ホームレスの「囲い屋」として生きる若者を描いた映画「蜃気楼の舟」が渋谷アップリンクで公開されている。囲い屋とは、ホームレスの老人たちを連れ去り、人気のない地域に建てたボロ小屋で生活させ、その生活保護費をピンハネしている者のことだ。主人公の男は、それまでモノのように扱ってきたホームレスの一人に、自らの父を発見する。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
映画に出てくる囲い屋の若者たちは、「あたたかい毛布で寝れますよ」など、甘い言葉でホームレスの老人を誘い、人里離れた地域に連れていく。小屋では、若者たちから常に監視され、出ることは許されない。定期的に食事を与えられるが、その扱いは人権を無視したものだ。
主人公の男は、母を亡くし、父に捨てられた過去を持つ。友人に誘われたことがきっかけで、囲い屋で働いていた。ある日、それまでモノのように扱ってきたホームレスのなかに、自らの父を発見する。
実際、囲い屋は、埼玉、千葉、茨城などで多く行われている。約12万円ある生活保護費のうち、食費と宿泊費と称して10万円を受け取る。これは合法とされている。
2月3日、同映画の上映後、竹馬靖具監督は自立生活サポートセンター・もやいの共同代表である稲葉剛さんとトークショーを行い、囲い屋の実態や路上生活者への対応について話した。稲葉さんは1994年から新宿の路上生活者への支援活動を行ってきた。囲い屋にかんしては、「1999年ごろから広まってきた」とし、「ひどい小屋では、20人が一部屋に詰められるケースもある」と言う。
「路上生活者の対応に手を焼く行政は、必要悪として黙認しているところもある。なかには、囲い屋に入ることを条件に生活保護費の申請を通す役所もあると聞いている」(稲葉さん)
映画でも描かれているが、小屋で亡くなってしまう人は少なくない。死体はまるで壊れたおもちゃのように扱われていた。本名はもちろん、身元不明のままで、受取人もいない。稲葉さんは、「2020年の東京オリンピックに向けて、都心部の路上生活者を対象にしたこの囲い屋の勢いは、増していくだろう」と予測。「行政が路上生活者への施設を建てようにも、地域住民から反対がでる。そのため、囲い屋に頼らざるを得ない状況になっている。社会が路上生活者と向き合ってこなかったことが原因」と指摘した。
■作品に「答え」求めないで
監督の竹馬さんは10年前に偶然ニュース番組で囲い屋の問題を知った。ニュースを見ながら、もし囲い屋の世話をする人が親だったらどうなるのか、ふと頭に浮かんだという。そのような思いを漠然と抱えながら、2011年の東日本大震災を迎えた。震災後、「映画を通して何か伝えたい」という思いが強くなり、そのときに本格的に脚本を書きはじめ、製作を始めた。
伝えたいのは、囲い屋の問題点だけではない。囲う側が、人を人だと思わないで扱うことは人間関係のさまざまなシーンで起こり得る。「人の内面を描いた。主人公の男が抱えている思いは、どの人も抱えている思いなはず」と話した。
物語の終わり方にもこだわった。「すべての作品にハッピーエンドがあるわけではない。いつも作品の中に『答え』が用意されているとは限らない。世の中には、単純化できないものがある。能動的に鑑賞して、感じ取ってほしい」。
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