龍谷大学は2015年4月に、新たに農学部の開設を予定している(2014年設置認可申請予定)。食と農にまつわる様々な問題が浮き彫りとなる今、その問題の本質的な解決を目的に、各分野のトップランナーをゲストに迎え、農学部就任予定の教員とのトークセッションをシリーズ開催している(全6回)。第2回目のテーマは「農山村から創りだされる食の循環」。有限会社篠ファームの高田実代表を招き、「地域農業の未来」について議論が交わされた。(オルタナS関西支局特派員=ヘメンディンガー綾)
高田代表は、農園芸の分野で約40年にわたり、小売、卸、流通、輸入に携わってきた。現在は希少価値の高い野菜栽培や、加工品の商品開発、限界集落や農業高校との連携など、ユニークで新しい農のビジネスを実践している。
トークセッションでは「就農者が農業だけで生計を立てられない」という問題に対して、解決策が論じられた。高田代表は地域農業の現状について「農産物の価格をスーパーや卸売業者が決定し、低価格競争になっている。若手の就農者が農業を継続することも難しく、3年ほどで離農する人も少なくない」と述べた。
高田代表はその解決のヒントとして次のように述べた。「ものが売れるためには、企画、生産、販売、販促。この4つが揃わないといけない。これまで農家は生産に徹してきたため、それ以外の観点を持っていない。例えば、農作物を百貨店で売るのか、料理屋に売るのか。『業態』の使い分けを意識すれば、より販路も広がる」。
食料農業システム学科の香川文庸教授(就任予定)は、「農家は高齢化している。そのためビジネスチャンスを見抜いたり、突出した取り組みを始めづらい。問題解決には、新しい発想を地域農業に持ち込む、高田氏のようなコーディネーターの存在が不可欠」と語る。
高田代表は2008年から野菜の宅配サービス「ふるさと野菜のおすそ分け」事業を開始。限界集落の高齢者が、自家用に栽培する野菜に手紙を添えて、都会の消費者に届けている。「限界集落は、農業が一番疲弊している場所。しかしお年寄りの方は農業歴が最も長く、野菜をおいしく育てる技術と智恵を持っている。そこを評価し、価値をつければ、多少高額でも消費者から選ばれる。生産者も発言権が持てる流れを、ここからつくりたい」と意気込みを語った。
植物生命科学科の古本強教授(就任予定)は、「父が退職後、限界集落に住んで農業を始めた。長く農業を営む地域の方は、父に野菜作りのコツを教えてくれる。このように身近なところから教え合える関係ができると、地域も盛り上がってくるのでは」と話す。
食品栄養学科の山崎英恵准教授(就任予定)は、「『おいしさ』は、人間の脳が経験や情報をもとに判断する。野菜を作った人の顔が見えると安心感があり、野菜のおいしさに寄与する」と高田氏の取り組みを評価。「近ごろは『価格が安くて、量が多いからおいしい』という風潮がある。消費者側も食べ物の適正な価格を知り、正しく味覚を育てるトレーニングが必要」と続けた。
また、資源生物科学科の玉井鉄宗講師(就任予定)は「作物を販売するため、作業の効率化が求められている。しかし化学肥料を過剰に投与すると作物は病害虫に弱くなり、農薬が必要になる。これらの投入量とタイミングがわかる診断システムを作り、持続可能な農業に役立てたい」と意欲を示した。
香川教授も「ビジネスの感覚と自然環境への配慮。持続可能な農業には、これらの共存が今後の鍵となる」と同意。
最後に高田代表は「農産物の大きさが不安定でも、加工品にまわせる。野菜を売るというよりも、最初から加工品を販売する考えがあっても良い。農業の不安定な部分を加工で解決できれば安定した食の循環につながるのでは」と述べトークを終えた。
全6回シリーズの第3回は、2014年6月20日グランフロント大阪で開催。テーマは「日々の生活から創りだす食の循環」。ゲストに半農半X研究所、塩見直紀代表を招く。USTREAMによる配信と、一般からの観覧者募集も予定している。