「ひきこもりの方へ。あなたの部屋を見せてください」――そう呼びかけたブログ記事が、5万件のアクセスを突破した。美術家の渡辺篤さん(36)が12月の展覧会「止まった部屋 動き出した家」でひきこもりの部屋の写真を用いるため、公募しているのだ。(今一生)
渡辺さんは大学在学中から自身の体験に基づいた傷や囚われと向き合い、新興宗教・経済格差・ホームレス・アニマルライツ・ジェンダーなどをテーマに社会批評性の高い作品を発表してきた。だが、2010年7月頃から自室にひきこもった。
渡辺さんのブログでは、「人を恨み、社会を恨み、自分を傷つけることで、自分を傷つけた者たちへあてつけや復讐をする気分。(中略)そうやって段々と社会から遠ざかっていきました」と当時の心境が綴られている。
「日々太っていく容姿や、発語を何カ月もしないがゆえの軽い言語障害、人に見せられるはずのない荒れた部屋。引きこもりであることを隠し、自分と似た『ネト充』が多くいるニコ生などのサイトで匿名同士見知らぬ誰かとチャット交流し、その場しのぎの承認欲求を満たしていました」(ブログより)
自分の問題に介入してこない家族に怒って数回暴れ、父親に警察を呼ばれたことも。しかし、2011年3月11日の東日本大震災の直前、部屋を出ることに。
「津波で流されていく家の中にひきこもりがいたことを知って、時としてひきこもる覚悟が津波よりまさっていると悟りました。予期せぬ外圧が人生の分け目だと気づき、新たに生きていくことを決めました。父に自分のこの先を支配されたくなかったし、気づいたら自分よりも弱くなってしまっていた母を守らねば、という思いでした」
ひきこもりをやめた日、渡辺さんは自分の部屋と自分の姿をカメラで撮り、それらの写真を使用した展覧会を開こうと決めた。
渡辺さんは、「ニコ生で24時間ストリーミング放送を閲覧している視聴者の中には、明らかにひきこもり、ニートがいた。僕だけ再起し、外に出てしまったけど、匿名の彼らとの関係を形にしたかった」と言う。
「傷口って見せないと何も始まらない気がして。僕が今回表したいのは、自分がとらわれていた時間や再起した経験を、再度自分の身体に刻み込む意識です」(渡辺さん)
募集している写真の部屋は汚くても、そうでなくてもいい。個人を特定できる雑貨などはぼかし、展覧会場では会期後半に作品の一部としてスライドショー形式で発表する。作品はインスタレーション、パフォーマンス、絵画、ビデオなどで空間を構成。
会期中は渡辺さん自身がコンクリート製の一畳ハウスに住み、金槌とノミを使って自身のタイミングで出る経緯が見られる。
展覧会は東京・池尻のNANJO HOUSEで12月7日~28日(14時~20時/水曜定休)。渡辺さんの公式サイトからメールで予約すれば、鑑賞できる。
●渡辺篤公式サイトはこちら
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