「参加することに多少抵抗はあった。でも、この企画で悩んでいる当事者たちに勇気を与えたいという気持ちが勝り、思い切って参加を決めた」。こう話すのは、身体の性と心の性が一致しないトランスジェンダーの平尾春華さん。平尾さんは、MtF(エムティーエフ)と呼ばれるセクシュアリティを持つ。MtFとは、出生時の身体の性が男性で、心の性が女性のこと。平尾さんは、この撮影会に参加することをきっかけに、両親へ自分のセクシュアリティをカミングアウトした。

「参加を決めたのは、当事者として自分からも発信したかったから。たとえ今すぐ何かが変わらなくても、100年後の人に役立つなら自分がカミングアウトする意義はある」と言うのは、ゲイであり牧師の中村吉基さんだ。中村さんが運営する教会では、LGBTも含め、多様な人を受け入れている。教会を開いてすぐの頃は、LGBTに否定的な信者もいたが、「対話を重ねるうちにすっかり仲間になっていった」。

LGBTの割合は7.6%とされ、この数は「佐藤」や「鈴木」の苗字よりも多い。しかし、男女二元論から成り立つ日本社会では、理解が進まず、さまざまなシーンで当事者が生きづらさを感じている。NPO法人虹色ダイバーシティは当事者の2人に1人が就職や転職に抵抗感を覚えていると報告する。

就職活動では男女別に分かれたリクルートスーツの着用を求められ、転職では、興味を持った職種でも、異性愛が当たり前の職場であった場合、バリアを感じてしまう。

プライベートでも、生きづらさを感じる場面は少なくない。中学や高校の頃に周りに黙っていた人は、同窓会や成人式などで同級生に再会するのに抵抗を感じてしまうという。

このような日本社会で、セクシュアリティをカミングアウトしやすくするために、この撮影会は行われた。

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