福岡県東部にある上毛町(こうげまち)の山奥に、移住相談所がある。そこは世帯数11軒だけの里山集落で、駅はなく、路線バスも走っていない。しかし、2015年に1200人がこの相談所を訪れた。(オルタナS副編集長=池田 真隆)

上毛町の人口は約8000人、県内でも知名度は高くはない。その町の山奥にある集落はさらに知名度は低い。観光地はおろか、レストランやカフェ、ゲストハウスはない。しかし、この集落に全国から人が訪れたのは、コミュニティサロン「上毛町田舎暮らし研究サロン」(通称ミラノシカ)ができたからである。

同サロンでは、移住促進プロジェクトの運営や相談受付を行っている。このサロンで、地域おこし協力隊として働く西塔(さいとう)大海さんになぜ人が訪れるのかを聞いた。西塔さんは東京大学大学院を卒業し、2013年に上毛町に移住した。移住政策「みらいのシカケ」を担当し、古民家をDIYでリノベーションする教育プログラム「上毛デザインビルド」や、大学生を対象にしたフィールドワーク企画などに関わっている。

地域おこし協力隊として、2013年に上毛町に移住してきた西塔さん

地域おこし協力隊として、2013年に上毛町に移住してきた西塔さん

――2014年6月に「上毛町田舎暮らし研究サロン」(ミラノシカ)がオープンして、2015年には年間1200人が訪れています。この土地に訪れる人たちの動機はどのようなものが多いのでしょうか。

西塔:この集落は谷間の行き止りにあり、ミラノシカができるまでは、集落の人以外の出入りはありませんでした。今も、ここにはレストランもカフェもゲストハウスもありません。そういう場所に1200人がくるというのは大きな数字だと思っています。

ここに来る人たちの主な動機は移住に関してです。来館者1200人の内訳も7割程度が町外です。町外は関東圏、関西圏、福岡都市圏からが多いです。九州内の方は車でいらっしゃいます。それ以外の方は、電車です。隣の大分県中津駅まで来てもらえれば僕が迎えに行くこともあります。

――ミラノシカのことをどのようにして知り、訪れるのでしょうか。

西塔:1200人はほぼ口コミでいらっしゃっています。みなさんが人に紹介する時におっしゃるのは「面白い場所を見つけたよ」「いつも面白い人がいて、全国からヘンタイが集まってくるんだ」ということらしいです。

実際に面白い人(私たちは愛情を込めて「ヘンタイ」と呼んでいます)が集うことを大切にしています。スタッフも、元新聞記者のアドベンチャーマラソンランナー(砂漠やジャングルを専門に走る人)など個性的です。地域のおじいさんやおばあちゃんがフラッとやって来て、出会えたり、家に呼ばれたりするのも人気の秘けつです。

「新たな旅行の目的地」になっているという印象を最近は受けます。景勝地や温泉にいく代わりに、人との出会いがある場所としてうちを選んでくださるようです。

――移住希望者にはどのようにして、この集落の魅力を伝えていますか。

西塔:私たちは1日かけて、町を案内したり、町民を紹介したりします。観光地ではない町だからこそ、パンフレットや文字情報では面白いスポットや素敵な人には出会えません。それをコーディネートするのも私たちの仕事です。

また、最近は、町おこしや地域活性の相談や視察も増えました。「古民家を生かした場作り」「ちょっと変わった空き家バンクサイト しばいぬ物件案内」「上毛町ワーキングステイ」「東京への営業活動」その他にも大学連携や企業連携の仕方など上毛町の事例を紹介します。

視察やその手の相談は月4~5件はあります。案件が増えてきたので、個人的に「地域おこし協力隊の導入サポート」や「地域活性アドバイザー」などもさせてもらっています。

このような理由のため、ミラノシカでの滞在時間は平均で3~4時間程度。1週間泊まる方も珍しくありません。その場合は農家民泊で集落の方の家に泊まります。年間200人程度がそうしています。

――西塔さんは2013年に東京大学大学院を卒業し、地域おこし協力隊として上毛町に来ました。どのような経緯で、地域おこし協力隊になったのでしょうか。

西塔:大きな転換は、東日本大震災にあります。多くの人が感じた漠然とした「不安」。土と水があるところで暮らしたいという「想い」。それから新しい時代への「挑戦」。そのようなことをキーワードにして、生き方を模索していました。

震災直後から気仙沼で会社を立ち上げ、そこで地域活性を研究していた妻と出会いました。結婚のタイミングでもあり、「家族と暮らしいく場所」として移住先を探し、たまたま最初に上毛町のこの集落(ミラノシカがある有田集落)にやって来て、即決しました。

実は他の市町村はどこも見に行かずに決めてしまいました。上毛町への移住が先にきまり、その時点では上毛町の地域おこし協力隊募集はありませんでした。ただ、たまたま募集がはじまり、声をかけられ、「じゃ、なにかのお役にたてるなら」くらいの気持ちで応募しました。

――地域おこし協力隊の3年の人気を今年3月で終えられます。今後はどのような活動をしていく予定でしょうか。

西塔:「上毛町・里の研究」みたいなものを立ち上げます。物理が専門なので、やはり理論と実験の積み重ねが好きなんです。上毛町の知見をまとめていくことからはじめて、現在すでに「移住」「空き家活用/地域不動産」「地域情報発信」などをキーワードとした伴走型コンサルティングをやっていますので、次は「実践者の現場研究レポート」を出していきたいです。

それらの収益と知見をもとに、上毛町で空き家活用の「地域不動産」や、スモールハウスを中心とした新築を扱う「地域デザイン会社」を立ち上げ、儲けの出にくいゲストハウスなどにも投資していく予定です。

最終的な目標は、「自分の娘が、この集落のような里山で子育てができる、生きていけるという未来を残してあげたい」というところにあります。里山のラウンドスケープを守るため、進化させるために大切な資源となる「仲間」を集めているのが今の段階です。だから移住政策の仕事をしています。

【西塔大海】
1984年山形生まれ。東京大学大学院卒(科学修士)。不登校、ニート,フリーター、バックパッカーを経て大学進学。大学院卒業後の2013年に福岡県上毛町(こうげまち)へ移住し、地域おこし協力隊となる。移住政策「みらいのシカケ」を担当。古民家をDIYでリノベーションする教育プログラム「上毛デザインビルド」や、大学生フィールドワーク企画などに関わる。田舎暮らし研究サロン「ミラノシカ」の用務員。「みらいのシカケ」 https://www.facebook.com/miranoshika

◆西塔さんがミラノシカに人が集まるワケを明かすイベントが1月30日、東京で開催されます!

【イベント詳細】
日程:2016年1月30日(土)
時間 13時30分〜16時 (16時〜18時 自由交流会:無料)
開場:13時10分
定員:40人 peatixお申し込み順
会場: sooo dramatic!(日比谷線入谷駅から徒歩1分、JR鴬谷駅より徒歩6分、上野駅から徒歩12分)
お申し込みはこちら

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