日本では、処方箋を持参し薬局に行けば当たり前のように購入することのできる「くすり」。しかし、発展途上国の現実はそうではない。世界には、貧困や医療システムの不備などから必要な医薬品を入手できない人が約20億人いるといわれる。皆さんは、このような発展途上国・新興国における医薬品アクセスの問題に対するエーザイの取り組みをご存じだろうか?(MAGADIPITA支局=久保田 惟・慶應義塾大学総合政策学部1年)

エーザイの貧困層への取り組みを聞いた

エーザイの貧困層への取り組みを聞いた

■DEC錠無償提供プログラムとは

エーザイは2010年に、リンパ系フィラリア症制圧のため、治療薬であるDEC(ジエチルカルバマジン)22億錠を2013年から7年間にわたってWHOを通じて蔓延国に無償で提供することを発表した。リンパ系フィラリア症(http://atm.eisai.co.jp/ntd/filaria.html)は、WHOが定めた「顧みられない熱帯病(NTD: Neglected Tropical Diseases)」の一つで、アフリカや東南アジアなどの途上国や新興国を中心に、世界73カ国、約1億2,000万人が感染し、14億人以上が感染のリスクにさらされていると推定されている。

リンパ系フィラリア症は3種類ある駆虫剤のうち2種を併用して治療されるが、そのうちの一つであるDEC錠は世界的に高品質な製品が不足する状況にあり、制圧に向けた大きな障害となっていた。このような状況の中で、エーザイはDEC錠を無償で提供することで多くの感染患者や感染リスクのある人々に救いの手を差し伸べたのだ。

エーザイでは、このような医薬品アクセス改善に向けた取り組みは、人々の健康福祉に貢献することでこれらの国々の経済発展や中間所得層の拡大に寄与し、結果としてその国全体を将来的成長につなげる長期投資と位置づけている。単なる一時的な寄付に留まるのではなく、長期投資として位置付けることで、企業として継続的に覚悟をもって取り組むことができるのだ。

リンパ系フィラリア症 | 顧みられない熱帯病について | Eisai ATM Navigator(http://atm.eisai.co.jp/ntd/filaria.html)より引用

リンパ系フィラリア症 | 顧みられない熱帯病について | Eisai ATM Navigator(http://atm.eisai.co.jp/ntd/filaria.html)より引用

■エーザイが掲げる企業理念「hhc(ヒューマンヘルスケア)」

エーザイがこのような考えのもと医薬品アクセス向上に向けた取り組みを実践できるのは、「患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献すること」を企業理念として定めた、「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」理念(http://www.eisai.co.jp/philosophy/hhc/index.html)がグローバル社員一人ひとりに浸透していることによるものだ。

「このhhc理念を実践するために最も重要とされているのが、社員一人ひとりが患者様の傍らに寄り添い、患者様の目線でものを考え、言葉にならない患者様の想いを感じ取ることだ。患者様の想いを事業に反映させ、多くの人のヘルスケアを向上させるためには『共同化』がキーワードになる」と高山氏は語る。

講義が終わっても、生徒からの質問は続いた

講義が終わっても、生徒からの質問は続いた

■「共同化」を重視したイノベーション

エーザイでは、hhcを実現するため、社員が「知識創造理論」に基づいたhhc活動に参加し、創意工夫しながら日常業務を通じて、患者さんの真のニーズを満たすイノベーション実現に取り組んでいるという。

知識創造理論SECIモデルは、共同化、表出化、連結化、内面化、の4つのフェーズから構成され、暗黙知と形式知の相互変換を通して、新たな知を創造するイノベーションモデルだ。エーザイでは特に「共同化」というキーワードを重視し、世界中の社員が就業時間の少なくとも1%を用いて、患者さんと共に過ごす(コミュニケーションを行う)ことに重点を置いたhhc活動に参加することを推奨している。

患者さんと共に時間を過ごし直接共感することで、「他人ごと」ではなく「自分ごと」としてとらえることができる。それによってはじめて、患者さんの真実(喜怒哀楽)を理解できると考えているからである。リンパ系フィラリア症治療薬DEC錠の無償提供プログラムにおいても、患者さんとの共同化という「場」作りが重視されている。共同化の次には、組織が対話を重ねながらいかに支援するかをコンセプト化(表出化)し、関連部署をはじめWHO、保健省、コミュニティなどの社外パートナーとの連携が必要になる。

こうした連携には、関係者との対話を通じて意見を表出化する「場」の創造と、アクションプランの立案(連結化)、アクションプランの実行(内面化)が重要だ。こうしたSECIモデルのプロセスを通じて、患者側の真のニーズを理解し、中長期的に患者さんを取り巻く環境を改善するための様々な活動に結びついているという。高山氏の話から、まさに「共同化」がエーザイの強みやユニークさにつながっているのだと感じた。

エーザイ..

私たちは、日常の中でも多くの人と接し、コミュニケーションを行っている。共同化というキーワードは、日常生活にも通じる部分があり、それは単なるコミュニケーションの次元ではなく、相手との時間の共有を通じて相手と自分のそれぞれの内在的な気持ちを相互に汲み取る状態だという。しかし果たして実際そのようになっているのだろうか。日常という「場」で、感情を交換するという感覚を持てていないように感じた。他者理解から社会イノベーションにつなげるという難しいテーマを考える一つのヒントにもなった。
次回はSONYの障害者雇用における取り組みとこれからの障害者のあり方をレポートする。

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佐野氏05

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