タイトル:電園復耕~大通りからそれて楽しく我が道を歩こう

なぜ人を押しのけて狭き門に殺到するのか?自分を愛し迎えてくれる人たちとの人生になぜ背いて生きるのか?
この書き下ろしは、リクルートスーツの諸君に自分の人生を自分で歩み出してもらうために書いた若者のためのお伽話である。(作・吉田愛一郎)

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◆最後のボール

返ってきたボールは低かった。啓介は殆ど後ろ向きになってやっと逆シングルキャッチした。キャッチしたボールを左手首を上に跳ねるようにして浮かせると右手でそのボールを受け取った。
「すいませーん!上着脱ぎます」
相手がグラブを挙げてOKしたので、グラブとボールを芝生に置いて上着を芝生の上に脱ぎ捨てた。見ると
吉田も上着を脱いでいた。無造作にたたまれた上着が古く黒ずんだサードベースに見えた。

啓介は左足を少し上げてから踏み込んで投げてみた。
強いボールが吉田の胸元に向かって走って乾いた音を立てた。ぱーん。ハワイ大学から日本のセパ3球団団渡り歩いた人間掃除機ダニー吉田は右に大きく飛んでから、シングルハンドで低いボールを裁いた。取るのではなくまさにさばいて見せた。ピリピリピリとホイッスルが鳴った。振り返ると深緑の松林の向こうに白い皇居の壁が浮くように見えた。ホイッスルがまた鳴った。松の木の陰から出て来た警官がこちらに向かってやってくる。ホームランだと思ったレフトフライが左に切れてファールになった時の線審のジェスチャーの様に、両手で引き戸を閉めるように右から左に押してから両手で体の前に×を作っている。

多分キャッチボール禁止!とかなんとか言っているのだろう。啓介は吉田を見た吉田はラストと言いながら精一杯のボールを啓介の左肩の少し上に返して来た。啓介はそのボールを右に張り叩くようにキャッチしてからサイドスローで吉田に返した。そしてしゃがんだ。しゃがんでブルペンキャッチャ―の姿勢になると左足を大きく投げ出した。股間に拳を挟んでグーチョキパーをした。

吉田は大きくうなずくとピッチャープレートを蹴るようなしぐさをしてから大きく上げてから、少しよろめいた左足を踏み込んだ。ホールが手の先からすっぽ抜け気味に上昇した。

最後のボール

ボールは啓介の頭を越してから力なく芝生を転々とした。啓介はキャチャーマスクを外してボールを追いかけるしぐさをして何歩か走ったが、そこにはボールは警官に拾った警官が立っていた。「アウト」定年間近の警官がボールを持って近づいてきた。「早く出なさい。このボールは没収だ」

啓介は吉田を見た。警官も吉田を見ておやと言う様な顔をした。すると吉田は警官に「サインしましょうか?」と笑いながら言った。「それじゃ」と言いながら思わずボールを差し出し、吉田の方に歩き出した警官は思い出したようにその手を引っ込めて言った。

「ここは禁止だって言う事は知ってるんでしょう」と無理に険しい顔を作って吉田をたしなめた。
「済みません。もうしません。もうできないんですよ、今日が最後の日なんです」

文・吉田愛一郎:私は69歳の現役の学生です。この小説は私が人生をやり直すとすればこうしただろうと言う生き方を書いたものです。半世紀若い読者の皆様がこんな生き方に興味を持たれるのであれば、オルタナSの編集スタッフにご連絡ください 皆様のご相談相手になれれば幸せです。

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