完全な真っ暗闇の中を、視覚障がいの人にサポートされながら探検するエンターテイメント、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(暗闇の中の対話)」。今回紹介するのは、その英語バージョン。光と日本語が奪われた空間は、私たちに何を見せてくれるのだろう。(オルタナS特派員=中嶋 泰郁・早稲田大学教育学部社会科社会科学専修4年)
ダイアログ・イン・ザ・ダークは、純度100%の暗闇の中を、「アテンド」と呼ばれる視覚障がいの人に案内されながら体験するエンターテインメント。視覚以外の様々な感覚を使って、新たな世界に出合う。参加者は、1回につき8人程度。「暗闇の中の対話」を通じ、何気なく感じていた人の温かみなどを切に感じることができる。
元々ドイツで始まり、日本でも16年前から開催されている。全世界で800万人以上、日本では14万人以上が既に体験している。
東京・外苑前で、平日は主に企業研修や団体貸切などで利用されている。一般の人には、金曜は夜のみ、土日は一日中開催されている。満席の回も多く、様々な人が暗闇の世界に飛び込んでいるのだ。
多くの人が楽しんだ非日常の世界よりも、もっと非日常で、月に1回しか開催されないプログラムがあると聞いたら……あなたは興味を惹かれるだろうか。
それは、ダイアログ・イン・ザ・ダーク「英語バージョン」だ。
■思ったことが伝えられないもどかしさ
白い杖が、目となり耳となり足となり、本当に何も見えないところを進んでいく。様々な場面が用意されており、参加者は歩いたり座ったり寝転んだり……。
「英語バージョン」は、日本語を話すことができない以外、通常の暗闇体験と何の違いもない。ただ、その違いは大きい。
何かに気付いた時に、すぐに英語が出てこず、モヤモヤしてしまうことがあった。例えば、「地面が柔らかい」「下に何かある」「靴紐がほどけてしまった」……。
普段英語を話す時、身振り手振りを使ってコミュニケーションをする人にとって、辛い境遇であった。いくらアイコンタクトを試みても、うなずいても、それだけでは意思の疎通がはかれない。
そのような状況下では、「文法的に間違いのない英語」というよりかは「相手に伝わる英語」を意識して話す必要があった。同時に、他の人が話している時には、聞き漏らさないように耳を傾けた。
■「チーズ開けるの手間取ってるみたいだけど」
暗闇で過ごす90分間で色々な体験ができるのだが、印象的だった場面を1つ紹介したい。それは、カフェで談笑していた時のことだった。
4人でテーブルを囲んで、飲み物を飲みながらスナックをつまんだ。スナックの1つに、銀紙に包まれているチーズがあった。銀紙をはがすのに失敗した私は、会話をしながら悪戦苦闘していた。
「ヤス。チーズ開けるの手間取ってるみたいだけど、大丈夫?」ふとアテンドのジュンさんが、私に尋ねてきた。「なんで分かったんだろう?」少し戸惑いながらも、彼に返事をした。
後で聞くところによると、音や動作で何となくわかったという。「暗闇のエキスパート」と称される視覚障がいのアテンドの方の観察力(聴察力というべきか)と心づかいに、驚くとともに感動してしまった。
■暗闇は、世代も国籍も越える
今回は、参加者が3人と比較的少なかった。20代の私、40代のコージさん、60代のノブさん、そしてアテンドのジュンさん。
世代が異なる4人が、暗闇の中で濃密な90分間を共有した。
話した内容は、普段していることや好きな映画をはじめ、ジョークから人生まで広がった。初対面の人とこんなに語り合うことはないだろう。
暗闇の怖いところは、自分が話しているときに相手の顔が見えないことだ。まして英語で話しているのだから、時には言葉がうまく出てこない。「ちゃんと伝わっているのか」と一抹の不安を感じる時もあった。
だが暗闇は優しく、私たちを「音」に集中させてくれた。各人の「伝えよう」「受け取ろう」の思いが絡み合い、コミュニケーションを成立させていた。暗闇は、想像よりも心地よかった。
参加者の声を紹介します。
ノブさん
「初めての経験ばかりだった。いつになっても、Appetite for adventure(冒険への欲求)だ」
コージさん
「世界で行われている多国籍なものだ。暗闇の中で皆が話し合えば、国籍を越えた問題解決につながるんじゃないか」
ジュンさん
「世代もバラバラで少人数だったが、人生について等いつもより深い話ができて、やりがいがあった」
日常において、世代が上の人と出会ったら、かしこまってしまうことが多いだろう。参加者は、お互いの顔が見えない中で、英語を使っていた。だからこそ年の差もあまり感じず、話す内容やちょっとした気づかい等の相手のふるまいに集中ができたと思う。
■敷居は全然高くない
視覚が使えず、日本語も使えない。参加する前は、そんな状況にとても身構えていた。いざ暗闇の中に入ってみると、存在を主張するため、思ったことを伝えるために、自然と何かを話していた。
思いを伝えるために、「難しい英語」や「文法的に間違いの無い英語」を話す必要はあまりなかった。より重要なのは、「相手に伝わる英語」と伝えようという思い、話し方であった。
アテンドのジュンさんは、以前英語バージョンを体験された方の話をしてくれた。「普段はあまり英語を話したがらない日本人同士でも、テレがなくなる暗闇の中では、英語をよく話すことができて驚いた」という話だ。
恥ずかしさを捨てて英語でコミュニケーションを取らざるをえない、英語バージョンの状況は、教育的効果もとても高い。
暗闇で英語ということで最初はのけぞるかもしれないが、敷居は決して高くない。ぜひ参加をしてみて、英語を使いながら人と触れ合ってみてはいかがでしょうか。
※この記事は、個人の見解です。
次回以降の英語バージョンは、5/31(日)13:20~、6/27(土)17:20~。
大人料金5000円、学生料金3500円。
ゴールデンウィーク期間中は、毎日開催され、親子で楽しめる特別バージョンもある。
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