――『東北食べる通信』で伝えたいことは何でしょうか。
高橋:2つあります。一つは、漁師の生き様を伝えたいです。スーパーに並んでいる商品からは見えないものです。本来ならば、食べ物の価値をあげるために、チラシがありますが、ひっくり返しました。まずは、彼らの情報を伝えて、その次に彼らがつくった食べ物を届けます。
――生き様とはどのようなものでしょうか。
高橋:都市にないコミュニティーです。人と人、人と自然、人と先祖とのつながりです。このつながりで一次産業はできています。これは都市がなくしてしまったものです。
都市の人が東北に行くきっかけをつくり、目標は、CSA(Community Supported Agriculture)会員につなげることです。毎月一定額を支払って、生産者とコミュニケーションを取れる仕組みです。まさに、都市と地方の人が食を通じてつくるコミュニティーです。
すべての人が「私の農家」や「第二のふるさと」を持っていれば、都市と地方がお互いを補完し合える関係をつくれます。CSAのような関係はアメリカでは1万5000以上の農村が導入しています。
CSA会員は、収穫物だけでなく、自然リスクも負担する方向にしたいと思っています。だから、前払い制度なのです。日本は生産者だけが自然リスクを負担していました。こうすることで、天候を気にせずに、生産者と会員が一体となってつくります。アメリカでは、これをシェアホルダーと呼んでいます。
消費者も食べ物に関心を持てば、命と向き合うことになります。健康リスクを下げていく効果もあります。しかし、現段階で日本ではNPOなどが自然リスクの負担を消費者に求めるには、超えなければならないいつくかの壁があります。最終的には、このような環境を変えていきたいです。だから、せめて、自然リスクを理解して、適正価格で購入してほしいですね。
生産者と消費者がつながることによって、消費者はアドバイスや営業の手伝い、マーケティング活動などに加わる事例もあります。消費を通じて、よい社会をつくりたいとの動きがでてきているのです。双方がエシカルな価値に気付いて動きはじめている証拠です。
――高橋さんが働いていて、やりがいを感じるときはどのような瞬間でしょうか。
高橋:好きなことを、一心不乱にがんばって命が喜んでいる時です。それは、昔のような金儲けのために、努力していることとは違います。このような活動をする根底には、人と人、人とコミュニティー、人と自然のつながりを取り戻したい欲望があります。
与えられた豊かさの中で生きることは、楽しくないのです。より、足りないところに自分の身をもっていきたいというニーズもあるでしょう。東北に集まっている人は、経済合理性では説明できない人たちばかりです。給料が半分に下がるのに、大企業を辞めNPOで働いていたりします。勝ち組の人が経済合理性では説明できない動きをしているのです。
これまでは、稼げれば我慢できていました。自分の仕事が搾取労働や環境破壊につながっていると分かっていても、お金を稼ぐためには仕方がないと思っていました。しかし、今は我慢ならなくなっています。
一回の命をこの社会のために使いたくはないと思い、人の不幸の上に成り立つ幸せを拒否し、はみ出しています。だから、違う山に登り始めました。それこそがまさに、オルタナな世界です。
もちろん、それで食えなかったらどうするかという話になりますが、その世界でも食えるようにするために、フロンティアを探しているのです。