東北復興支援を行うNPO法人SET(セット)は、課題解決型スタディープログラム「Change Maker Program(チェンジメーカープログラム)」を開催した。同プログラムでは、公募で集まった都内の大学生6人がセットの支援先である陸前高田市広田町に7日間滞在し、町の課題解決に挑んだ。参加者たちは、縁もゆかりもない東北の漁師町を訪れ、何を感じたのだろうか。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

参加者たちが実行したプランは2つあった。一つは広田町住民へのSNS講座と地元のお母さんたちと行うお菓子作りだ。このプランを考えた背景には、同町の住民同士で意見交換できる機会がないことがある。コミュニケーションが取れないことで、復興への姿勢がまとまらず、その結果、同町の衰退につながっていくと考えたのだ。

SNS講座では、地元温泉に来る人を対象にした。学生からパソコンの使い方を教わった住民たちは、同町の写真をメッセージ付きで投稿した。お菓子作りでは、気仙地方の名物「なべやき」を作った。お菓子作りを通して、普段交流しない人たちが思いのたけを話し合った。

■素直になれた白熱会議

このプログラムの特徴は、参加者たちが町の課題を発見し、解決するプランを考え、実行することだ。人口3600人で高齢化率6割の超高齢化地域で、外部から来た若者たちの存在価値を探ることが狙いだ。

滞在した7日間は毎朝7時に起床し、わかめ作業の現場や山などを地元の人の案内で見てまわった。ニュースや人から聞いていた現場を実際に体感し、参加者たちで課題と解決策を出し合った。そのため、会議は連日深夜まで続いた。

今回参加した6人は、全員初対面の関係だ。震災後、初めて東北を訪れた人もいれば、もともと学生団体で復興支援活動を行っていた人もいる。また、就職活動の面接に生かすために現場を体験しておきたいという動機もあった。

7日間で若者たちが成し遂げたことは決して大きな成果ではないが、将来が楽しみな萌芽となった。

才穂奈菜さん(日本女子大学3年生)は、プログラムを通して、「仲間が原動力」ということに気付いたと言う。「あたたかさや優しさ、強さを持つ人がいることで自分の原動力になるし、その人のために何かをしたいと思えた」。

プログラム最終日、才穂さんは住民に向けた報告会で自身の思いを話した

彼女が参加した動機は、人間関係や自分自身のなかで行き詰まりを感じており、新しい環境に飛び込みたいと思ったからだ。7日間でできた仲間たちのおかげで、大切な人に、素直に感謝の気持ちを伝えることができるようになれたという。

全員が納得するまで話し合う会議から、人の気持ちに触れた参加者は他にもいる。中村駿介さん(城西国際大学4年)は、「価値観を受け入れる姿勢が習慣化した」と振り返る。

地元住民から震災当日の話を聞く中村さん(写真真ん中)

会議では、人の意見を否定しないことと決めたルールがあったので、「自然と(人の意見を)受け入れるくせができた」と中村さん。「相手の視点に立って意見を受け入れ、自分の現状を認めた上で考えることを常に意識した」と話す。

■「誘ってくれて、ありがとう」

復興支援を行う学生団体「参考書宅救便」に所属する石渡博之さん(青山学院大学文学部2年)は、震災から3年が経過し、「目で見える支援は終わったかもしれないが、心の支援はまだまだこれから」と話す。

次の日のアクションプランに向け、チームメンバーと議論をする石渡さん(写真真ん中)

被災地域では、ガレキ処理は終わりを迎えているが、いまだ仮設住宅に住み、ストレスを抱えている人や雇用の問題など課題が山積みだ。陸前高田市では、約2000世帯が仮設住宅に住んでおり、その20分の1に当たる100世帯ほどが入居できる公営住宅の建設がやっと今年になって始まったばかりだ。

この現状を目の当たりにし、石渡さんは、「東京で当然のように大学生活を送っている自分にとって、どこかで他人事のように感じていたことが非常に情けなくなった」と胸の内を告白した。

若者が少ない広田町に、外部から若者を呼び込むことで刺激を与えるチェンジメーカープログラムは今回で3期目となる。これまでに述べ108人の地元民が参加した。同プログラムの責任者・岡田勝太さん(法政大学4年)は、「何かに挑戦することに、『遅い』ということはない」と力を込める。

その証拠に、当初は、この企画に前向きではなかった地元の人から、「誘ってくれてありがとう。私も挑戦して感動することができたわ」と声をかけられるようになったと喜ぶ。
 

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