「営業」を学ぶ大学生が増えている。大学生たちの狙いは、自分を売り込む術を取得し、就職活動に備えることだ。明確な答えがない「営業」のいろはを教えているのは、14歳から社会に出た若手ベンチャー社長だ。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

取材を受ける前嶌社長(左)と金田取締役

営業課(東京・千代田)は2012年から、大学生・院生を相手に「営業学部」を運営している。この学部のカリキュラムは、半年で10回。前半の3カ月に座学を6回の講座で学び、残り3カ月で実践を4回の講座で行う。

日中は大学の授業があるため、講座を開講する時間は夜19時過ぎから。場所は、東京千代田区にある自社ビル内のセミナールームだ。授業料は半年間で3万5000円。現在は、4期目に当たり、これまでの受講生は250人を超える。2012年10月にはじまったときは、受講者数は20人だったが、現在受けている4期生は約6倍の130人に増えた。

プロモーション費用はかけずに、ほぼ口コミで広まっていった。早稲田大学や東洋大学など関東の大学の経済学部系の講義やゼミ内で月に1回ほど講義を行い、大学教授内で評価されている。これまでの累計講義数は30回以上に及ぶ。

講義を受ける受講生は、1クラスで40人ほど。4期は3クラスで合計130人が受けている。受講生の自主性を鍛えるため、講師のサポートは最低限におさえている。

たとえば、入学した初日、お互いの自己紹介もないまま、いきなり4~5人のグループをつくり、リーダーを決めることを求められる。時間は、わずか20分間だ。短時間でできたグループで、全カリキュラムをともにする。

営業学部事業管轄を務める営業課の金田隼人取締役(24)は、その模様を黙って見ている。「積極的に自己紹介する人、相手の話を聞く人など、このワークでその人の特性が分かる」と話す。金田取締役は、受講生全員と事前に面談している。営業学部の講座は、授業料を支払えれば誰でも授業を受けられるわけではない。その人に成長意欲があるかどうかなど金田取締役を始め、社内で判断し、合格した者のみ受講できる。

講座では、課題を見つけ、その解決策を考え、実践するまでを取り組む。4期生は、太陽光発電事業を行う企業と大手新聞社の2社が、実際に抱える企業課題の解決策を考える。最後の10回目の講座で、企業担当者にプレゼンし、企画が良ければ予算が付き実現の可能性もある。

■営業は、「人との信頼関係」

2009年に営業課を立ち上げた前嶌剛社長(29)は、「ここで教える営業学で重視するのは、人とのコミュニケーション」と説明する。営業には、教科書がないため、数学や物理のように、明確な答えはない。だからこそ、相手と信頼関係を築き、相手の求めを察知し、それに応じる力が求められる。

営業を学ぶことは、「キャリアを見つける最短の道」と言う。「営業に配属されることを嫌がる大学生は増えているが、営業こそ、仕事の基礎。まずは、営業を磨き、社会人としての土台をつくり、その上で専門性を身につけてほしい」とエールを送る。

今後の事業の展望は、営業学のマスターを取得できる大学院の創設だ。マスターは、中卒からでも取得できるので、学歴に左右されない。現在、通信制高校に通う生徒数は約19万人いるが、2人に1人が卒業後に就職も、進学もできていない。働き先も少なく、性風俗の仕事にたどり着き、自傷行為や薬物依存に陥る子どもは少なくない。

「学歴に左右されない」という点に、前嶌社長自身も強い思いを持つ。実は、前嶌社長は一風変わった経歴を持つ。1985年に東京で生まれ、小・中と同市で育った。転機は中学2年生で起きた。家庭の都合で14歳から働き出した。

まずは、友人の親の仕事場で職人として働いた。高校になっても、定時制に通い、プログラミングのスキルを学びながら、仕事をし続けた。定時制卒業後も、美容師になったり、飛び込みで履歴書を持っていきプログラマーとして就職したりしてきた。

同世代が勉学に励む時期に、社会人と混ざって働いていたことで、10代ですでに月収70万円を突破した月もあったという。

10代のうちに、勉強や遊ぶ時間を持つことが友人と比べて少なかったが、「恵まれていた」と振り返る。「大手企業の経営者から町の職人まで、色々な大人たちに出会えて、たくさんのことを学んできた。この経験を伝えていきたい」。

会社にも理念があるように、個人にも志を持ってほしいと言う。前嶌社長がここで言った志を、夢と比較して説明してくれた。「夢とは、サッカー選手になること。志は、サッカー選手になって人を勇気付けたいという未来への意思。志を持つと、会社選びにも迷いが生じなくなる」。

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