伊藤忠商事は7月28日、東京本社で「夏休み環境教室」を開いた。これは、1992年から続けている恒例行事であり、24回目の今年は、近隣の小学生37 名とグループ社員子女39 名の計76 名が参加し、生物多様性や自然災害について学んだ。特別ゲストとして、世界自然遺産の小笠原諸島からアオウミガメが登場し、小学生たちは初めて見る生き物に目を輝かせていた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

クイズでアオウミガメについて教える、認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャーの田中事務長

クイズでアオウミガメについて教える、認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャーの田中事務長

この活動は、同社の環境教育活動の一環。同社では「次世代育成」と「環境保全」に特に注力しており、東京本社がある港区青山近隣の小学生等に呼びかけた。今年は初めて、特別ゲストを迎えた。それは、小笠原諸島の海で生まれたアオウミガメ。

小笠原諸島は世界的に重要な絶滅のおそれのある種の生育・生息地であり、また、太平洋中央海洋域における生物多様性の保全のために不可欠な地域であるといえる。同社は、次代を担う子どもたちだからこそ、自分たちの目に焼き付けることが大切と考えた。「ウミガメを通して、生き物や環境の大切さを学んでほしい」(同社広報部CSR・地球環境室)と企画した意図を話す。

■大人になれる確率は1%以下

1000頭の子ガメのうち大人になるのは何頭でしょう?」――環境教室の講師を務めた、認定NPO法人エバーラスティング・ネイチャーの田中真一事務長は小学生たちにこう質問した。

小学生たちは、「半分」「100匹くらい」などと答えるが、答えはわずか「3から5匹」だという。「砂の中に卵を産んで、60日ほどすると孵化します。でも、卵はカニやアリなどに食べられることが多く、地域によっては豚やトカゲ、サル、たぬきなどに食べられてしまうこともあります」と田中氏は説明する。

手のひらサイズのウミガメも、大人になると甲羅の大きさは1メートルを超える

手のひらサイズのウミガメも、大人になると甲羅の大きさは1メートルを超える

孵化しても敵は多い。卵から生まれたウミガメは、木の根に絡まったり、カニや魚に食べられてしまう。田中氏は「自然界では捕食されるのは仕方がないこと」とするが、「人の活動が原因で死んでしまうことは問題」と強調。

孵化したばかりのウミガメは海の光を頼りに、砂浜を歩く。しかし、海岸の開発が進んだ地域だと、施設の電気の明るさを海と勘違いしてしまう。そうして、海とは逆の方向に歩き出し、道路に出て、車に轢かれてしまう事故が起こることもある。砂浜に商業施設などを建てられたり、護岸工事されたりすることで、ウミガメが産卵する場所がなくなってしまう。

ゴミ問題もある。空に飛ばした風船や空き缶、スポンジ、ペンなど海中の人工物を、ウミガメは食べてしまう。プラスチックケースに挟まり、動けなくなり、甲羅が藻で覆いつくされたカメもいた。

田中氏によると、「人が自然界に与える影響は大きく、人の生活がウミガメにどれだけ深く関わっているか知ってほしい」と注意を促した。

特別ゲストとして登場したアオウミガメのカメジロウくん(1歳)

特別ゲストとして登場したアオウミガメのカメジロウくん(1歳)

ウミガメは絶滅危惧種に指定され、生存が確認されているのは7種類だけ。「今日をきっかけに、一人ひとりが命ある生き物に興味を持ってくれたらうれしい」と田中氏は話した。

環境教室では、実際に、小笠原諸島からアオウミガメのカメジロウくん(1歳)が登場し、生まれたばかりの手のひらサイズのミニチュアと比較して、たった1年でどのくらい成長するのかを自分の目で見ることができた。それぞれが水槽に近づき、甲羅の模様や鼻や耳の位置などを観察した。

「本当かな?」亀の甲羅の四角模様は13個あると聞き、数を数える子ども

「本当かな?」亀の甲羅の四角模様は13個あると聞き、数を数える子ども

ウミガメの生態系について頭で学んだあとは、実践。プラバンを使用した小物づくりに挑戦した。プラスチックの板をウミガメが描かれた絵の上に載せ、黒マジックでなぞった。自らの手を動かすことによって、自然に、うろこの模様や甲羅の特徴を復習することができる。なぞったウミガメをハサミで切り取り、やすりをかけ、色鉛筆やカラーペンで色を付けた。

観察後に、うろこに細やかな模様を描く子どもも

観察後に、うろこに細やかな模様を描く子どもも

色の付け方に決まりはない。小学生たち一人ひとりが自由にウミガメを描いた。色を付けたウミガメは、オーブンで温める。プラスチックの板は縮み、マグネットを付けたり、キーホルダーになる。

この授業で初めてウミガメを見た小学6年生の出田丈太郎くんは、「1000個も卵を産むのに、大人になるのは3~5匹だけと聞いてびっくりした。ほかの生き物に食べられてしまうのはしょうがないと思うけど、人のエゴが原因で大人になれないのはさすがにひどい。無事に成長できるよう保護したいと強く思った」と感想を話した。

生物多様性の保全は、持続可能な開発目標(SDGs)で定められた重点課題の一つだ。伊藤忠商事では、生物多様性及び生態系の保護等を含む環境保全活動を続けており、2009年にはマレーシアでオランウータンも生息するボルネオ島北ウルセガマ森林再生プロジェクトの森林再生を行い、2016年3月にはブラジルで京都大学野生動物研究センターと国立アマゾン研究所と進めるアマゾンの熱帯林における生態系保全プログラムの一環としてマナティの保護活動の支援を始めた。国内でも、今後は、このウミガメの保全を通じた支援活動を、社員参加型の環境教育として展開していくことを検討していく。

 

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