「日本の社会的養護制度は非常に乏しい。施設偏重の現状は子どもたちが自立した生活を築く場を奪っている」――国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチは、5月1日に発表した調査報告書でこう指摘した。社会的養護制度の全体的な見直しを政府に求めた。(オルタナS編集部員=佐藤 理来)

ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本の土井香苗代表は「子どもたちが施設に押し込められ、温かい家庭環境で育つ機会を奪われているのには本当に心が痛む」と話す。「他の先進国では、こうした状況にある子どもたちの大半は家庭的環境で養育されている。9割近くが施設に入所させられている日本の現状は実にお粗末だ」。

現在、約4万人の子どもたちが、社会的養護を必要としている。親に子どもを養育する意思や能力がないなどを理由に家庭から分離された子どもたちだ。養子縁組や里親制度など家庭的養護を利用する子どもはごくわずかで、ほとんどが児童養護施設へ入所している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは約2年間かけて、社会的養護下にある子ども(7歳~17歳)や社会的養護経験者、里親など200人以上にインタビュー調査を実施。

施設内虐待発生を受けての改善や、里親推進の動きがみられる点を評価したものの、依然として日本の社会的養護には大幅な改善が必要であると指摘した。

児童養護施設自体の問題点も多い。大規模施設が基本になっており、ベッドの上しか個人の空間がないなど、プライベートスペースが十分に提供できていない。施設内で問題があったとき子どもからの声を吸い上げる場がないこと、施設を出る18歳以降の支援体制がなく自立にかなりの困難がともなうこと、などがあげられている。

児童相談所が施設を優先して提案している現状や、その背景には既存施設の金銭的利益があることを指摘した。こうした傾向は乳児の場合だとさらに顕著になるとした。

一方、里親制度にも改善が必要だとしている。現行の仕組みでは里親に対する研修やサポートの体制がない。受け入れ後不調となった場合、子どもは施設へ戻されてしまう。モニタリングも含めた支援体制が求められている。

家庭的環境は子どもにとって重要な要素だ。サポートが乏しく養育環境としてもストレスの多い場に子どもを置くこと自体が、広義の虐待なのではとヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。報告書では施設偏重の改善と、適切なモニタリングと支援体制を整えたうえでの里親制度と養子縁組の推進を提言した。

・ヒューマン・ライツ・ウォッチ報告書「夢がもてない―日本における社会的養護下の子どもたち―