世界一周をした20代の5人の若者によるチーム、CiRCUS(サーカス)が仕掛けているリュックサック革命。旅にテーマを持つ日本の若者1万人を、世界に送りだすプロジェクトだ。

今回、その一人として、早稲田大学4年の周栄行(しゅうえい あきら)さんが旅にテーマを持ちながら海外を周ることになった。旅をしながら、世界中のストーリーのある「モノづくり」に携わる人やブランドをインタビューしながら紹介する、「HI-STORY PROJECT」だ。

この旅にかける意気込みを周栄行さんに寄稿してもらった。*この記事は、「d-labo」から転載しています。

僕はこれから、モノガタリを探す旅に出る。語られるべき物語(ストーリー)と歴史(ヒストリー)を持ったモノを求めて、世界を旅しようと思う。第一回目となる今回では、どうしてこの「テーマのある旅」をしようと思ったのか、その辺を書いていこうと思う。
 

周栄行さん

高校一年生の時に、ずっと憧れていたレッドウィングのブーツを買った。当時の僕にとって高価だったそのブーツは、何よりも大切な宝物であった。以来、こまめに手入れをしながら8年間履いてきた。底は随分と擦り減ってしまっていて、そろそろ張り替え時ではあるが、全体としてはまだまだキレイなものである。少なくとも、もう10年は付き合ってもらうことになるだろう。

このブーツには僕の8年間の歴史が詰まっている。シワやキズの一本一本に物語が刻まれている。仮に今、このブーツを買ったときと同じ値段で売って欲しいと言われても、僕は決して売りはしないだろう。そこには確かに、価値が生まれている。モノに宿った物語(ストーリー)や、歴史(ヒストリー)それ自体が価値を持っている。そして年を経る毎に、それらは積み重なっていき、その深みを増していく。

僕はモノの持つストーリーやヒストリーの虜となった。但しそれは、どんなモノでもいいというワケではない。ストーリーやヒストリーというものは、宿るべき価値のあるモノにしか宿らない、と僕は考える。モノ自体が生み出されるまでに語られるべきストーリーがなくては、ヒストリーは積み上がっていかない。そこに拘りや想いが込められていなければ、モノは時間と共に、ただ風化していってしまう。モノそのものに、時間の経過に耐えうる「強度」が必要なのだ。

こうした「強度」のある、語られるべきストーリーを宿したモノは、どんどん減っていっているように感じる。グローバリゼーションによって世界はフラット化していき、安かろう、早かろうの消費形態が一般化している。ファストファッション、ファストフードはどこの国へ行っても同じ顔をして僕らを迎える。企業は利益を追求するという要請に応える為に、少しでも人件費の安い国へと、モノツクリの拠点を移していく。そうやって作られたモノ達に、ストーリーを宿らせることは難しい。消費される前提で生まれたモノは、時間の積み重ねに耐えられない。

それでも世界には、ストーリーを宿したモノを生み続けている人がいる、場所がある。そういうモノを求めて、旅をしようと思った。世界中にあるモノガタリを探してみようと思った。

旅をすることは大好きだ。知らない場所で知らない風景を見て知らない人に会うというだけでワクワクする。僕が旅を好きになった原点は、沢木耕太郎さんのノンフィクション小説でありバックパッカーのバイブルとされる「深夜特急」なのだが、沢木さんは「乗り合いバスだけでインドからパリへ行く」、「事前に下調べをすることはせず、町の地図は現地で手に入れる」、といった、いくつかのテーマやルールに従って旅をした。かつて上海での留学中に運よく沢木さんの講演会に参加することが出来たのだが、好奇心に溢れた、本当に魅力的な方だった。いつまでも外界に対する興味を失うことのないこんな人になりたい、と思ったものだ。

そしてこの旅を始めるキッカケとなったNOMAD PROJECT代表の成瀬勇輝さんとの出会い。成瀬さんは「ノマド」というキーワードをテーマに、世界中のノマド的な働き方をしている起業家などを訪ねて旅をした。その旅で得られた経験やインスピレーションを元に、日本の若者を世界に送り出すべく数々のプロジェクトに邁進していらっしゃる。こうした先輩たちに倣い、僕も僕自身のテーマで旅をしようと思ったのだ。

僕はモノガタリを探して旅をする。この旅を通して、テーマをもって旅をすることの意義を、これから世界に出ようとする高校生や大学生に伝えられたらと思う。この旅を通して、僕自身がストーリーを生み出すモノツクリのこれからのカタチについて、考えや視野を拡げ、僕なりの「答えのような何か」を見つけられたらと思う。そこから、日本や、世界を変えるようなアイディアが生まれるかもしれない、という可能性を信じて。

何はともあれ、好きなこと(旅)をして、好きなモノ(モノガタリ)を探すのだ。精一杯、楽しんでやっていこうと思う。(寄稿・周栄 行)


【周栄 行(しゅうえい あきら)プロフィール】
早稲田大学政治経済学部国際政治経済学科4年
早稲田大学3年時に、ダブルディグリープログラムにより中国は上海の復旦大学の新聞学院に一年間留学し、伝播学(コミュニケーション学)の学位を取得。帰国直後に休学してアメリカへ留学、ニューヨーク大学でビジネスマネジメントを学ぶ。上海での留学中に出会ったNOMAD PROJECTの成瀬氏に影響を受け、世界中のストーリーのあるモノツクリに携わる職人やブランドを紹介するHI-STORY PROJECTを企画・立案。現在、モノガタリを探す旅をしている。旅、服、食、音楽、読書など趣味多数。


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