REACH規則*は、EU(欧州連合)における工業用の化学物質の安全な利用を監督するための 規制である。この規則は、化学企業に対して製造した化学物質の安全性に関する情報を提出することを義務付けており、そこには動物を用いた毒性試験のデータが含まれている。(寄稿:Jarlath Hynes=ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナル 科学政策アドバイザー、訳:山﨑佐季子=ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナル 日本コミュニケーション・コンサルタント)
この規則を所管する欧州化学機関(ECHA) によると、最終期限である2018年までに25,000件の化学物質の登録が必要であると推定されており、このほとんどの化学物質について、皮膚感作性試験のデータが必要となる。
皮膚感作性とは、化学物質により引き起こされるアレルギーの一種である。化学物質が皮膚アレルギーを引き起こす物質であるかどうかを評価するために使われてきた方法は、マウスを用いたマウス局所リンパ節増殖試験(LLNA)という試験である。REACHのもと、すべての化学物質の試験を実施するためには、最大50万匹ものマウスが必要となる。
しかし、現在は、化学物質が皮膚感作を引き起こすかどうか評価するための、より洗練された、動物を用いない方法の組み合わせが開発されている。これらの新しい方法は「有害転帰経路」(AOP)という概念を基盤とし、日本を含む、34カ国の専門家により開発されたものである。
これらの方法は、分子生物学に関する最新の知見に基づいたものであり、毒性を、生きた動物を使わないインビトロ(「試験管内で実施する」の意。培養細胞等を用いる手法を指す)の試験で評価できるようになったのである。
動物実験を削減するという利点以外に、これらの新しい方法は、従来の方法より適切にヒトや環境に対する影響を評価できるような情報を生成することができる。将来、これらの方法のほうがより低コストかつ短期間で実施できるようになり、皮膚アレルギーを引き起こす可能性のある化学物質を迅速に評価することができるようになると期待される。
ヒューメイン・ソサイエティー・インターナショナル(Humane Society International, HSI)は、動物実験に代わり、動物を用いない新たな試験方法をEUに受け入れてもらうためにロビー活動を展開し、成功を収めている。
2016年4月に、これらの動物を用いない試験が、皮膚感作性を評価する試験としてREACHに採用されることになり、これによって、2018年の期日までにすべての化学物質の試験を実施するために必要な動物の数を大幅に削減できると期待されている。
これは、不必要で残酷な動物実験を廃止する取り組みにおいては、重要な一歩である。動物実験しかいまだに受け入れられていないその他の毒性についても、研究を促す足がかりとなるものである。
HSIは、動物を用いない試験方法への世界的な移行に関する取り組みにおいて鍵となるプレーヤーであり、HSIの専門家は、AOPの概念の開発のためにOECDと協働し、評価済みの代替法がある個所での動物実験の廃止を目指して、各国の当局や業界に対して働きかけている。
*REACH規則とは、 ヨーロッパの化学物質登録評価許可規則(Regulation on Registration, Evaluation, Authorisation and Restriction of Chemicals)である。
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