の続き・・

今、感じている問題は何かありますか?

安田「震災からある程度時間が過ぎて、現状を実感する人が増えて被災地には悲しみが溢れてきていますね。その影響は子どもたちにも表れています。子どもたちは大人たちが悩んでいることに気を使って、学校や地元では大人に愚痴や不安をなかなか話さないんですね。部外者である私たちには逆に言いやすく、近くの人には親しいからこそ話せない、というのは気になりますね。」

「仲が良いからこそ言えなくなるということはよくあるからね。」

三井「子どもたちへの対応の仕方なんですが、陸前高田市にある高田高校と大船渡高校ではまったく生徒への対応が違うんですね。高田高校では生徒一人ひとりと向き合ってこの震災を落とし込むことを行っていて、大船渡高校ではまったく震災には触れず、通常通りに授業を行っています。どっちがいいかは今はまだ言えないのですが。」

「そうだね。各学校が真剣に考えて決めた方針だとは思うんだけど、大切なのは一度決めたことをぶれないことだと思うよ。ただでさえ非日常の事態だから大人たちがしっかりしていないと子どもたちが余計不安になる。」

安田「私は大学時代あしなが英会に所属していたので、今回のような心に傷を負った子どもたちを見てきました。あしなが育英会では子どもたちにきちんと気持ちを吐かせる機会を用意していました。子どもたちに悲しんでもいい、がんばらなくてもいいという選択肢を与えています。」

「そのような気持ちを吐き出すことはとても大切だと思う。けど、やっぱり仲が良すぎてしまうとそのようなことは返って話せないということは起こってくる。三井くんは何回も現地に入って仲が随分良いと思うんだけど、これからは避難所のコミュニティもなくなっていくし、仮設住宅に入りだしてそれぞれの生活が始まってくる。そのようなときに被災地の人との絆のつくりかたはどうしていくつもり?」

三井「そうですね。自分自身はボランティアに行っているという感覚がなくて、もし、なにも支援する必要がなくなったらもう行かないということはなくて、年に一回でも故郷に帰るような感覚で関係を保っていくと思います。」

「そういうナチュラルな関係はいいよね。」

安田「でも本当に今からが厳しくなってくると思います。仮設住宅に入りだして経済的な負担や、周りの環境が変わり一気に不安に押しつぶされそうになる人が増えています。」

「まさにそうだと思う。義捐金は足りないし、仕事もないので生活設計が立てられずにこれから自殺してしまう人が出てくると思う。」

安田「まだしっかりとした雇用もないので、第一に復興に向けた街づくりとして、街の中心をどこに置くのかということが大事だと思います。」

三井「まだそれは読めないですね。」

「そのような街づくりとしてマストなのは行政と民間の連携だね。今回の震災で宮城県の石巻市に14人の震災孤児がいた。市の児童相談所は使えなくなっていたから、県の児童相談所へ移送された。そのためすでに親からの虐待で一時保護されていた14人の子どもたちが元の親へ帰された。でも、それは親からまた虐待を受ける可能性が高いし、ともすると殺されてしまうこともある。そのようなことを無くすためにも行政のほうから民間のNPOなどのシェルターと連携を取っていく必要がある。今回のような有事があったときは社会的弱者の立場にいる人から被害を受けることになる。今話題になっている復興基本法もこのことを念頭において考えてほしいね。マスコミも高齢者に対して取材するばかりではなくて子どもや女性、障害者をもっと追いかけるべきだと思う。」

今回の震災で見つけたかけがえのないものとは何ですか?

三井「ぼくは想いですね。自分自身の広田町に対する想いと、広田町のかたの想いがマッチングしたからこそ、このような活動を続けていけるのだと思っています。」

安田「私は家族ですね。やっぱり被災地では家族を守ろうと一生懸命に動いているかたがたくさんいましたね。」

「私にとっては、東北の再生が日本の再生につながるということだね。今回の復興は東北に限って考えるのではなくて、日本の復興だと思ってほしい。ピンチだと捉えるのではなく、東北の魅力ある商品を世界にアピールするチャンスだと捉えてほしい。そして、それが日本の復活につながっているということを知ってほしい。」

最後に読者に一言お願いします。

安田「今回の震災でしか考えられないことをもっと考えていきたいですね。安易に復興だけを考えるのではなくて、悲しんだり嘆いたりする時間も受け入れながら、そこから先にある復興を考えることをしてほしい。今しか感じることのできないことを大切にして欲しい。」

三井「この震災は東日本の復興ではなくて、やっぱり日本の復興だと思う。現地には行かなくてもいいと思うが、行かないとわからないこともある。学生だったらフットワークの軽さを活かして一度現地に行ってさ、現状を肌で感じて、心に残してほしい。そして、それを持ち帰り何か自分の今後の人生に活かしてもらえればと思う。」

「学生というものを(学生どうしつるみあいの)外から見る視点を増やしてほしい。学生どうしで学生に向けて活動していくだけでは、社会というものがあやふやにしか認識できない。自分がなぜ今学生なのか考えてほしい。学生を卒業してどこかの会社に入社しても、それは社会に入るということではなくて、家と会社の往復でしかない。学生だから(社会人と比べて)相対的に時間があり、自分の好きなことができる。そうすることができる環境にいるならば、社会を見て欲しい。社会とは俯瞰的に見なければいけない。例えば、22歳でも大学4年生もいれば、中卒で大工について7年目という人もいる。被災地に足を運んで自分と同じ年齢の子が何をしているのか、もっと多くの人を見て社会全体を見渡してほしい。そうすれば、自分自身の社会的価値に気づくチャンスがそこにあると気づけるはずだよ。」

 

 

 

 









収録を終えて、、、

自分の社会的価値とは何だろうか。今回の震災で私にはどんなことができるのだろうか、この社会でどのような一部になれるのだろうか、と自らの社会的価値を考えさせられたのではないだろうか。

整備された環境のなかでは自分で考えるまでもなく、役割が与えられているが、被災地の環境では能動的に役割を見つけなければいけない。

今回の対談を聞いて、私個人が思う被災地で見つけたかけがえのないものとは、人間が自分自身の役割をつくり出して、その役割を責任をもってまっとうしていく姿勢ではないかと思った。

震災と向き合うことによって、普段は意識していないことに気づき、見えなかったものが見えてきそうである。


池田真隆 オルタナS編集員