リクルートのカリスマ営業ウーマンから介護事業に転身し、業界未経験で20億円だった赤字をわずか2年で黒字化にした笹尾佳子氏。その取り組みを通して、管理職の女性比率を19%から76%、離職率を34%から15%へと向上させた笹尾氏に、悩める経営者へのヒントとして女性活用マネジメント術を聞いた。(聞き手=オルタナS関西支局特派員・平澤麗子)

笹尾佳子氏

笹尾佳子氏

――離職率改善の取り組みとは。

笹尾:介護業界は慢性的な人出不足を抱えています。東電パートナーズ就任時の離職率は34%と高く、3年で全員が入れ替わるという危機的状況でした。

まず退職希望者全員の面談を行ったところ、介護の価値観のズレやコミュニケーション不足により人間関係が悪化し、職場適合ができないストレスが最大の理由だと判明しました。そこで定期面談や退職者面談だけでなく、年1回従業員満足度調査を行い個別に回答するなど、一人ひとりきめ細かくコミュニケーションを取るようにしました。

また、年間500回以上の研修を実施することで介護に対する価値観の統一や技術の標準化に努め、階層別研修を強化することでマネジメント力を向上させました。現在全社的な離職率は15%ですが、体調不良(65歳以上のパートタイマーが15%在籍している)や配偶者の転勤など、どうしても会社で対応できない方を除く離職率は3.6%台まで下がっており、介護業界の中では非常に低い数字かと思います。

――女性活用マネジメント術とは。

笹尾:女性が多く活躍している介護業界ですが、東電パートナーズでの女性管理職比率はわずか19%でした。介護職に誇りを持ち現場で働いてくれている社員たちの多くは、自分には管理職の能力もないし管理の仕事は大変そうだし面白くないという固定観念を持っており、マネジメントはやりがいのある重要な仕事であるという認識がなく意識の壁を感じましたね。

管理職の仕事に魅力ややりがいを感じられない社員たちに、研修内容を各事業所の介護スタッフたちに教えることを義務付けました。人出不足のため一斉に受講できないことが発端でしたが、教えることによって学ぶことも多く、また、人に教えることの楽しさを感じることによって管理職への抵抗感が薄れてき、リーダーとしての能力養成やモチベーション向上に大いに役立ちました。実は、マネジメントは苦手だけど自分が経験したことを誰かに教えるのは好きだ、という女性は意外と多いのです。

こうした取り組みにより社員たちの意識が変化していき、女性管理職比率19%から76%向上に大きく貢献したと考えています。

――マネジメントしやすい組織への改革とは。

笹尾:こうした意識改革も重要ですが、運営を円滑に進めていくための組織改革も行いました。入社2年目の社員全員へのリーダーシップ研修を取り入れたことです。現場の管理職に仕事のやりがいを語ってもらい、財務管理やリーダーシップ理論を教えるだけでなく、具体例を挙げて演習を行うなど多方面から学び、リーダーとしての役割行動を理解してもらうことで管理職がマネジメントしやすい組織を作り、近い将来自分も管理職になると予感させる効果を生みます。

こうした人材育成によるモチベーションアップ、女性の活用、離職率の低減が組織の生産性を向上させ、結果として業界トップクラスの処遇となり賃金アップに繋がりました。

――これからの展望は。

笹尾:今年6月にシダックスの関連会社であるリゾートエステサロンを運営するシダックスビューティーケアマネジメントの社長に就任しました。介護と同様女性が活躍しているエステ業界ですが、処遇も良いとは言えず離職率も高い状況です。これまでの経験を生かし、エステティシャンの地位向上だけでなく、女性がやりがいを持って一生働ける会社づくりを目指していきます。

笹尾佳子:
1984年リクルート入社。「とらばーゆ」「ゼクシィ」などの営業を経て、2000年リクルートスタッフィングで営業アウトソーシングビジネスを立ち上げ100億円規模に成長させる。
2006年東京電力に転職。2007年11月、東京電力の子会社で介護事業を行う東電パートナーズに常務取締役として経営再建に入り、20億円の赤字を2年で黒字化。2012年7月から同社代表取締役を務める。このほど企業再建のリアルストーリー「業界未経験で、初めて企業再建いたしました。」(¥1296/朝日新聞出版刊)を出版した。
2015年6月より、シダックスの関連会社として全国約150か所のリゾートホテル・旅館のエステサロンを運営するシダックスビューティーケアマネジメント代表取締役社長、兼レオパレス21社外取締役に就任。

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