大切な人や家族と、逢うのはこれが最後かもしれない―3.11の震災後、誰もが一度はそんな思いをよぎらせたことがあるのではないだろうか。退屈で当たり前の日常や、いま目の前に在ることのすべては、いつかは跡形もなく消えていく。

トヨダはNY生まれの東京育ち。90年から再び渡米し、以後約20年間をNYで過ごす。93年に「visual diary」をスタートして以来、13年間に渡り海外のフィルムフェスティバルをはじめ、美術館、ギャラリーや学校、寺院、青森三内丸山縄文遺跡など、様々な屋内外の施設でスライドショーを上映している。

シリーズ「NAZUNA」より


写真を撮ることの理由を、トヨダは「本にアンダーラインを引くようなもの」と語る。“覚えておきたい”と感じ、撮りためるという膨大な写真の中から300~600枚前後を選び取り、一年以上かけて一つの作品にまとめる。

「未来も未知だけど、過去も未知に満ちている」と語る彼は、「撮ったとき」「作品にしているとき」「上映しているとき」の3つの時間を常に行き来しながら生きているタイムトラベラーのようだ。

スクリーンに映し出されるのは、日本にあるアーミッシュの村や、ホームレスの人々が集まる共同体、重度の知的障がい者の施設など、グローバリゼーションとはかけ離れた場所で静かに生活する人々の姿だ。

また、NYのアパートのベランダに咲く草花、そこに寄生するアブラムシや青虫など、見逃してしまいそうなミクロの生き物たちや、はっとするような光を湛える月夜、親しい人や日々の食事などが、アナログの映写機によって淡々と現れては消えていく。

青森・三内丸山遺跡(竪穴式住居跡)での上映風景(2012年6月)


私達の生活は、地上に在るものの無数の誕生と死で日々過ぎていく。「大きな死という海の中にふわふわした小舟みたいに生があると感じでいる」と語るトヨダの作品には、静かな無常観が通底し、“人が生きるってなんなのか?”“幸せとは?”と考えさせられる。

震災後、定期的に気仙沼や陸前高田など東北地方に訪れているというトヨダは、今年から拠点を日本に移し、今後は日本の地域社会やコミュニティに深くコミットしていきたいと語る。

今回のツアーは合計3日間。神戸の会場は神戸港の埠頭にあり、汽笛の音を聞きながらの上映。大阪では昭和30年に建てられた木造の洋裁学校で、野外上映となる。

震災後、これまでの既成概念が大きく揺らいだ現代の日本で、生きることをもう一度見つめなおすことができるかもしれない。そう思わせてくれる作品にぜひ足を運んでほしい。(オルタナS特派員=中村結)


・10/5-6
CAP CLUB Q2
・10/8
星ヶ丘洋裁学校中庭
トヨダヒトシHP