一般社団法人アジア太平洋開発交流機構(CAPE、東京・荒川)は児童養護施設の子どもたちに夢を描いてもらうワークショップを行っている。紙に夢を30個書いてもらい、その夢を叶えるためにはどうすればよいのか共に考える。CAPE理事の道正義隆さん(27)は、「夢は語れるもの」と子どもたちに伝える。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
道正さんは2014年末に、新卒で入った大手電気メーカーのグループ会社から転職してきた。CAPEは2012年に立ち上がり、ミャンマーやスリランカなどの貧困地域で教育支援活動を行っていたが、道正さん発案で、途上国だけでなく、日本の「子どもの貧困」にも目を向けるようになる。
CAPE調べでは、児童養護施設出身者の大学進学率は12%。(平均大学進学率53%)。18歳で施設を出ていかなくてはいけないため、生活費や家賃の支払いに追われ、学費が払えないという子も多くいるという。
学校に通っていないため、教育の遅れも大学進学を阻んでいる。施設には、親から虐待やネグレクトを受けてきた子どもが大半だからだ。
何とか就職できたとしても、劣悪な労働環境で働かされて、長続きしないこともある。アルバイトなどを転々と繰り返し、施設を出た約半数が月収15万円以下で暮らしているという。
この問題を解決するため、CAPEでは、立教大学英語講師の梅原洋陽氏や大学生を中心としたボランティアと、足立区の児童養護施設に週に1回、出向いている。施設では、学習支援を行う前に、「夢ワークショップ」を行う。そのワークショップでは、大学生と子どもたちが夢を語り合う。そして、夢を30個書いてもらう。
その理由を道正さんは、「子どもたちに夢を見つけてもらってから、その夢を叶えるための勉強を教えている」と話す。参加するのは、子どもだけでなく、施設の職員も。大人のほうが夢を30個書けないことが多く、子どもたちは職員に勝てたと思い、自信を得ていくという。
夢を1つではなく30個書いてもらうように指示するのは、将来への選択肢を広げてほしいからだ。子どもたちにとっては身近な大人が、施設の職員であるため、ほかの職業を知らずに、将来は職員になることを目指す傾向にある。
ある小学生の女の子は、「お花屋さんになりたい」と言った。その夢を叶えるため、今年5月には、池袋の催事で、花屋と協力し、その女の子が紙に描いた花屋を出展する。当日は女の子もブースに立ち、販売スタッフとして参加する。道正さんは、「夢は実現できるのだと、自信を与え、周りの子どもたちにも、夢を見ることの大切さを伝える」と言う。
■「会社で夢を叶えるとか言うな」
道正さんが「夢を語ること」にこだわるのには、理由がある。それは、前職で夢を語ることを受け入れてもらえなかったからだ。道正さんは、CAPEに転職をするとき、所属していた部署の全体会議でお別れの挨拶をした。そのときに、学生の頃から抱いていた夢を叶えるため新しい挑戦をしますと話した。
挨拶を終えると、上司に呼び出され、「会社で夢を叶えるとか言うな」と説教を受けた。その会社では、同期や上司も、「夢なんてない。安定した生活が第一」という考えが浸透していた。この空気感は転職を後押しした。
今では、道正さんは転職しているが、実は、道正さんも「夢を忘れていた」と告白する。学生時代に行ったカンボジアへのスタディツアーがきっかけで、貧困問題を解決したいという意識が芽生えた。まずは3年間大手企業で働き、力をつけた後、NGOに転職すると決めていた。
会社では海外営業部に配属され、中国駐在を経験。多くの実績を重ね、数十億円単位の商品を扱うようにもなった。一方で、仕事に没頭していくほど、学生時代に抱いていた夢の存在感がだんだんと薄くなっていった。そんな道正さんに夢を思い出させたきっかけは、ある先輩の誘い。
先輩の自宅でパーティが開かれ、多くの人が集まった。そこでは、「カメラマンになりたい」「アーティストになりたい」など、参加者一人ひとりが夢を持っていた。「道正さんの夢は?」と尋ねられ、思わず、「社長かな・・?」と答えた。「社長って楽しいの?」と聞かれると、言葉が出てこなかった。その時に、学生の頃の夢を明確に思い出せたという。
道正さんが進める施設での教育支援は、施設の子どもたちだけのために行っているのではない。参加する大学生ボランティアも夢を話すので、キャリア教育になる。ボランティアは受け付けており、「何かしたいと思っている学生の参加を待っている」と話す。
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