日本人にメッセージを届けるため、「平和」の賢人たちが相次いで来日する。先週の、ホセ・ムヒカ元ウルグアイ大統領の初来日に続き、来月にはノーベル平和賞を受賞したカイラシュ・サティヤルティ氏、「積極的平和」を提唱するヨハン・ガルトゥング博士の来日が予定されている。今年は安保法が施行され、日本の平和主義が大きく変わる年。賢人たちは何を伝えるのか。(オルタナS副編集長=池田 真隆)
4月5~12日まで滞在した、ホセ・ムヒカ元ウルグアイ大統領(以下ムヒカ氏)は、軍備の拡張について、「膨大な軍事費で無駄使いされているお金を貧困や環境問題に使うべき」と主張。安保法を制定するために憲法の解釈を変えたことについては、「大きな過ち」と批判した。
東京外国語大学(東京・府中)で講演し、「家族」を持つことの大切さを若者に伝えた。ムヒカ氏が言う家族とは、血縁関係のある家族ではなく、同じ考え方を持つ仲間のことを指す。「人生を1人で歩まないでください」とし、同志とともに生きることを勧めた。
■児童労働根絶へ、シンポ
ムヒカ氏の来日から1カ月後の5月13日には、カイラシュ・サティヤルティ氏(以下カイラシュ氏)が来日する。カイラシュ氏は30年以上にわたり、世界の児童労働問題に取り組んできたインドの人権活動家である。2014年10月には、パキスタンのマララ・ユスフザイ女史とともに、ノーベル平和賞を受賞した。
カイラシュ氏を招へいしたのは、児童労働問題に取り組む認定NPO法人ACE(東京・台東)。カイラシュ氏は17日まで滞在し、児童労働政策フォーラムや一般向けのシンポジウムなどに登壇する。
政府主脳や議会関係者との懇親会も予定している。5月26・27日、伊勢志摩で開かれるG7サミットでは、日本が議長国を務める。サミットに先駆け、日本が児童労働問題の解決に向け、主導的役割を果たすよう求める。
国際労働機関(ILO)の調査では、世界の児童労働者数は1億6800万人とされている。世界の5歳から17歳の子どものうち、9人に1人に該当する割合だ。2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)では、「2025年までに、すべての形態の児童労働を終焉する」と目標が掲げられている。
一般向けのシンポジウムは5月14日、文京学院大学仁愛ホール(東京・文京)で開かれる。シンポジウムでは、カイラシュ氏も参加してのパネルディスカッションが行われる。モデレーターに葭内ありさ・お茶の水女子大学附属高等学校教諭を迎え、パネリストには、モデルの鎌田安里紗さん、ピーター D. ピーダーセン・イースクエア共同創業者、岩附由香・認定NPO法人ACE代表/児童労働ネットワーク事務局長が揃う。
■平和学の父、「日本人にフラストレーション」
5月22日には、「平和学の父」ことヨハン・ガルトゥング博士(以下ガルトゥング博士)の講演会が横浜で開かれる。ガルトゥング博士は、これまでに200以上の国家間、宗教間紛争を調停してきた経験を持つ。平和を戦争のない状態と捉える「消極的平和」に加え、貧困、抑圧、差別などの「構造的暴力」がない「積極的平和」を提唱している。
ガルトゥング博士の来日は昨年に続き2年連続。招聘しているのは、関根健次・ユナイテッドピープル代表/一般社団法人国際平和映像祭代表理事だ。クラウドファンディングサイト「モーションギャラリー」で来日費用を調達している。
昨年の来日では、安倍昭恵・首相夫人との対談や一般向けに講演して、「積極的平和」を伝えた。ガルトゥング博士は日本が抱える国際的な課題についても、解決策を提示した。
例えば、日中で領有権をめぐり対立している尖閣諸島問題では、日本と中国が4割ずつ管理し、残りを尖閣諸島周辺の国々が環境保護のために管理する案を提示。そして、憲法9条1項を好戦的な国の憲法に入れるべきと主張した。
近年、脅威となっている過激派組織ISに対しては、「防衛が最大の攻撃」とした。「一人のテロリストを殺すと、10人の新たなテロリストが生まれる」と言い、対話の窓を閉ざさずに、防衛に徹することを勧めた。
今回の来日では、5月22日に横浜・関内ホールで1000人規模の講演会を行う。24日には都内でもトークショーを行い、俳優でリバースプロジェクト代表の伊勢谷友介さん、SEALDsの奥田愛基さん、映像作家の丹下紘希さんらをゲストに招く。
ガルトゥング博士を招聘する関根氏は、「昨年来日したとき、博士はフラストレーションがたまっていた」と明かす。その理由は、日本人の観客の反応の薄さに対してだという。「博士が期待していることは、博士のアイデアを材料として、国民一人ひとりが自らの国の平和に向けて、クリエティブに発展させていくこと」と話す。
関根氏は「若い世代に博士のメッセージを届けたい」と言う。講演会では100~200人の大学生を招待する予定だ。
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