経済協力開発機構(OECD)が、各国の教育事情を評価したデータ集「図表でみる教育2012」を発表した。そこでは、日本の教育事情が世界の国々と比較されて記載されている。このデータ集の要点を、開発メディアganas記者の長光大慈氏に寄稿してもらった。





経済協力開発機構(OECD)は先ごろ、「図表でみる教育2012」を発表した。OECD各国の教育事情を比較したデータ集で、日本の教育の特徴として「教員の労働時間は長いが、授業時間は短い」「学級人数が多い」「家計負担が重い」「25~34歳の57%が高等教育を修了している」などが浮き彫りとなった。要点を下にまとめた。

教育現場から日本社会を見る


■教員待遇と学級規模
・経験のある教員の給与は高い
日本の勤続15年の初等・中等教育の教員の年間法定給与は平均で4万4788ドル。これはOECD平均(初等=小学校3万7603ドル、前期中等=中学校3万9401ドル、後期中等=高校4万1182ドル)より高い。

・低い初任給、優秀な人材が来ない?
日本の初等・中等教育の教員の初任給は年間2万5454ドルと、OECD平均(小学校2万8523ドル、中学校2万9801ドル、高校3万899ドル)を下回る。これは優秀な人材を教職に誘致するうえで課題になっている、とOECDは分析する。

・減少する実質給与、OECDで最悪
00~10年に、データが存在するほとんどの国で、勤続15年の教員の実質給与は上昇している。低下したのは日本、フランス、スイスのみ。とりわけ日本は9%減と、最大の下げ幅。

・労働時間は長く、授業は短い
日本の教員の法定勤務時間は合計で1876時間。これは、OECD平均(小学校1678時間、中学校1673時間、高校1676時間)と比べて大幅に長い。ところが日本の授業時間は小学校707時間、中学校602時間、高校500時間と、すべての教育段階でOECD平均(それぞれ782時間、704時間、658時間)を下回る。

・学級人数の多さはOECDで2番目
日本の小学校の平均学級規模は28人(10年)。OECD平均の21人より多く、OECD加盟国ではチリの29人に次ぐ2番目。中学校の学級規模も33人と、OECD平均(23人)を上回り、OECD加盟国では韓国(35人)の次。

■教育支出
・日本の教育支出は減少
世界的な経済危機にもかかわらず、ほとんどのOECD加盟国では08年から09年にかけて教育支出(公財政支出と私費負担の合計)が増えている。対照的に日本では減少。ただ日本の教育支出を国内総生産(GDP)比でみると、00年の5%から09年は5.2%に上昇している。だが依然としてOECD平均の6.2%は下回る。

・教育への公財政支出は少ない
日本の公財政教育支出は、GDP比でも、一般政府総支出に占める割合でも、他のOECD諸国と比べてかなり低い。

・教育支出は私費に大きく依存
日本の教育支出に占める私費負担の割合は31.9%(09年)。チリ、韓国に続く3番目に高い数字で、OECD平均(16%)の2倍近い。しかもこの数字には、学習塾をはじめとする学校外の教育にかかる家計負担は含まれていない。日本ではとりわけ就学前教育(OECD平均の18.3%に対して日本は55%)と高等教育(大学や専門学校など)段階(OECDの平均30%に対して日本は64.7%)の私費負担が重い。

・学生1人あたりの教育支出は多い
日本の小学校から高等教育までの在学者1人当たりの教育支出は年間1万35ドル(09年)。OECD平均の9252ドルを上回る。これは、日本の高等教育の教育支出(1人当たり年間1万5957ドル)がOECD平均(1万3728ドル)に比べて高いため。

・大学以外の教育支出は伸び悩み
日本では高等教育の学生1人当たりの教育支出は05~09年に13%増加している。ところが小学校から高校までと、高等教育以外の中等教育後の教育については5%しか増えていない。これは他のOECD諸国と逆の傾向。

・日本の高等教育の授業料は高い
日本の国公立大学の学生は08~09年度、授業料として平均4602ドルを払った。これは、データが存在するOECD加盟国のなかで米国(6312ドル)、韓国(5193ドル)、英国(4731ドル)に次いで4 番目に高い。

・奨学金へのアクセスは限定的
日本では奨学金など公的支援を受ける学生は33%。これは英国の94%、米国の76%を大きく下回る。日本は、高等教育に対する公財政教育支出がGDPの0.5%しかなく、OECD平均である1.1%の半分以下。OECD加盟国のなかで最低レベル。

■就学前教育
・97%が就学前教育を受けている
日本の4歳児の97%が就学前教育を受けている。これはOECD加盟国で7番目に高い水準。OECD平均の81%を上回る。データが存在する39カ国のうち16カ国が90%以上で、とりわけフランスとオランダは100%。メキシコは05~10年に、就学前教育を義務化したことが奏功して70%から99%へ向上した。

・就学前教育に対する支出は低い
日本の就学前教育段階の子ども1人当たりに対する年間の教育支出額は5103ドル。OECD平均の6670ドルを下回る。09年の日本の就学前教育への教育支出はGDP比わずか0.2%で、これは、データが存在するOECD加盟国のなかで、アイルランド、オーストラリア、スイスに次いで4番目に低い。OECD平均は0.5%。

・就学前教育に対する支出の4割を家計が負担
日本では就学前教育の支出の55%を私的部門がまかなう。このほとんどが家計。家計支出は、就学前教育の支出の38%を占める。これは、データが存在するOECD加盟国のなかで、韓国、オーストラリアに次ぐ3番目に高い数字。対照的にフランスでは、就学前教育の支出の94%は公的にまかなわれている。

・就学前教育は将来の学力アップにつながる
最近の「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)によると、1年以下の就学前教育を受けた子どもは、就学前教育を受けていない子どもと比べて、読解分野で平均30点得点が高いという。1年以上の場合は平均54点高くなる。教育に対する早期の投資は、子どもの学力を上げ、経済的・社会的成果を向上させる可能性がある、とOECDは指摘する。

■留学
・日本は留学先としてOECDで8位
10年のデータによると、全世界の高等教育の留学生の3.4%が日本を選んでいる。これは、米国、英国、オーストラリア、ドイツ、フランス、カナダ、ロシアに次ぐ8番目。ただOECD平均の8%は下回る。日本政府は20 年までに30万人の留学生を受け入れるとの目標を掲げており、実際、日本に来る留学生の数は05~10年に12%増えた。しかしOECD全体の増加率92%には遠く及ばない。

・日本に来る留学生の9割以上はアジア出身
日本の高等教育で学ぶ留学生の93%はアジア出身。なかでも中国人61%、韓国人18%。

・海外へ留学する日本人は少ない
日本は、海外へ留学する学生1人に対し、3.3人の留学生を受け入れている。比率は1対3.3。OECD平均は1対2.9。

■教育の経済的利益
・大・院卒の失業率は高卒の半分
日本のデータでは、高校が最終学歴である男性の就業率が85.7%、失業率が6.4%であるのに対し、大学・大学院を卒業・修了した人の就業率は92%、失業率3.4%と、高い学歴をもつほうが優位。これは他のOECD諸国と同じ傾向。

・女性も高学歴が優位
女性の場合も、高校から大学へと学歴が上がることで、就業率は61.2%から68.4%へ上昇。失業率は5%から3.2%へ低下している。

・25~34歳の57%が高等教育を修了
日本では成人の45%が高等教育を修了している。これはOECD加盟国(平均31%)のなかでも最高レベル。とりわけ日本の25~34歳に限ると、57%が高等教育の修了者。この比率は55~64歳の29%と比べて2倍近い数字だ。他のOECD加盟国も日本と同じ傾向で、25~34歳の高等教育取得率が平均38%であるのに対し、55~64歳は23%。


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