2011年5月、旅行者としてシンガポールを訪れた。ゴミのポイ捨てに罰金制度があることをご存知の方も多いだろう。チャンギ国際空港をはじめ、至る場所にゴミ箱が設置されている。店舗さえない道路の途中にだってある。
そのような街にはエシカルアートがあるに違いない。簡単に説明を付け加えておくと、エシカルアートとは、環境や社会に配慮する思考をもとに作られた作品のことだ。旅中、筆者が美術館や街中で見つけたエシカルアートを紹介しよう。
ひとつめはシンガポール・アート・ミュージアムで見つけたフィリピンの作家による作品だ。タイトルは『Wings』。ご覧の通り、羽だ。この羽、何でできているか分かるだろうか。

 

『Wings』Alfredo&Isabel Aquilizan 2009年 フィリピン

 

実は、これはゴミから生まれた作品だ。シンガポールの刑務所から集められたゴム製のサンダルを組み立てて造形している。この作品が持つテーマは明快だ。刑務所に収容されている人々の願望を表現している。だが、それと共にゴミから生まれる美しさも表現している。遠くから見れば、羨ましいとさえ思う天使の羽。近くで見ればただの人工物であるという皮肉。自然、思考は環境問題に向かう。あなたはこの羽で空を飛びたいだろうか。

 

 

ふたつめの作品は、Tシャツを買ったお土産屋から。Tシャツが入っているビニル袋の全体像をご覧いただきたい。

 

シンガポールのシンボル、マーライオンのTシャツを購入。ビニル袋に収められている。

 

 

“I AM A FINE TOURIST”(私は良い旅行者です)と書かれている。どういうことだろうか。下半分の拡大図を見てみよう。なんと、ここにはTシャツを収めたビニル袋の再利用方法が記されているのだ。この袋はただのおもちゃではありません、と断った上で3通りのアクションを提案している。

 

 

まず、友人に贈り物をする際にプレゼントを入れて使う方法、次に国際線搭乗の際に液体物を分けて詰める袋として使う方法、最後に思い出の写真などを入れてフォトフレームにする方法だ。言葉にしてしまうと素っ気ないが、かわいいイラストを交えさりげなくリユースを提案しているところが良い。Tシャツの袋はゴミとも思わず捨てるのが常だが、そこに新たな視点を投げかける。これこそエシカルアートだろう。

 

エシカルアートは、押し売り的に主義主観を主張する作品ではない。価値観の転換は、一朝一夕ではないからだ。しかし、それを見た瞬間に波紋が広がるように、心を揺さ振ることがある。