東京電力福島原発事故が起きてから、真っ先に読み返した本がある。

『やまずめぐる/町田武士』



文中の「あるひとつの製品について、それが安いものであればあるほど、私たちはそのルーツをたどることをしない。」という言葉を思い出したからだ。

著者は、栃木県藤岡町で農業を営み、渡良瀬エコビレッジ代表も務める町田武士さん。

自身の農に対する思いと、「衣食住」生活全般を通して「やまずめぐる(止まず巡る)」循環型の生活の実践について、自身の体験とともに優しく書かれている。

「肥料を与えずに時間を与えて育てた野菜はフルーツのように甘いこと。」
「薪割りは、斧を入れるべき筋が分かれば力をかけずに割れること。」
「綿摘みを体験すると人は笑顔になるということ。」
「竹草履は、丈夫で水をはじくが、湿気はほどよく吸ってくれること。」

本を読みすすめる内に、「自分は何も知らないのだな」という思いが強くなる。

今の10、20代の若い世代で「薪を割り、一年間乾燥させ、自らで火を起こす」ことができる人はどれほどいるのだろうか。

3月11日以降、「原発」の是非がテーマに上がっているが、そのテーマ以前に「自分たちは何を知っているのか」について、考えたくなる。
原子力の火も知らない上に、薪の火も知らないで、何を話せるのだろう。

「汗をかき、体を動かすことが喜びにつながる(中略)自分たちの生活につながっている純粋な仕事だ」

人間の生き方と自然の共生について、単に「農」だけでなく、あらゆる場面に対して示唆に富んだこの本。

すべては「やまずめぐる」。

いきなり全部とは言わずとも、これから少しずつ、土に触れ、世界を手で感じる世界に近づいていきたい。本を読み終えて、自然とそう思っている自分がいる。