生物多様性の保全活動を行うワイルドライフコミュニティ研究所は11月25日、シカによる生態系への影響と対応を考えるセミナーを開いた。近年、繁殖するシカが森の植物を食べ尽くし、生態系へ深刻な影響を与えている。全国31の国立公園のうち20箇所で被害が出ており、2012年度の農林水産業被害額は約82億円にのぼる。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
同セミナーに登壇したのは、シカと植物の相互関係を研究している麻布大学野生動物学研究室の高槻成紀教授。高槻教授は、「このままの勢いだとシカが日本の森を食い尽くし、生態系を大きく崩す危険性がある」と指摘した。
現在、ニホンジカは東北や中部地方を中心に260万頭以上生息しているとされているが、ハンターの高齢化もあり、2025年には約2倍となる500万頭まで増えると見込まれている。
シカは幅広い食性と採食性を持つ。繁殖力が強く、群れで行動するため、森の植物を食い潰す。生態系への影響を与えることに加え、土壌も不安定にして、土砂崩れの原因ともなる。若い樹木も食べるため、森そのものが失われる危険性もある。
シカが増えた原因は、複合的である。ハンター・農業人口が減り、人が森に入らなくなったことや、シカを餌とするオオカミがいなくなったこと。さらには、温暖化で積雪が少なくなり、冬季に子ジカが死ににくくなったことなどもある。
シカの有効利用として、ジビエ料理やシカ肉を使ったペットフードなどがあるが、高槻教授は、シカが増えていることで、生態系に危険を及ぼしているという認識を強く持つことを訴えた。シカ問題に国民の関心を集め、ハンターの育成などに予算を割けることを期待した。
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