伊藤忠商事とキッザニアを運営するKCJ GROUPは8月4・5日、小学生向けの職業体験「Out of KidZania(アウトオブキッザニア)伊藤忠商事」を同社の東京本社で開いた。この取り組みは、小学生に商社の仕事体験を通して、勤労観を育むことが狙い。同社の次世代育成を目的としたCSR活動の一環として開かれ、今年で3回目を迎える。小学生たちは、商社パーソンとして様々な難題の解決に取り組み、大切な3つの心得を学んだ。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

プレゼンに向けて最終準備をする小学生たち

プレゼンに向けて最終準備をする小学生たち

この取り組みの名称は、「Out of KidZania 伊藤忠商事 新技術でビジネスを生み出す職業体験」。同社と子ども向けの職業体験施設「キッザニア東京」を運営するKCJ GROUP(東京・千代田)が企画した。

同日は、事前に公募で選ばれた全国の小学4~6年生30人が参加。なかには、米国や京都など、遠方から参加した子どももいた。小学生たちは8月4・5日の2日間限定で、伊藤忠商事のキッズ商社パーソンになった。

特徴的なのは、通常の社会科見学とは異なり、子ども達の目線で新たなビジネスプランを提案するという点だ。取り扱うテーマは、実際に伊藤忠商事が取り扱う様々な業態の中から子ども達にとって身近なものを選んだ。次世代育成の一環で行われ、子どもたちの課題解決力を伸ばすことが目的である。

過去には瞬足のブランドビジネスや、ファミリーマートのコンビニビジネスなどをテーマに行ってきたが、3回目となる今回のテーマは、商社パーソンとして「新技術でビジネスを生み出す職業体験」。

ミドリムシを用いた商品開発や研究開発などを行うユーグレナ(東京・港)と協力し、ミドリムシを使った食品の新規商品を考えてもらうプログラムだ。

1日目は、ベンチャー投資やミドリムシの特性や効果について学んだ。ユーグレナは伊藤忠商事からの出資を契機に事業が拡大したこともあり、子ども達は商社パーソンとしてベンチャー企業への投資判断を行うワークショップを体験。

日本で初めて小学生で社長になったケミストリー・クエストの米山維斗社長もゲストスピーカーとして登場し、自らの体験を踏まえ、起業の経緯や、他社から出資を受けた立場としてベンチャー投資について話をした。

初日午後は、ミドリムシについて学んだ。顕微鏡での観察や、試食も行った。ミドリムシはワカメや昆布と同じ藻の一種で、植物と動物両方の性質を持つ。

ビタミンやミネラル、DHA(ドコサヘキサエン酸)など59種類の豊富な栄養素を含む。バイオ燃料の原料にもなるので、地球上の食料問題や環境問題の解決の一助を担う素材として注目されている。

これらのミドリムシの特徴等を踏まえ、子ども達には2日目に大きなテーマが与えられた。それは、「世の中の問題を解決するミドリムシを使った新商品と販促案を考えよ」。

6人1グループに分かれ、ミドリムシがどのような世界の課題を解決するか、そしてそれはどんな食品か、その商品と特徴、販促方法、メインターゲットなどを、自身の体験や、競合の商品を調べながら子どもたちが話し合った。

小学生たちは、企画して終わりではない。この取り組みの最後に、プレゼンテーションを行う。プレゼンの相手は、伊藤忠商事のユーグレナ商品企画担当者やユーグレナのマーケティング部の担当者など、実際にユーグレナの商品開発や販売に携わる社員だ。

準備してきた内容を発表

準備してきた内容を発表

 

会議室への入り方や挨拶の仕方など、社会人としての基礎はもちろん、効果的なプレゼンテーションの仕方など、事前のリハーサルで各チームが入念にチェックを行った。

5グループのプレゼン内容は小学生の純粋な思いを具現化したものばかり。売上の一部が被災地支援になるミドリムシ入りゼリー「あまゼリーナ」や、災害時にだれでも食べやすく栄養豊富で、容器も食べられるというミドリムシ入りドライフルーツ「チップレナ」など。

プロモーションにもこだわった。商品のメインターゲットに合わせて、新聞広告、TVCM、ネット広告、チラシ配布などを考えた。災害時の非常食を売り出す際には防災イベントでのPRや、病気の人を対象としたスープを販売する際には病院へチラシを設置するなど、適材適所の広告案を考えた。TVCMも考え、寸劇を行うチームもいた。

プレゼンで優勝したチームは、砂糖の代わりになる「緑糖」を提案した。これは、主に病院向けの商品。ミドリムシには59種類の栄養素がつまっており、病院食に入れることで、身体の栄養を蓄える。病院への業務用の販売をメインに考えているという点も大変ユニークだった。

小学生たちにするどい質問を投げる

小学生たちにするどい質問を投げる

プレゼンを聞いた、伊藤忠商事食料カンパニー食品流通部門に所属する新井誠貫氏は、「調理工程に入っていけるので、ミドリムシの食文化を根付かせられる企画で、大変感心した」と評価した。

小学生たちのプレゼンには、「ミドリムシが地球を救う」といったフレーズが多くあった。子どもたちの純粋な言葉を聞いた新井氏は、「どのプレゼンにも夢があり、忘れかけていた初心を思い出させてくれた」と絶賛した。

公募で選ばれた小学生たちは、初日は恥ずかしさや緊張が見られたが、次第に仲間と協力し合い、目の色が変わっていったという。商談ルームに入る前の子ども達の表情は人生で一番緊張したという小学生もいるほどこわばっていたが、皆堂々と各自の発表をし、終了後は達成感に満ち溢れた表情をしていた。

結果発表の際には、優勝を逃し、悔し涙を流した子どももいるが、それぞれの子ども達の本気は、大人の先輩社員の心をも、動かした。

小学生たちの指導員役とプログラムの統括を担当した、伊藤忠商事広報部の後藤麻希子氏は、「大人でも難しい課題を設定しているが、子ども達はそれぞれ意見を出し合い、途中議論や口論があっても、チーム内で最終的に一つの意見をまとめて、とても素晴らしい企画をプレゼンしてくれ、非常に頼もしかった。このプログラムを通して学んだ商社パーソンとしての3つの心得をこれからも忘れないでほしい」と強調した。

3つの心得とは、「攻めの姿勢」「あきらめないこと」「仲間と協力」。「この経験を通して、今後の学校生活などにおいても、様々な課題解決力を磨いてほしい」(後藤氏)。

この経験を踏まえ、子ども達は世界を舞台にした商社パーソンになるのだろうか。今後の彼らの活躍が楽しみだ。

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