持ちはみんな一緒

——現在、IT会社に務めていますが、ビジネススクール「社会起業大学」に通っています。「将来は障がいを身近に感じてもらう世の中」を目指していますが、障がいが身近に感じない要因は何があると思いますか。

中村:一言でまとめると「障害をもつ人への接し方がわからない」という人が多い。障害をもっているから嫌だ、とかそういう差別は昔に比べてずいぶん減ったと思うが、どうやってサポートしたらいいのかわからないから、「何かしたい」けどできない人が多いと思う。

例えば、私だったら、PCとか筆談などで言葉を表してもらえれば、それだけでOKなのだけど、初対面の人にいきなり「耳が聞こえないので」と言っても、どうすればいいかわからなくて戸惑う人もまだまだいる。

——実際、社会では障がいをもっていることで、差別や偏見を受けてしまう人たちがいます。中村さんの周りでも聴覚障がいが原因で悲しい経験をされた方はいますか。

中村:私自身は幸運なことに差別を感じたことはあまりない。けど、先輩たちの中には就職差別を受けた人がたくさんいる。「耳が聞こえない」という理由で、参加したいセミナーに断られていた。今では、対応をしてもらえる企業が増えてきたが、当時は聴覚障がい者に対する扱いはひどかったと思う。

——サッカーを通して障がいを身近に感じてもらうために勉強しています。サッカーにはいつ出会ったのでしょうか。また、サッカーしている時はどのような気分なのでしょうか。

中村:サッカーを始めたのは大学から。「筑波技術大学」という国立の大学で、国唯一の「聞こえない人」「見えない人」のための大学。大学のフットサルサークルを通して、デフ(聴覚障害)サッカーやデフフットサルがあることを知った。

障がいを持っていてもサッカーやフットサルが好きなのはみんな一緒で、ピッチ上では思ったより「障がい」という気がしなかった。

■声や音が聞こえない分、見ているものから細かい情報を得ている

——サッカーをしている時には、声を出さずにアイコンタクトやジェスチャーでプレーしますが、その様子を見ている人からは「声を出さずにプレーできてすごい」と言われるそうですね。

中村:フットサル元日本代表の相根澄さんにも「フットサルを教えるときに、常々声を大事にしろと教えてきたが、sord(中村さんの所属するチーム)のプレーを見て、声を出さなくても、アイコンタクトやジェスチャーで工夫をしながらプレーができるということを知って、まだまだ自分は勉強不足だと感じた」と言われたことがある。

でも、私たちにとっては普段の生活から「声」や「音」がないのが当たり前で、逆に声に頼りながらプレーをするということが、すごいと思う。そのギャップは、聞こえ方が違っていたら出てきて当たり前のギャップだと思う。

ただ、「聞こえないのにフットサルができることはすごいね」と単に言われると、「障がいを持つ人は何もできないイメージをやっぱり持たれているのかな」と感じてしまう。同じことを言われても、その人が発するニュアンスで受け止め方も変わってくる。

——サッカーでは、ジェスチャーやアイコンタクトで連携を取っていますが、普段の生活から、人のことはよく観察しているのでしょうか?

中村:「しょうこは誰よりも早くお客様が来たことに気付くし、帰ろうとしていることにも気づくし、お客様に合ったニーズを発見するのが、誰よりも上手」とスターバックスでアルバイトしているときに、店長に褒められたことがある。
声や音がわからない分、見ているものから細かい情報をキャッチしようとする力は、聞こえる人に比べると、高いと思う。

■障がい者本人のニーズを聞いて、本人に合ったサポートをすることが必要

——そうなのですね。中村さんにとって「障がい」とは何でしょうか。また、障がいを身近に感じてもらうために、サッカーで実現しようと思っていることを教えてください。

中村:「障がい」は「差別」されるものではなくて「区別」されるものだと思っている。例えば「外国人」「男性」「高齢者」とかと同じように。だから私自身は「障がい」という言葉に対してマイナスなイメージはもっていない。「障がい」があるから敬遠したいという気持ちや考え方そのものが、「障がい」になると思っている。

例えば、小さいころから身近にダウン症の子がいたら、その人たちにとって「ダウン症」は「障がい」ではなくて、その子(ダウン症の)の「個性」になる。接し方ももちろんわかるし、それが「障がい」とはお互い思わないはず。

最終的にはサッカースクールを作って、小さいうちから「障がい」あるなし関係なく一緒にボールを蹴ったり遊んだりしてその子たちにとって「障がい」が「当たり前」なものになってもらえたらなと思っている。

もちろん大人にとっても同じ。今まで「障がい」をもつ人に関わる機会がなかったから「何かしたいけど、どうすればいいかわからない」「障害をもつ人との壁を感じる」という人も多い。でも、「個サル(個人参加型フットサル)をやりましょう、障害あるなし関係なく楽しみましょう」だったら、「じゃあちょっと行ってみようかな」と気軽に参加して、自然に障がいをもつ人との交流が生まれるような場所を作りたいなと思う。

——中村さんがサッカーで実現しようとしている社会のために、私たちは何をしたらよいでしょうか。

中村:例えば海外旅行に行くときには、その国の文化のことを勉強する人が多いと思う。それと同じように障害がいをもつ人に対しても「何が違うのかな」と興味をもったら、どんどん聞いてみてほしい。

障害をもつ人にもそれぞれ求めているものが違うから、障害をもつ本人に「どうしたらいい?」と聞いてみると、「こうしてほしい」と言いやすい。
たとえば、「耳がきこえないです」(でも手話はできない)と言ったときに「じゃあ手話通訳をつければいいか」と勝手に判断されると、それは全然サポートにもならない。
本人のニーズを聞いて、本人に合ったサポートが必要だということがわかってもらえれば、それだけでも接し方が違ってくると思う。

障害をもつ人にとっても、まだ「暮らしにくい」と思う部分がたくさんあると思うが、昔に比べると「社会貢献」や「誰かのためになにかをしたい」という人はすごく増えていると思う。

もし「障害をもつ人を支えたいけど、どうしたらいいかわからない」と思ったら一度、サッカーでも他の手段でもいいから、まず障がいをもつ人と触れ合ってみてからいろいろ考えてもらえたらいいな、と思っています。


中村祥子/1988.07.03/大阪生まれ/生まれつき耳がきこえない。小さいころから自分の障害に対していろいろ考え福祉分野に強く興味を持ち始める。大学でフットサルを始め障害者サッカーの存在も知る。サッカーを通していろいろな人と出会い障害をもつもたない関わらず一緒に楽しく蹴れたらと思うようになる。

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