足立区のある民家に週に一回集まってくる子ども達がいる。10人以上のわんぱく盛りの少年たちは、そこで一緒に遊び、一緒に食事を作り、一緒に学ぶ。帰宅する頃には夜の10時を回ろうとしている。
この民家は特別な名前を持っているわけではない。団体名があるわけでもない。しかし、現在の日本が抱えているある問題を解決する方法を模索しているのである。それは「子どもの貧困」である。
日本の子ども(18歳未満)の貧困率は14.9%とされている(ユニセフ)。これは先進35カ国中27位である。現代の日本でも、親の収入が不安定な家庭の子どもは、教材費が払えなかったり、医療費が払えず医者に行けない、家で一人で食事を取らなければいけないということが決して珍しくない。
こうした「子どもの貧困」をまずは自分の周りから助けていこうとしているのが、この家のお母さんで、「しんぶん赤旗」の記者でもある荻野悦子さん。現在、週に一回を息子の同級生たちが遊び、勉強をし、食事をできる場として自宅を開放している。
ここに集まる子ども達もみんなが家庭に何らかの事情を抱えている。
当初、荻野さんがこうした活動をはじめるきっかけになったのは、学童保育の問題である。日本の学童保育は基本的には小学校3年生まで。しかし、両親ともに働いていたり、シングルマザーの家庭では、子どもの面倒を見る人がいない。
そこで、荻野さんは数人の母親と当番制で子ども達の面倒をみることにした。そうしていくうちに、他の子供たちも自然と集まるようになった。そして、もうひとつの転機があった。
ちょうどその頃、荻野さんが記者として「子どもの貧困」を取材することになったのだ。その取材の中で、物乞いをして生活をする子どもや家庭内暴力を受けて孤立する子どもなどを知って愕然とし、きちんとした形で運営しようと考えた。(※取材は本として出版されています。新日本出版社「誰かボクに、食べものちょうだい」)
荻野さんは現在の活動を広げたいと思う一方、同時に今来ている子供たちの面倒を長い目で見たいという。「近い将来にNPOなどを立ちあげて、ネットワークを作りたいと思っている。今は大学生の協力も得て学習支援もしているが、子供たちが高校に入ればそれで終りというわけではない。我慢強さや相談相手がいなければ、高校を辞めてしまったり、社会に出てからも仕事が続かない。」
こうした活動は、少しづつ広がっている。ここ最近、生活保護の問題が取りざたされているが、子どもの教育・生活はこうした問題と無関係ではない。そういう子供たちが自らの内なる問題を上手く処理できないことは、社会へ上手く溶け込めず、そして何らかの社会保障に頼らざるをえなくなる可能性が高いからだ。
もちろん子どもには責任はないが、一方で親にだけ責任を押し付けることもできない。社会が抱える問題の責任を誰か一人に押し付けるのではなく、社会全体で少しづつ負担を分け合うことも一つのあり方ではないだろうか。(オルタナS副編集長=大下ショヘル)