神奈川県横浜市で、主婦が始めた小さな団体があります。地域と協力しながら、誰も排除しない、されない場所を目指して活動し、今年で活動20周年を迎えました。立場が違う人たちが、居場所を感じ、助け合いながら生きていく地域づくりとは。(JAMMIN=山本 めぐみ)
保育園運営が活動の原点
横浜市に拠点を置く「NPO法人さくらんぼ」。1998年、横浜市認定の認可外保育園から活動をスタートさせました。
「そこから地域のニーズに応えるかたちで徐々に活動を広げ、医療的ケアが必要な子どもも入所できる認可保育園、乳幼児の一時預かりや、専門相談員が子育てや困りごとの相談にのる児童家庭支援センター、子育て情報収集の場などの運営も行っています」と語るのは、さくらんぼ代表の伊藤保子(いとう・やすこ)さん(65)。
認可外保育園をオープンさせた当初、保育園の数はまだ少なく、「役所が判断して、決められた人だけが入れるような場所だった」といいます。
「子育てで大変な思いをしているお母さんや子どもたちのためにオープンした保育園でしたが、いざ始めてみると、幸せになったのは、私たちだった」と当時を振り返る伊藤さん。その理由を尋ねてみると、次のような答えが返ってきました。
「お母さんたちから感謝されたり、預かった子どもたちが目の前でどんどん成長していったり…。そんなことももちろん幸せだったが、それまで家庭に縛られていた私たちが解放されたことが、何より幸せだった。
私たちが子育てをしていた時代は『母親は家庭にいて、子どもの面倒を見るのが当たり前』という風潮がまだまだ残っていた」
「私自身、専業主婦として生きてきたが、保育園を始めると視野がぐっと広がった。それが、本当に楽しくてしょうがなかった。仕事を持ったことで、社会とつながりができ、そこにすごく幸せを感じられるようになった」
子育てをする女性が輝くために
「子育ては母親がやるもの。家のことは母親がやるもの」という意識が知らない間に刷り込まれていたのではないかということにも、外に触れて初めて気づかされたと伊藤さんは振り返ります。
「『ありがとう』『ご苦労様』という感謝の言葉が、家族からあったかもしれない。でも、女性たちは本当にそれで満足できたのだろうか?と感じた。もし、地域の中に自分を活かせる場所があったら、女性はうれしいのではないか。だとしたら、どういう場があれば、お母さんだけで子育てをしなくても良い環境になるのか。そんなことを考えながらこれまで活動をしてきた」と話します。
そこからは、保育園だけの活動にとらわれず、その都度のニーズや課題に応えるかたちでいろいろな事業を展開してきました。
「主に子育てを担っている人にとってどんな場があれば良いのかを考えた時に、保育園の他にも一時預かりや、放課後支援、ヘルパー派遣、相談窓口や情報交換の場など、さまざまな活動が生まれた」
虐待や貧困家庭もサポート
こういった活動の中で、伊藤さんたちは新たな課題を目の当たりにします。
「保育園を初めてから、専業主婦として守られた生活の中では見ることのなかった、緊迫した子育ての現場が見えてきた。
『お母さんとしてだけではなく、女性として生きられる場所があれば』と活動していたが、それさえ難しい、経済的な事情や虐待、暴力などで養育自体が困難な状況にある家庭の現実を突きつけられた」
「こういったケースに対しても、自分たちの持つ穏やかなネットワークを通じて寄り添いが提供できるのではないかと思い、そこからまた少しずつ活動が進化していった」と当時のことを語る伊藤さん。
生活するのが困難な状態にある家庭の子どもだけでなくその親御さんも含めたサポートを、と地域の他のNPO団体と協力しながら、フードバンク活動や相談事業も始めました。
「お母さん自体が、幼い頃に暴力や虐待を受けているなど、不適切な養育の中で愛情をかけられることなく大人になっている。なんとか踏ん張って今母親になっているけれども、された記憶や安心感がない中での子育ては大変。地域ぐるみで、子どもだけでなくその親も含め、家族をサポートしていく必要があると感じた」
外国にルーツを持つ家庭にも支援を
伊藤さんたちが新たに立ち上げたもう一つの事業が、地域で暮らす外国籍の家庭をサポートする事業「カムオン・シェシェ」です。
「『カムオン』はベトナム語で、『シェシェ』は中国語で、それぞれ『ありがとう』という意味。私たちの活動する地域は、外国籍居住者の中で突出してベトナムや中国から来られた方が多い地域。外国にルーツを持つ方たちの子育てを考えてみた時に、文化や言葉が異なる中、手探りで様々な情報を収集する大変さを感じた」
「異国の地で、子育てで何か困ったことがあった時にどこへ相談していいかもわからないし、子どもが熱を出した時や病気になった時、どこの病院へ行けばいいかもわからない。相談や病院へ行ったら行ったで、言葉が通じない。本当に大変な中で子育てしているお母さんたちを支援したくて始めたのが、この事業」と伊藤さん。
外国にルーツを持つ人への通訳や翻訳、役所や病院への同行を通じ、こういった方たちが孤立することなく、地域に見守られながら子育てできる環境を整えつつあるといいます。
「通訳や同行をするのは、先に日本に来た先輩ママたち。この支援を通じて両者が直接つながり、先輩の子育て層がニューカマーの子育て層を助けるという新たな支援の輪も生まれてきている」と笑顔を見せます。
児童養護施設を出て大学へ通う学生に、下宿先を提供
来年の春からは、新たな事業として、児童養護施設退所等、親を頼れない家庭状況の中で大学に通う女子学生のための下宿施設をオープン予定だといいます。
「高校を卒業して児童養護施設を出た後、親や親戚を頼ることが難しい子どもたちは、生活でも苦労を強いられる。進学した子どもの場合、学業の傍ら、学費や生活費も自分で働いて賄わなければならない。頼る人がいないので、困ったことやわからないことがあった時に、相談できる人も身近にいない」
「地域で、なんとかこういった子どもたちの力になれないか。頼る場所のない子どもたちが、誰かに守られている事を感じながら安心して学生生活を送れる場所を提供できないかという思いからスタートさせた」
「3部屋の個室があり、シェアハウスのようなかたちで、キッチンやバス・トイレは共有。一番の特徴は、事務所がすぐ近くにあるので、常に近くに『おばちゃんズ』がいること」と目を輝かせます。
「熱が出たら、冷やし枕と薬やおかゆぐらいは用意してあげられる。外から帰ってきたときに、あたたかいお味噌汁とご飯ぐらいは用意してあげられる。
『風邪で寝込んでしまった』とか『わからないことある』など、何か困ったことがあったときに、すぐ近くにおばちゃんがいてサポートする『困ったときにちょっと頼れる一人暮らし』を目指している」
「女性の場合は、生活に困った時にお金を稼ぐために体を売ったりと夜の世界も身近にある。せっかく進学したのだから、卒業した時にしっかり自分の足で立てるよう、学業に専念して、少しだけおばちゃんズに世話されながら暮らして、生活に必要な知識や環境を一つずつ手に入れていってほしい。“福祉”でも“自立”でもない、“地域の支え合い”の延長として、個人の『幸せ』をサポートをしたい」
下宿する女子学生に、温かいご飯&味噌汁を提供するための食費を集めるチャリティーキャンペーン
チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は、さくらんぼと1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。
「JAMMIN×さくらんぼ」コラボアイテムを1アイテム買うごとに700円がチャリティーされ、さくらんぼが運営する下宿施設に滞在する女子学生に、温かいご飯と味噌汁を提供するための食費となります。
JAMMINがデザインしたコラボデザインに描かれているのは、枝の上で一休みし、飛び立つ鳥たちの姿。地域のいろんな人たちが集まり、安らげる場所を提供しているさくらんぼの活動を表現しました。
チャリティーアイテムの販売期間は、12月10日〜12月16日までの1週間。チャリティーアイテムは、JAMMINホームページから購入できます。
JAMMINの特集ページでは、さくらんぼの活動について、伊藤さんへのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせてチェックしてみてくださいね。
・制度の届かないところへ、支援の輪を。参加障害のない街づくりを目指して〜NPO法人さくらんぼ
山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年9月で、チャリティー累計額が2,500万円を突破しました!
【JAMMIN】
ホームページはこちら
facebookはこちら
twitterはこちら
Instagramはこちら