「門前」と呼ばれる善光寺周辺一帯。古くからある町並みのなかに、近年新しい動きが見られる。空き家になりつつあった古い家屋を修繕し、カフェやシェアオフィスとして活用する人々が増えているのだ。(オルタナS編集部=佐藤理来)
アトリエハトリで建築士を営む羽鳥栄子さんもその一人だ。有限責任事業組合bonnecura(ボンクラ)のメンバーとして、KANEMATSU(カネマツ)の一角に事務所を構える。カネマツは3棟ある庫を平屋でつないだ大きな建物で、以前はビニール加工会社の工場として使われていた。築104年になる。
羽鳥さんがこの建物に出会ったのは2009年。独立しようと事務所を探していたところに存在を知り、まずは下見と訪ねたらすっかり惚れ込んでしまったそうだ。そんな建物に惹かれた仲間が5社7人(※)集まってボンクラが結成された。今ではメンバーたちのオフィスのほかにテナントのカフェや古書店も入り、にぎやかだ。
カフェや工房など様々なジャンルが集う門前の中で、ボンクラとしては建物の補修使用へ取り組む。観賞物としての保護ではなく、使うことで守っていきたいとの考えだ。古いものを回収して、ほかの誰かに使ってもらう手引きもしている。
新生門前の人々は若者が中心かと思いきや、リタイヤ組の60代の人もいる。出身地もUターン組はもちろん新しくきた人もおり、とてもバラエティ豊かだ。こうして新しい住人を迎えた古民家は30件にものぼる。門前に居を構える同士のゆるやかな結び付きもあり、お互いみんな顔見知り。月1回程度の定例会を行う門前研究会(通称もんけん)なんて集まりもある。
古民家をオフィスにする良さを羽鳥さんに訊くと、「古い建物ならではの落ち着きと、材料が呼吸している感じがある。また、古民家で行っている、ということで面白 がって訪ねてくる人もいるので、そういった出会いも 楽しさのひとつ」だそう。
赴きある建物の多い門前周辺だが、後継者の不足などで空き家となる古民家が増えている。この再生活動が新しい風となって、門前の町並みが続いていくことが期待される。
(※)現在は同じメンバーで6社7名