日本経済研究センターは10月3日、第6回GSR学生アイデア・コンテストを行った。同コンテストでは、8つの大学のゼミ生が大手2社のリソースをつなげあわせて、地球規模の社会的課題を解決するビジネスプランを発表した。グランプリには、インドの栄養改善プログラムを提案した、静岡県立大学・国保研究室が輝いた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
同コンテストは、GSR(グローバル・ソーシャル・レスポンシビリティ)をテーマにしたビジネスプランを競い合うもの。参加した学生たちは、チームごとに地球規模での社会的課題を設定し、その課題をビジネスの力で解決する仕組みを考えた。特徴的なのは、ビジネスプランを考えるさいに、対象企業から2社を選び、協働プランにしなければいけない点だ。
対象企業は、味の素、伊藤忠商事、ANAホールディングス、千代田化工建設、パナソニック、ファンケル、富士ゼロックス、ベネッセホールディングスの8社。学生たちは、2社のリソースをつなげ合わせることに頭を悩まし、さらに、マーケットありきではなく、社会的課題からビジネスプランを考えることにも慣れていなく苦戦した。なかには、実際に社会的課題を見つけにいくため、インドまで渡航したチームもあったほどだ。
学生たちには、プランを考えるまで、2回の企業訪問の権利が与えられている。企業側も学生たちが考えた社会的課題や事業計画書に対して、担当者を同席させ、細部に渡って追求する。
最優秀賞に選ばれた静岡県立大学・国保研究室は、解決する社会的課題を「インドの栄養不良」に定めた。同国では、6人に1人が栄養不良とされ、5歳未満の子どもが死亡する原因として問題視されている。
そこで、10代後半の母親向けに栄養価の高い作物「モリンガ」の生産・栽培を指導し、日本に輸出し、ビジネスパーソン向けに栄養成分が入ったモリンガティーを販売するプランを考えた。ファンケルの青汁加工技術とANAホールディングスの機内販売のリソースをつなげ、インドの女性たちに栄養について啓発し、栄養不良の改善を目指す仕組みだ。静岡県立大学は、モリンガという新しい作物に着目したこととチームワーク良さが受賞につながった。
■目的は「企業の再定義」
同コンテストを企画した狙いについて、村井浩紀・日本経済研究センター事務局長補佐 国際本部長は「企業の役割を再定義すること」と話す。もともとは企業向けに社会的課題を考える勉強会を主催していたが、「これからの企業の役割を次の世代の学生たちに考えてもらおう」という声が出たのが、このコンテストのきっかけだという。
同コンテストが掲げるコンセプトに共感し、第一回より参加している伊藤忠商事はCSR活動において、次世代育成を重点項目に置いている。伊藤忠商事広報部CSR・地球環境室の小野博也室長は、「(学生のビジネスプランに)何度もダメだしをしたが、学生たちはその都度、しっかりと現場を見て、調べてきた。社会人になったら、この経験を生かして、ビジネス展開において、地域社会や様々なステークホルダーを巻き込んでいく、インクルーシブなビジネスの担い手になってほしい」と期待する。
伊藤忠商事が提案されたのは、2大学。明治学院大学GSR研究会と明治大学牛尾ゼミ。明治学院大学GSR研究会では、インドの不衛生な環境に目をつけた。同国では、約7割が野外排泄をしている。その結果、女性たちはレイプ被害を受けることも多く、感染症にかかりやすくなっている。
そこで、ソーラーパネルなどがついたトイレを設置し、管理をアンタッチャブルといわれる貧困層に任せる。富士ゼロックスのカルテ管理を用いた教育プログラムにより、カースト制度の下に位置づけられているアンタッチャブルの人々の地位向上を目指した。
さらに、伊藤忠商事のプレ・オーガニックコットンの技術を生かして、布ナプキンの生産も行う。同国の約7割がナプキンの存在を知らない。不衛生な布を使用し、感染症になる女性は少なくない。学校にトイレがないことで、生理期の女の子は学校に通えず、授業に追いつけず、中退するという悪循環が生まれている。
同大学法学部2年の佐藤秀彰さんは、コンテストに参加して、「視野が広がった」と話す。「インドのトイレ問題を調べることで、その問題の背景や付随する問題も知れた。外に目をむけるきっかけになった」。
■「企業は世の中を良くするために存在する」
ユニーク賞を受賞した明治大学牛尾ゼミでは、ケニアの乳幼児死亡を防ぐプランを発表した。アフリカでは、4人に1人の割合で乳幼児が亡くなっている。そこで、学生たちは日系企業の進出が盛んなケニアに着目し、かつ、同国内で乳幼児の死亡率が最も高いニャンザ州を拠点にした。
乳幼児が死亡する大半の原因は、肺炎とマラリアだ。これらの病気にかかる要因として、彼らが使用しているケロシンランプがある。同地域の電化率は8%であり、多くの家庭でケロシンランプを使っている。
しかし、煤煙を発生させ、蚊を集めやすくするというデメリットがある。そこで、パナソニックが開発したソーラーランタンの提供を行う。ソーラーランタンでは、燃料を使わないためコスト削減にもなる。また、伊藤忠商事がモザンビークで実施している大豆ビジネスと、アフリカの土壌にあったネリカ米の栽培も行い、日本向けに輸出する。農業指導とソーラーランタンの販売を組み合わせるプランは、ケニアだけでなく、周辺のウガンダ、タンザニア、モザンピークにも拡大していく計画だ。また、特筆すべきは企業のみに問題解決を任せるのではなく、自分たちで何が出来るかを考え、牛尾ゼミ生が明治大学でTable For Twoプロジェクトに参加することも盛り込んだ。
明治大学情報コミュニケーション学部3年の石橋晃市さんは、同コンテストに参加して、企業の見方が変わったという。「企業は利潤だけを求めるのではなく、世の中を良くしていくために存在するものだと確信した」。
明治大学牛尾ゼミを指導する牛尾奈緒美教授は、「社会の問題を知ることで、視野を広げるきっかけになる。さらに、その課題の原因や背景まで調べて、解決策を提案する。『こうなったらいいよね』だけでは終わらず、実現可能性を求めることで、学生たちの成長した姿を見ることができた」と話す。
国連は、2015年以降の課題に対しては、SDGs(持続可能な開発目標)を策定している。SDGsでは、「貧困」「飢餓」「気候変動」などに加えて、「グローバルパートナーシップの再構築」「インクルーシブな社会の促進」など全部で17個の目標を定めている。
社会的課題が複雑化した今、行政だけが動くのではなく、民間企業の動きも不可欠になっている。同コンテストに第一回から携わる明治学院大学の原田勝広教授は、「世界的に、社会的課題からビジネスプランを考えることが主流」とし、同コンテストに参加したことで、「学生のうちに最先端な取り組みを経験したことになる」と新しい世代の更なる活躍に期待を込めた。
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