この秋、三井物産本店一階に「木づかい」スペース「Forestarea(フォレステリア)」が誕生した。オフィスでの国産材利用の推進が目的だ。三井物産は、北海道の沙流山林をはじめ全国74カ所に社有林を所有し、林業の再生に取り組む。三井物産環境・社会貢献部社有林・環境基金室赤間哲氏と荻原昌子氏にCSRと森づくりについて聞いた。(聞き手・オルタナS編集部員=山田衣音子、大下ショヘル)

1911年より保有する北海道沙流山林(写真提供:三井物産株式会社)

■  森のロールモデルとしての役割

 ――三井物産は「CSR」(企業の社会的責任)をどのようにとらえているのでしょうか。

環境・社会貢献部 社有林・環境基金室室長赤間哲氏

当社は、CSRと社会貢献活動は別のものだと考えています。

三井物産が考えるCSRとは「事業活動を通じて行う『良い仕事』の実践」です。CSRの本質は、事業活動において社会の役に立つことであり、事業と切り離して特別に取り組むことではないのです。

一方で、社会の中で事業を行う以上、利益の一部を無条件で社会に還元するのは当然のことです。三井物産ではこれを「本業を越えた社会貢献活動」と位置付けています。当社の社会貢献活動は、「国際交流」「教育」「環境」の3つを軸にしています。

――全国各地に「三井物産の森」を所有していますが、どのような位置付けですか。

当社は、王子製紙、日本製紙に次いで国内で3番目に広い社有林を持っている企業です。1909年に初めて北海道で山林を購入して以来、現在は全国74カ所で計約44000ヘクタールの森林を林業を通じて管理しています。古くは満州鉄道の枕木や鉱山の坑木などに使われ、現在は三井物産の森の保育・管理をしている関係会社を通して建材・梱包材・チップなどとして販売しています。

社有林では、ビジネスとしての林業を100年以上続けています。本業の領域なので、いわゆる「環境保全活動」と分けて考えています。正確には、本業である林業を通じて、森林の環境保全を行っているという位置づけです。

さまざまな業種を取り扱う総合商社である当社が「三井物産の森」を発信することは、単に「グリーンウォッシュ」(環境配慮をしているかのように見せかけること)になりかねず、批判を受けるかもしれない。また、B to C企業ではないので、特定の製品やサービスを宣伝すると、それだけを行っているというイメージが付いてしまう難しさもあります。

しかし、現在、日本の国土の7割を占める森林が危機的状況にある中で、日本の環境を守る上で林業が果たす役割は大変重要であり、日本の林業を再生させるために、少しでも多くの人に森の役割や林業の大切さを伝えたい、木づかいを進めていきたいという思いから、三井物産の森での当社の取り組みをもっと打ち出していこうと決めました。

約9割が天然林・天然生林で構成される沼田山林(写真提供:三井物産株式会社)

三井物産で保有している森は全て、世界で一番厳しい森林認証とされるFSC(森林管理協議会)認証を受けています。事業会社の社有林でこの規模のFSC認証を取ったのは、当社だけです。私たちがこうした認証を受け、森林を丁寧に管理しているのは、「森林・林業の再生」が目的です。

日本には2500万ヘクタールの森林があり、うち1000万ヘクタールは人工林です。しかし、海外の安価な木材の流入などの理由により日本の林業は衰退し、林業従事者も著しく減少しています。そのため、多くの森林がきちんと手入れされていない状態になっています。手つかずの山は、木が育たたず、集中豪雨が起きれば山が壊れ、流木が流れてくるなどの危険もあります。

商社は川上から川下、原料調達から加工・販売まで広く手掛ける会社です。そのため、商社である当社が林業の効率化を含めた新しい仕組みづくり、用途開発など実現化できることはたくさんあるととらえています。林業をきちんと利益の出る状態にし、持続可能なサイクルにしていくことが日本の森林を守ることになります。何よりも、森をきちんと管理することで、生物にとって必要な恵みを育む豊かな森になるのだというモデルを提示したい。これが私たちにとって世の中に役に立つ「良い仕事」になるのです。

■ 木に生かされる人、人に生かされる木

――そうした森に対する思いの中で、今回リアルスペースとして「フォレステリア」をつくられた経緯を教えて下さい。

今までお話してきたように、林業の再生は三井物産にとって大きなテーマです。しかし、まずは皆さんにその材木を必要としてもらわねばなりません。

フォレステリアができる前、ここは無機質で事務的な打ち合わせスペースでした。あまり利用されていなかったのが、フォレステリアができてから、お客さまとの打ち合わせに利用されるだけでなく、居心地がいいせいかお昼休みは社員で賑わうようになりました。

現在の日本人は、一日をコンクリートとガラスとアルミニウムに囲まれた中で過ごしています。こうした環境は私たちに大きな心理的負担を及ぼします。

一方、木はフィトンチッドという有機物を発し、ほ乳類の気持ちを穏やかにする力を持っています。こうした木材の良さを皆さんに実感してもらいたいと考え、そのきっかけとしてフォレステリアをオープンしました。

檜と樺でできた会議室

木で囲まれた快適な打ち合わせスペース

 

 

 

 

 

 

――このスペース以外に、森の大切さ、木の素晴らしさを実感してもらうために行われている活動はありますか。

子ども向けの環境教育を目的に、「森林体験教室」の開催や小中学校での「出前教室」の活動、森林・環境学習ウェブサイト「森のきょうしつ」での情報発信を行っています。

森林体験教室は、実際に三井物産の森の中で、自然観察や間伐を体験していただいています。出前教室は、環境教育をどう進めたら良いか困っているという小中学校の現状を耳にして始めた取り組みです。小中学校に出向いて、森林の役割や、日本の森と林業の現状、そして豊かな森にするために、具体的にどんな作業を森で行っているかなど、林業という仕事の大切さを伝えています。小学生を対象にすると親御さん、先生へと関心が広がる波及効果がありますね。

それから、社有林を活用した被災地復興支援も行っています。

一つは、社有林材を使った仮設の図書館「にじのライブラリー」。岩手県陸前高田市に2011年11月に建設しました。

二つ目が、気仙大工の協同組合の寄り合い所の建設です。津波で流されてしまったのですが、これがないと江戸時代から続く技術の伝承ができないということで、今建設に入ろうとしています。

最後に、福島の子ども達向けのキャンプです。PTSD(心的外傷後ストレス障害)になりかかっている子どもたちの心のケアとして、自分たちで様々な困難を乗り越えることを経験させる治療を目的としたキャンプに協賛し、今年の8月に2回実施し、福島県南会津郡にある田代山林に計65名の子どもたちを連れて行きました。3泊4日のキャンプの中では、登山やツリークライミング、川でのラフティングなど、子どもたちが協力して冒険し、達成感を感じられるプログラムが行われ、社員ボランティアも計20名参加しました。

今後も被災地に足を運ぶことで、現地でどんなことが必要とされているのか声を吸い上げて、社有林を通してわれわれができることを継続していきたいと考えています。

■取材後記

フォレステリアでの取材を通して、赤間氏・荻原氏の森にかける熱き想い、ほのかに香る檜、素材を生かした木材、「三井物産の森」を全身で感じ、わずかな時間でも安らぎを得、心を豊かにすることができた。やはり使ってみたことのないものの良さはわかりえない。一般に広く開放しているスペースではないが、このフォレステリアから日本人の「木づかい」を広げて行くことができるのではないかと感じた。(オルタナS編集部員=山田衣音子)

三井物産の森

 

関連記事

総合商社が市民との対話へ動き出す、伊藤忠商事のCSRリアルスペースとは