「サンタクロースになることで、本当の顧客が見えてくる」――そう話すのは、NPO法人チャリティーサンタの清輔夏輝代表理事だ。理由は、プレゼントを手渡しすることで、受け取った人の感動を間近で共有できるから。非日常の「サンタ体験」は、忘れていた感謝の気持ちを呼び起こすと話題だ。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
同団体では、クリスマスイブの日にサンタクロースに扮した大人が、依頼のあった家庭の子どもにプレゼントを届けるという活動を行っている。サンタクロース役の大人は、すべてボランティア。札幌、東京、名古屋、福岡など16都道府県21地域に支部があり、今年は約1700人のサンタが4000人以上の子どもたちにプレゼントを届けた。
2014年4月にNPO法人となり、企業と連携した取り組みも行っている。今年のクリスマスには、ヤフーと組み、同社でヤフーショッピングを担当する部署の約100人がサンタになった。ヤフーショッピングで購入した人の家に、商品を持った社員自ら届けた。
ECサイトでは、普段はネット上で売買が成立し、商品を届けにいくのは、宅配業者が担当する。商品を受け取った人の顔を見る機会が少ない担当者には、サンタ体験が刺激となった。参加した同社役員からは、「次回は全社員向けに実施したい」との声も出た。
企業人がサンタ体験で得るものについて、同団体の清輔代表は、「事業を立ち上げた当初、初めて商品が売れたときの喜びに似ている」と話す。「忘れていた気持ちに気付き、単純にモノを売っているのではなく、感動を届けていると認識できるはず」。
今後は、サンタ体験をした社員がどう変わったのか、統計データを取るなど、次の展開を見据えている。現在、慶応義塾大学大学院のシステムデザイン・マネジメント研究科の前野教授と幸福学の観点から、サンタ体験を論文にまとめており、来年3月には完成する予定だ。
■一仕事終え、ネパールへ
年に一度の大仕事を終えた同団体は、ネパールの子ども支援活動に向けて動いている。今年度のメインプロジェクトとして、同国の第2の都市ポカラ近くのニルマリポカリ村で生産されるコーヒー豆の販売を行い、貧困農家の自立支援を行う。
農家の収入を上げて、子どもたちを学校に通わせるようにすることが狙いだ。昨年、ネパールでサンタが着る服を作ったことがきっかけで渡航した際、ネパールが「世界一開発が難しい国」と言われ、子どもたちが学ぶ環境が充分に整っていない現実を目の当たりにしたためだ。
同団体が販売するネパール・コーヒー豆のパッケージは、同地の子どもと協力して製作する。
子どもたちが描いたイラストを素材に、同団体のメンバーがおしゃれにデザインする。現在、このプロジェクトについて、クラウドファンディングで資金200万円を募っている。
■「やってみたら、分かる」
企業人がサンタ体験で得られるものは、先ほど説明したが、一般人が得るものとは何か。清輔代表は、「恥ずかしくて、なかなか言えないことや、アクションが起こせないことを、やってみて、相手に喜んでもらったときに感じるもの」と表現する。
この団体に参加している人は、クリスマス期間に、見ず知らずの子どものもとへプレゼントを届けにいく。冬の寒空の中、いくら動いても、給与も昇格もない。しかし、お金では得られないものを得るために行う。活動が開始した2008年には150人のサンタだったが、今年はその10倍以上の1,700人に増えた。
今の21支部を、将来的に500支部まで拡大することを目指す。日本中の子どもたちに届けるためだ。日本では、サンタクロースは聖夜だけに訪れ、プレゼントを届けることが役割というイメージが定着している。団体の活動を説明すると、「サンタクロースが仕事になるのか、遊びじゃないの」と言われることもあるという。
清輔代表は、「やってみないと分からないから面白い」と答える。「もし、打てば毎回ホールインワンしたら、ゴルフはつまらなく感じるでしょ。それと同じで、どうなるのか分からないからこそ、やってみる価値がある」と前を見る。来年は、企業・行政・大学と組み、さまざまな事業を始める予定だ。
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