慈済会(ツーチー)をご存じだろうか。台湾を拠点にした世界最大規模の慈善団体だ。武蔵大学社会学部メディア社会学科松本ゼミの学生5人は8月、台湾を実際に訪れ、慈済会の取り組みを取材した。この記事では、膨大な取材量の中から「慈済会の環境への取り組み」をテーマに紹介する。(学生による被災地支援のための市民メディアプロジェクト支局=西 浩平・武蔵大学社会学部メディア社会学科3年)
以前、慈済会の日本支部を訪れた際にも記事を書いている。こちらの記事も読んでいただきたい。「『慈悲の心』届けるには――世界最大の慈善団体に聞く」
・台北内内湖のリサイクルセンター
8月18日、私たちは台北市内湖にある慈済会のリサイクルセンターを訪れ、慈済会の環境への取り組みについてボランティアの方からお話を伺った。まず、最初に驚いたのが、8月の暑い台湾で冷房を使っていないということだ。彼らの環境問題への当事者意識は非常に高い。
内湖のリサイクルセンターでは、持ち込まれるもの、回収したゴミを分解、材質によって分類し、新たな資源としてリサイクル出来る状態にしている。プラスチック類の中でも細かく分類し、紙類の中でも細かく分類する。家電製品などの粗大ゴミも材質ごとに分解、分類しなければリサイクル出来ない。
リサイクルは手間がかかるものだ。慈済会のボランティア達は嫌な顔一つもせず、自らの良心に基づいて従事している。彼らは世の中に感謝しているからボランティアをしているという。このようなボランティアを慈済会では「草の根菩薩」と表現することがある。「草の根菩薩」は全台湾で8万人以上いるという。
・ペットボトルの奇跡
慈済会はペットボトルのリサイクルに高い技術を持っている。ペットボトルを回収し、キャップと口の輪を取り外す。洗浄し、裁断し、フレーク状にしたペットボトルを繊維状にし、布製品を製造する技術だ。
このような技術は慈済会の実業家ボランティアから得られるという。慈済会の災害援助で活躍する「エコ毛布」はペットボトルから作られている。実際に手に取ったが、とても柔らかく温かい。言われなければペットボトルから出来ているものだとは思えない。2011年の東日本大震災の際にもこの「エコ毛布」は東北の被災地に配られた。他にも、ペットボトルからベビー用品や鞄、靴、衣服など様々な製品が作られている。そしてこれらの収益は100%公益に役立てられている。慈済会は自然に帰ることのない石油素材を愛心不滅で生き返らせている。
・環境教育、啓蒙活動
慈済会はリサイクルをするだけではない。環境教育、啓蒙活動にも力を入れている。リサイクルセンターには小学生向けの環境教育のための設備がいくつかあった。地道な活動をする慈済会の影響を強く受け、台湾政府はゴミを減らすことを謳いはじめたという。
台湾では10年前、5つあった焼却処分場をすべて稼働させていたが、最近では2つの焼却処分場のみを稼働させている。慈済会の影響で台湾全土においてゴミを減らす意識が広まったのだ。また、慈済会のボランティアやスタッフは皆、お箸とお椀、コップを携帯している。リサイクルも大事だが、ゴミを出さないことの方が大事だと彼らは言う。
1990年、慈済会設立者の證厳法師という尼僧が公演で「今、拍手している両の手で資源を回収しましょう」と呼びかけてから慈済会の環境事業は始まった。それから25年経った今、8万人以上のボランティアが環境事業に従事している。慈済会が社会に与えてきた影響は非常に大きい。
・地球と共生する
私たちが訪れたこの日、リサイクルセンターは休みであったが、それでも何人のもボランティアの方々が自主的にゴミの分解、分類をしていた。日本語で声をかけてきた88歳のおばあさんは「毎日ここに来られて楽しいですよ」と笑顔で語った。慈済会の環境事業はこのような多くのボランティアによって支えられている。
産業革命以降、我々人類は、これまで地球を我が物であるかのように生きてきた。当然のことだが、地球は一つしかない。「地球と共生する」ことが最も賢い人類の選択ではないだろうか。今後も学生による被災地支援のための市民メディアプロジェクト支局では慈済会の取り組みに注目していきたい。
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