幅広い分野の若手起業家と、多種多様な学生との交流・勉強の場を月に一度のペースで、提供している「ダイヤモンド・フロンティア・アカデミー起業家講座」をご存知だろうか。

これは、2012年4月に開始された取り組みで、14名の有望若手起業家を招き、将来起業を目指す学生に向けて全8回で行われる起業支援プログラムのことである。(※現在、学生の募集は行なっていない。)

今回は、この仕掛け人であるダイヤモンド経営者倶楽部 メディアインキュベイト事業部 北村和郎(きたむら かずろう)氏にお話を伺った。


ダイヤモンド経営者倶楽部では、2005年から学生向けに「起業やビジネス」を軸とした、大型イベントや交流会をたびたび開催してきたそうだ。そのきっかけを北村氏に伺うと、「ダイヤモンド経営者倶楽部の仕事の中で、膨大な数の経営者と会い、さまざまな事業モデルを見る中で、その情報や発見、刺激をもっと多くの人に伝えたくなった」と感じたからだそうだ。「すべてが自分個人に帰属してしまってはつまらないと感じた」とも。

そして「少しでも誰かに伝えたい」と考えたとき、起業などの大きなチャレンジをしようという意欲の高い学生を対象にするべきだと感じ、その後さまざまな活動を始めるようになった」という。



今回の「ダイヤモンド・フロンティア・アカデミー起業家講座」の前身にあるのは、2007-2008年に20代のスタートアップ経営者に向けて開催した起業家講座だ。

北村氏は、「当時を代表する第一線の起業家に12名講師にお集まりいただき、受講者も同世代起業家の推薦によるスカウトをメインに行ったので、その頃注目されていた若手起業家は殆どと言っていいほど集まりました。史上最年少上場を実現したリブセンスの村上社長も2008年度の受講生です」と当時の状況を振り返る。

その後、数年が経ち、村上氏に代表されるように当時受講していた起業家が大きな成果を出し始めたため、次は彼らを講師側に立たせ、さらに次の世代へのスパイラルを生み出そうと考えたのだ。

「昨今のスタートアップブームの中で、起業家向けのプログラムや講演会は無数に出てきましたが、これまで新興ベンチャーから超アナログ企業まで、数千人もの経営者に会い、そして学生向けイベントも多数主宰してきた自分ならではのコンセプトの立て方があると思い、もう一度講座を立ち上げようと思ったのです。

その価値観の軸にあるのは、『自分が正しいと思うことに忠実になる』その一点ですね。この講座は一切の収益を生まないですし、起業家を育てること自体も本業ではありません。でも一方で幸いなことに、『この人を呼びたい!』と思う経営者の方々にご協力いただける環境があった。だからこそ何のしがらみも会社の都合も無く、完全にニュートラルなプログラムを創ることができると思ったんです」

また、昨今のスタートアップブームにも懸念が多かったという。
「最近になって論調が変わって、共感できる部分も増えてきましたが、講座を立ち上げようと思った時は疑問や葛藤だらけでした」と語る。

それは、「起業の題材がWebサービスやアプリに傾倒しているが、もっと他にも大きなビジネスシーズがあることを知ってほしいこと」や、「経営の部分に触れずに、サービスを作ることをゴールにしていることが多いこと」、「安易なスピード重視/短期決戦の価値観が先行し、中長期的なスケール感が伝わってこないこと」などだったそうだ。

このような意識のもと、「より多くの業界から多数の起業家に来ていただくこと」を核に、ゲスト選定は「新しいマーケットの開拓、既存の仕組みの変革など、ビジネスモデルに独自のこだわりを持ち、質&量的規模の追求への意識が高い経営者」をセレクトした。

そして、「受講者と大きく年齢が変わらない、20代~30歳前後のアーリーステージの起業家に絞り、この先どうなっていくか、その成長過程を共有していくこと」などを価値観の中心に置いてプログラムを立てたのだという。



「今回の講座では今すぐの成果を求めるのではなく、『知らない世界へ視野を広げさせること』や、『さまざまな起業家の感性に触れること』。そこまでの提供でいいと考えています。起業家志向の学生と言っても、まだ多くの場合は、『ちょっとしたきっかけや刺激』を与えることができれば十分なのではないでしょうか。正直、目指すのは起業家でなくたっていい。起業家でなくても自己実現の方法はたくさんあるはずだし、自らがトップにならないことで、さらにスケール大きな何かを成し遂げられるかもしれない。ただ『起業家精神』は、どの世界に行っても武器になるので、それが伝わったらと。そもそもここに来る学生たちは、ほかっておいても何か自分で手掛けていく子たちです。ですからこの講座は、その内容に膨らみを持たせ、可能性を増大させるきっかけであればいいと思うんです。『甘い』とか『中途半端』とか言われるかもしれませんが、ビジネスで運営しているのではないからこそ、そういう立ち位置でいることができるわけですから」

今まで北村氏の周りに集まってきた学生の中からは、起業家としてそしてアートやファッションやさまざまな分野での専門家としてなど、幅広い領域で大きな活躍をしている人たちが多数生まれてきているそうだ。そして時々集まり、お互いに良い刺激を共有しあい、素敵な相乗効果があちこちで生まれているともいう。



「若い頃は高い意欲とハングリー精神は持っていても、殆どにおいて年を重ねるごとに現実的な世界に引き戻されていきます。でも周りに『負けたくない相手』が居続けたら、自分自身も頑張らざるを得なくなる。そういう緊張感が持続できる出会いのきっかけにしたい。

そしてその輪に自分も交じって夢を語り合えれば楽しいじゃないですか。『なんでこんな割の合わないことばかりしているの?』ってよく言われますが、その理由は突き詰めればこんなシンプルなものじゃないかって思うんです。それほど大それたものではない(笑)。

実は自分の周りに集まってくる若い子たちには大きな特徴があって、起業家志向や野心が強い子であっても、自分の利益のために帰結するタイプはまずいません。いい意味で『いい恰好しい』です。一見無駄なことのようでも無駄と思わず、すぐに成果のでなさそうなことに必死になれ、自分より周りのために時間を使える子たちが多い。でもその中で人並み以上に自身も社会的に成長していく。そこに自分自身大きな刺激を受けています。

新しい文化や価値観や仕組み、そして記録や発見などは、殆どの場合において『そこまでしなくてもいいのに』『そんなことをして意味があるの?』という、一種の軽蔑や嘲笑の中から生まれることが多いはずです。ビジネスしかり学問や芸術しかり、スポーツや芸能とかもみな同じだと思います。

社会がここまで閉塞感漂う状況になってくると、人がみな近視眼的になるのは致し方ないかもしれません。でもだからこそ、社会的にある程度以上の地位を目指せる資質を持った人には、もっと中長期的で複眼的な視点を持つ人が増えてほしいし、『そこまでしなくてもいいのに』と言われるまでチャレンジしてほしいと思っています。

そういう人の登場を待っている大人は社会にはいっぱいいるし、応援したがっている人たちもたくさん存在する。だからこそ無謀なチャレンジが結構成功したりする。

『夢が持てない時代だからこそ頑張る。大変そうだからこそチャレンジする。結果がどうあったってそのほうがかっこいいじゃん』、そんな天邪鬼な、でも真っ直ぐな価値観を持つ人の裾野が、もっと増えると社会はもっと楽しくなるんじゃないかって思っていますし、そういう人たちが羽ばたくチャンスをこれからも提供できればと考えています。」と若者に対する激励のメッセージで締めくくってくれた。(オルタナS特派員=内藤聡)

ダイヤモンド・フロンティア・アカデミー起業家講座