――18歳で岩手県花巻市から東京に上京します。当時は田舎に希望を感じなかったそうですね。
高橋:私が高校1年生の頃にドラマ「東京ラブストーリー」が流行りました。しかし、地元ではフジテレビが放送されず、再放送で見ていました。やっぱり、東京に全てがあると思っていましたね。ここに居たらダメだと思い、その一心で東京に行きました。
――しかし、東京で暮らし、働くと違和感を感じてしまいます。
高橋:最初は刺激的なものの連続で面白かったです。でも、上京して半年で飽きてしまいましたね。それから、南米とアジアを中心に世界を周りました。旅行中は、経済的に岩手県に居た頃よりも貧しいのですが、命が喜んでいることを実感しました。
東京に居るときは、命が喜ぶ感覚がなかったのです。何をするにせよ、頭を使わなくてもいいので、便利すぎたのかもしれません。私が若い頃に憧れた消費社会は、用意されたものに乗っかっている気分でしたね。そして、自分がよく分からなくなりました。
ただ、田舎に行くと、自分でつくるしかない状況になります。用意されていない環境で、主体的に見つけるしかないのです。苦労するし、大変ですが、感動や喜びはたくさんあります。だから、自分の価値の実感度は高いのです。そうして、30歳で帰郷しました。
――高橋さんが一次産業の素晴らしさを感じるきっかけとなった漁師さんの言葉があります。それは、「311で津波被害を受けたが、今まで海に全てをもらっていたから、ここで全てを持っていかれてもしょうがなかった」という言葉です。自然と折り合いをつけながら生きる姿に刺激を受けたそうですね。
高橋:東京で色々な人と話しました。中には、年に億単位で稼ぐ実業家や、若くして起業した人などもいました。しかし、何も感じませんでしたね。一方、田舎で命をかけて自然に向き合っている人と話したときは、適わないなと思いました。
常に死と隣合わせなので、生を意識します。快適で便利すぎると、死は遠のくので、生も輝かないのです。農業、漁業は食べ物を扱います。食は命なので、命には限りがあると日々実感します。
さらに、自然環境、天候リスクなどもありますので、どんなに努力してもどうにもならないことがあります。限りがあるので、限られた中で、努力しようと思うのです。ところが、近代社会では限りがありません。行けるところまで行こうとします。すると、深まりがなくなり、精神性は退化していくでしょう。
豊かなのですが、やりがいがなく、目が死んでしまいます。一昔前までは、この豊かさを求めましたが、すでに手に入れたので、次のフロンティアが求められています。
それが、地図上にはないコミュニティーだと思っています。地方も、都市も行き詰っています。でも、両者ともコミュニティーの豊かさは大切だと感じています。人がいなくなった地方と、人が増えすぎてしまった都市。都市はコミュニティー崩壊で、田舎は地縁、血縁に縛られ窮屈で苦しい。
被災地がヒントになったのですが、都市と田舎が支援という形で混ざりました。多くの人やスキル、ネットワークが東北に入りました。また、助けに行った支援者も、都市がなくした価値が避難所にあったので、心を洗われて、自らが復興することとなりました。
いまでは、両者のよいところを掛け合わせた形で、第二のふるさとが東北にできてきました。東北の親父は、「毎月来てくれるこの若い子が息子みたいでかわいい」と話し、東京の若者は第二の親として慕っています。
地理的な概念ではなく、価値観でつくられたコミュニテイーです。地方は過疎が進み、数年後にはどんどん消えてしまう可能性があります。しかし、都市の若者には、地方に残された価値が響いています。だから、彼らはUターン、Iターンではないですが、定期的に地方に来て、この価値を守っています。
彼らがくることで、地方には刺激やスキル、新しい世界観を与えます。これだと思いましたね。津波が来ていなくても、全国の地方都市は同様の問題を抱えています。この動きを拡大しようと思いました。
そこで、都市と田舎を混ぜるときに分かりやすいのは、食だと思いました。自分が食べている物の生産者の顔は見えません。工場で製造するのではなく、自然を相手にして生産している人の生き様は、都市の若者に響く価値です。
地方に関心を持つのに、被災地に限定しなくてもいいのです。どこでも困っていますので。地方は人を必要としています。行くと有難がられます。取替えが不可能だからです。特に一次産業は気候や文化、人づきあいなどが求められます。その人がいなくなったら取替えが不可能で、いなくなられたら困るのです。
都市と地方、両方に居場所をもっていれば、よどんだ空気がかき混ぜられて、地図上にないコミュニティーができ、命が喜ぶ場となります。地方のものを活用し、お金ではなく、時間をかけて楽しみをつくるのは、サステナブルで、世界に誇れるものです。それをつくっていき、若者の目を輝かせたいです。
ところが、中心部では、中国や韓国に負けまいと経済成長を求めます。しかし、それは過剰すぎるといつか破綻します。現在も、ニートやフリーターが増えています。中心部では、どうやって彼らを働かせるかの議論をしています。でも、私は豊かになった日本の健全な現象だと思っています。
彼らは豊かなので、存在感や意義を感じないと動きません。でも、その環境はすでにあるのです。それが先ほど言ったフロンティアです。途上国に行かなくても、足元にあるのです。そこを開墾していきたいですね。
◆東北に集まる経済合理性では説明できない勝ち組たち