著者は、防災士の小川光一さん。岩手県陸前高田市を舞台にした防災ドキュメンタリー「あの街に桜が咲けば」の監督だ。東日本大震災を機に、防災を学び、若者世代へ映画や講演を通して啓発を行う。なかでも、講演会の回数は2014年からの2年間で180回に及ぶ。

同書では、地震だけでなく、津波、風、火山、雪などあらゆる災害に対しての、取り組みが書かれている。災害が起きたときの人の行動を分析した章もある。「その場に凍り付いてしまう人」「貴重品を取り戻すために、家に戻ってしまう人」「みんなといるから安全だと思ってしまう人」など。それぞれのタイプに合わせて対処法が載っている。

印象的だったのは、「想定内」にとらわれてはいけないということ。学校現場などで、「地震が起きたら机の下に潜れ」と教わってきた。急所である頭部を守るためだ。だが、同書では、その行為を「教育の幻想」と指摘する。

その理由は、机の下に潜っても、隣接する建物ごと崩壊してきたら、意味がないからだ。もちろん、机の下に潜ることを否定しているわけではない。危険なのは、盲目的に「地震が起きたから机の下に潜る」という行動を取ってしまうこと。その状況を見て、何が一番良い行動なのかを考えなくてはいけない。想定内にとらわれ過ぎてはいけないのだ。

小川さんは、「小中高生に防災のことをもっと知ってほしい」と強く主張する。高齢化する日本社会で、未来の防災力になるからだ。

実際、子どもたちが大人を災害から救った例は数多くある。近年では、スマトラ沖地震でも、東日本大震災でもそれが見られた。イギリスの10歳の少女が、家族とクリスマス休暇で、タイのプーケット島にあるマイカオビーチに遊びに来ていた。海を見ていた少女は、「津波が来る」と察知し、両親に訴えた。母親たちは、子どもの予測を信じて、ビーチにいる全員を避難させた。こうして、約5000人の犠牲者を出したプーケット島において、マイカオビーチだけは人的被害が出なかった。

少女が津波を予測できたのは、予知能力があったからでも何でもない。少し前に、学校の授業で地震と津波について教わっていたからだ。そのため、海面が下がり、泡立つ現象を目にし、津波が来ると思ったのだ。

東日本大震災でも、「釜石の奇跡」がある。震災の直後、釜石市の小中学生たちが、率先して大人を連れて、高台に避難した。同市では、1000人以上が亡くなってしまったが、小中高生の99,8%は助かった。子どもたちが、自分の何倍も年をとった大人たちを先導できたのは、日ごろから、同市が防災教育に力を入れてきたから。

■なぜ防災をするのか?

防災というと小難しい話だと身構えてしまう人がいるだろう。はたまた、「自分はきっと助かるから大丈夫」と思い込んでいる人もいるだろう。そのような人に向けて、防災を行いたいと思わせる動機は、冒頭に書かれている。

この本の冒頭はネコの親子のこんな会話から始まる。親が子ネコに、「地震が起きて、被害に遭ったら、何がつらいと思う?」と問いかけると、子ネコは、「家が壊れることもつらいけど、一番はパパやママ、友達に会えなくなることかな」と答える。そして、子ネコは、大切な人と生き延びるために、防災が大切なのだと気付く。

防災月間の9月に読んでおきたい一冊だ。

『いつ大災害が起きても家族で生き延びる』(ワニブックス)

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