内閣府の平成26年の調査によると、若年無業者(15〜34歳の非労働力人口のうち、通学や家事をしていない者)の数は56万人。別の調査では、引きこもりは70万人近く、不登校の小・中学生は13万人以上という数字が出ています。生きづらさを抱えながら、誰にも相談できず自分の殻に閉じこもり、社会参加不全状態になってしまう若者たち。長野県上田市に、こういった若者たちの自立を支援する学校があります。(JAMMIN=山本 めぐみ)

■社会に出た後、本当に必要な「生きていく力」を身につける

長野県上田市にある「侍学園スクオーラ・今人(通称サムガク)」は、若者たちの自立を支援する学校です。運営するのは「NPO法人侍学園スクオーラ・今人」(長野)。

独自の哲学とカリキュラムに基づいたプログラムで、これまでに多くの若者が社会へと巣立っていました。

「生徒たちが社会の中で生きていくために、必要だと思うことはすべて伝える。そうでないと、本当の意味で彼らを守ってあげられない。そこが他の自立支援団体との一番大きな差」。そう話すのは、侍学園スクオーラ・今人理事長の長岡秀貴(ながおか・ひでたか)さん(45)。

「侍学園スクオーラ・今人」理事長の長岡さん

「『見た目なんて関係ない。これが自分だ』と本人が言っても、家庭内ではそれは許されるが、実際に社会に出たらどうだろうか。外見で排除されてしまう危険があるのが、本音であり現実。教育者にとって、相手のことを否定しかねない問題はなかなか指摘できない。『君はそのままでいいんだよ』と受け入れる自立支援団体が多い中で、言いづらいことであっても、僕たちはあえて伝えている」と強調します。

授業の中には、プロの美容師によるヘアカットも。自分自身でもスタイリングできるようにワックスの付け方なども教わる

サムガクでは、身だしなみのマナーやエチケットなどにとどまらず、コーディネートの仕方やメイク、ヘアケア、ネイルなども授業を通じて生徒たちに教えています。

「家にこもったりして家族以外の人と会うことがなかった生徒たちは、髪型やメイクにこだわることに価値を感じていない。むしろ拒否感を抱いていることも多い。授業を通じ、徐々に『見られている自分・社会の一員としての自分』を意識するようになり、見た目もどんどん変わっていく」(長岡さん)

■彼らが知っているようで知らない、生きる「基礎力」

手植えによる田植え作業。農作業を通じて自然に触れ、また食のありがたみを感じとる

サムガクの授業はそれだけではありません。プログラムを通じ、「衣・食・住」すべてに関して、生きる上で必要なベーシックスキルを身につけていきます。

「家庭にいる時は、出されたものを食べるだけでよかった。けれど、畑で作物を作ったり、共同生活で料理を担当したり、食を提供する立場を経験して初めて、家庭では許されていたことが許されないということに気づく。食を通じていろんな人とつながっているということ、そしてそこに対価を払うこと、生きるために食べることを、『食』のプログラムを通じて学ぶ。そして『住』のプログラムでは、一人で暮らしていくために必要な金銭感覚やDIYのスキルなど、具体的・実践的に学んでいる」(長岡さん)

■自分と他人、社会を知り、より充実した人生を

2017年6月に完成した新しい寮「ミライフ」での昼食風景。配膳は生徒が自主的に手分けして行う。夕食や朝食はここで暮らす寮生たちが当番制で作る

さらに、自己理解を深め他者の受け入れ方を学ぶことで、相手を思いやることや尊重すること、社会とつながっていくための授業もプログラムに盛り込まれています。

「社会参加不全の若者は、最初は『あれがいや』『こうじゃなきゃいや』『こうしてほしい』と、相手に対して『ほしいほしい』となりがち。要求が満たされなかったら、死んだ方がいいとまで考えてしまう。スタッフが全身全霊で向き合うが、それがずっと許されるわけではない。自分と意見が違う人や、苦手だと感じる人も受容していかなければならないこと、そういった人たちと価値観をすり合わせていく方法を、日々の生活の習慣や繰り返しの中で学んでいく」(長岡さん)

■「教育」ではなく「共育」。共に学び、共に育つ

毎年秋に開催される学園祭の様子。生徒の舞台発表の本番直前、円陣を組み、掛け声で士気を高める

こういったプログラムは、長岡さんが学園を立ち上げてからの15年間の「共育」が生み出したものだといいます。

「これまでサムガクに携わってくれた生徒の一人ひとりが羅針盤となり、枠を作ってくれた。その中でさらに、いろんな人と接することで様々な化学反応が起こり、切磋琢磨しながら、互いに成長してきた。ここに幸せがあると僕は感じている」

「『どう生きるか』も大切だが『誰と生きるか』こそが重要。誰と何をするのか、何ができるのか、それを体験した人こそ、幸福感を得らえるのではないか」(長岡さん)

■「生きる幸せ」「豊かな人生」を得るために

お寺でのヨガ体験。サムガクでは様々なスポーツや座禅などの授業も。「自分にできるのかどうなのか、最初は不安でも少しずつ自信がついていく」と長岡さん

生きていく上で、最終的に見据えるのは「生きる幸せ」だと長岡さんは語ります。サムガクでは、「豊かな人生とは何か」「どうすれば生きる上で幸福感を得られるのか」といったことを生徒たちが自ら感じたり、考えたりするプログラムにも力を入れています。

「自分は知らないような世界の人や興味がない分野と接し、触れることで幅広い意識を身につけ、いずれは本人が自分らしく幸せを感じながら生きていく糧になれば」と長岡さん。

様々なイベントの一つが、毎月各分野で活躍している講師を呼んで、その人の生き様や思いを語ってもらう「職業人講話」というプログラムです。

南極観測隊隊員の井熊英治さんによる「職業人講話」の様子。南極という極限の環境での生活や「人は必ず助け合わないと生きていくことができない」といったエピソードに、生徒たちは熱心に耳を傾けた

「講師の先生の話を、生徒たちは最初こそ理解できないかもしれないが、命や人生をかけて取り組んできた講師の姿を見て『なぜこれをやってきたんだろう』『ここまで情熱を傾けられるのはなぜだろう』と、そこにある何かの存在を知り、考えるようになる。これは必ず後々の人生で生徒たちの生きる力につがながるはず」(長岡さん)

■学園は、幸せに立ち向かうための「スキル」を得る場所

学園祭の舞台発表に向け、生徒たちが一丸となって稽古に取り組んでいるところ。学園生活では些細なすれ違いで生徒どうしのトラブルが起きたりすることもある。相互理解を深め、困難を乗り越えることで生徒たちは成長していく

「『自分なんて不幸になればいい』とはなから考える人は、一人もいない。人間である以上は、幸せを感じる必要がある」と長岡さん。

「幸せの条件は『人に評価されること』『人の役に立つこと』『人に必要とされること』、そして『愛される実感を得ること』の4つ。最初の3つは働くことによって得られる。つまり、労働がないと自分の幸福感は近づいてこない」といいます。

「生き続けること、そして働くことに疑問を持たず、限られた人生を価値を持って生きて欲しい。『人生をどう豊かにするか』は、セカンドステージ。そこに立ち向かっていくために、今日から明日へ、命をつないでいくためのスキルを得る場所が、僕たちの学園」(長岡さん)

■社会参加不全の生徒たちの自立を応援できるチャリティーキャンペーン

チャリティー専門ファッションブランド「JAMMIN」(京都)は侍学園スクオーラ・今人と1週間限定でキャンペーンを実施し、オリジナルのチャリティーアイテムを販売します。

「JAMMIN×侍学園スクオーラ・今人」コラボアイテムを1アイテム買うごとに、700円が侍学園スクオーラ・今人へとチャリティーされ、生徒たちの豊かな人生を育む「職業人講話」開催のための資金となります。

「JAMMIN×侍学園スクオーラ・今人」1週間限定のチャリティーデザイン(ベーシックTシャツのカラーは全8色、価格は3,400円(チャリティー・税込み)。他にパーカーやマルシェバッグ、キッズ用Tシャツなどもあり

JAMMINがデザインしたコラボアイテムに描かれているのは、溶け出した氷から顔をのぞかせる一輪のエゾギク(花言葉は「信じる心」)。自らを閉じ込めていた壁を溶かし、もう一度「信じる心」を解き放つ人間の姿を描きました。

チャリティーアイテムの販売期間は、6月11日~6月17日までの1週間。チャリティーアイテムはJAMMINホームページより購入できます。

JAMMINの特集ページでは、サムガクのプログラムについて、長岡さんのより詳しいインタビューを掲載中!こちらもあわせて、チェックしてみてくださいね!

若者の自立を支援し、豊かに生きていくため「生きる力」を身につける学校〜NPO法人侍学園・スクオーラ今人

山本 めぐみ(JAMMIN):
JAMMINの企画・ライティングを担当。JAMMINは「チャリティーをもっと身近に!」をテーマに、毎週NPO/NGOとコラボしたオリジナルのデザインTシャツを作って販売し、売り上げの一部をコラボ先団体へとチャリティーしています。2018年3月で、チャリティー累計額が2,000万円を突破しました!

【JAMMIN】
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